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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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ONOMICHI ようこそ白猫亭へ、アン part1

 降りしきる雨の中、アンの前に現れた怪物を包む光はだんだんと弱く小さくなって、それと共に怪物の姿も小さくなり最後にぱあっと無数の小さな光の粒をまき散らせるとーそこには一匹の美しい白猫がたたずんでいた。


 白猫は気を失っているアンに近づくと、深い海のような青い右目と真夏のひまわりのような黄金色の左目ーいわゆるオッドアイと呼ばれる左右で色が違う瞳ーで、その姿をじっと眺めていた。


 血の気の引いた顔色は青白く、長い石段を転がり落ちたせいで雨に濡れ、泥にまみれた白いTシャツのあちこちに血が滲み、ひどい打撲を負っているのがわかる。


『フンッ』と面倒臭そうに鳴くと、白猫の体が再び光に包まれだした。ただしそれは先ほどまでとは違い柔らかな優しい光で、だんだんと強く広がってゆくと最終的にアンの体をすっぽりと包み込んでしまった。


 しばらくたち、光が引いてゆくとアンの頬に血の気が戻っており、出血も止まっている。

「う……うん……」

 意識が戻り始めたアンを見下ろし、白猫は体全体で大きく伸びをしてあくびをすると、まるで『ああ、疲れた』とでも言わんばかりに『ニャオオオウ』とひと鳴きして木々の中へとその姿を消した。


 しばらくして目を覚ましたアンは、自分の置かれている状況に困惑した。

 「あたし……気を失っていたの?怪物みたいなおかしな二人組に追いかけられ、階段で足を滑らせて……あれは夢?」


 長い石段を転げ落ちたにしては服は汚れているもののケガも痛みもないのだが、右のこぶしにはあの狼男のような怪物をぶっ飛ばした痺れるような不思議な感触がまだ確かに残っていて、周りに目をやると何かが燃え尽きたような跡と、見覚えのあるカーゴパンツとスニーカーだけが転がっていた。


「夢じゃない……これは何?この街を訪れてから、何だか不思議なことばかり起こってる……まるで、太郎おじちゃんのお話の世界に迷い込んだみたい……」


 曽祖母を知る人たちとの偶然すぎる出会いに、まるで映画や小説に出てきそうな怪物に変身して突然襲ってきた二人組。そして、明らかにその強さを増している自分の魔法の力。


 アンは身の回りで起こる不思議な出来事のすべてを、まだリアルには受け止められずにいた。

 

「でも、何がどうなっているのかさっぱりわかんな……い?いやあああん!!」

 アンは大きな悲鳴をあげた。見上げた石段の途中に、履いていたサンダルや肩からかけていた小さなバッグがメチャクチャに散乱しているのが見えたのだ。


 慌てて駆け上がってみると、自慢のサンダルは右足は無事だが左足は高いヒールがポッキリと折れた見るも無残な姿になっており、口が開いたバッグからはスマートフォンや小物が飛び出して泥まみれになっている。


「あああ何よもう〜!勘弁してよ!!!」

 びしょ濡れになったバッグの中身を回収し、サンダルを履くが片足だけハイヒールではバランスが取れず、アンは泣く泣く無事だった方のヒールももぎ取り履いてみた。

「う〜ん、まあ何とか歩けるわね。本当にもうサイアク!」

 アンは折れたヒールと自分がもぎ取ったものをまとめて大事にカバンにしまい込んだ。


「ああ、もう!後で何とか靴の修理屋さん探して直してもらわなきゃ!高かったんだからコレ!」


 その拍子にカバンの中にしまってある白猫亭からの招待状に目が止まり、つまみ上げるとしかめっ面でボヤいた。

「何だか、アンタを受け取ってからロクな目にあってない気がするんだけどお〜!不幸の手紙ってわけじゃないでしょうね?ちょっとは責任感じなさいよね!!」

 

 そうこうしているうちに日は暮れ、降り続ける雨はどんどん強くなってそれに伴い初夏とは思えないほど気温が下がってきた。


「びえっくしょんんん!」

 アンは大きなくしゃみをすると、ぶるるっと体を震わせた。

「バカなこと言ってないで、早く白猫亭に行かないとこのままじゃ風邪ひいて死んじゃうわ!」

 長い石段を見上げて大きくため息をついた後、キッと顔を上げ、アンは覚悟を決めた。


「と・に・か・く!前に進むしかないって訳よね。いいわよ、何が出るかどうなるかなんてわかんないけど、行ってやろうじゃないの!またさっきみたいな訳のわかんない連中が来ないうちに、こっからは全速力で行くわよ!待ってなさいよ白猫亭!」


 ぺったんこになって歩きやすくなったサンダルの音を石段に響かせて、アンは一気に階段を駆け上がった。

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