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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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白猫亭へーアン part2

 白猫亭を目指して歩き出したアンだったが、十分もしないうちに激しく後悔していた。


「なーんでこんなにガタガタな道なのよ!歩きにくいったらありゃしない!」


 千光寺山の山頂に向けての道は、高さも幅もバラバラの石造りの階段が続く坂道となっており、都会育ちのアンにとっては普通に歩くだけでも想像以上に疲れてしまうのだ。

「おまけに今日はこれだもんなー」

 アンは改めて足元を見つめ、高さ120ミリのとびっきりハイヒールのルブタンのサンダルを履いてきた自分の運の悪さを呪っていた。


「でも、お寺や神社もあるけど、意外と普通のお家やお店も多いんだ。みんなこの坂道を使ってフツーに暮らしているのよねえ。尊敬しちゃう」


 尾道というと寺社仏閣の多い古都のイメージがあるのだが、山肌に沿って続く道の両側には普通に生活を送っているであろう住宅や古民家を改造した静かなカフェ、お客が二人も入れないほど小さなパン屋などがあり、他の観光地とはひと味違った落ち着いたノスタルジックな空気が漂っている。


 坂道をふうふう言いながら歩いているうちに、アンはあることに気がついた。


「初めてきたのに、何でこんな気持ちになるんだろう。

 懐かしくって、でも……すごく……さびしくて……」


 ラーメン屋での出来事もそうだったが、自分自身が予想もしていなかった感情が湧き上がってくるのだ。

「なんだか、この街に来てから胸の中がずうっとザワザワしてる。それに……」


 誰かに見られているような、そっと守られているような不思議な感覚が、山の中に入ってから一層強くなってきている。


「曽祖母ひいおばあちゃんのお家ー白猫亭へ行けば、何かわかるかもしれない」


 予感のような、あるいは直感かもしれない衝動、その想いに導かれるようにアンは歩を進めたがー。


「あ!やだ、もう!」


 ラーメン屋の店主に書いてもらった地図が正しければ、あといくつかの角を曲がって進んでいけばたどり着くというところまで来たところで、ついにポツ、ポツッと雨が降り始めてきた。


「これ以上、雨足が強くならないうちに急がないと!」


 アンが速度を上げたその時だった。

「ハーイ、コニチワ!オジョウサン!」


 いつの間にそこにいたのか、すぐ目の前に二人の男性が立っていることにアンは気がついた。

 一人は短髪の二十代くらいのにこやかな白人、もう一人は一回りくらいは年上であろう、口髭を生やした大柄な黒人で、二人ともTシャツにざっくりとしたカーゴパンツ、デイパックを背負ったカジュアルな服装の旅行者風の二人組だった。


「ソンナニイソイデ、ドコヘイクンデスカー?」

 先ほどから話しかけてくるのは若い白人の方だった。

『どこって、この先のホテルよ。あなたたち、旅行者なの?』

 アンの話す流暢な英語を聞いて、白人男性が驚いたように口笛を吹いた。


『なんてこった、コイツは驚いた!あんた「言葉」が喋れるんだ?ルックスは俺たちと同じだけど、日本育ちだから「言葉」は無理って聞いてたのに!ねえ、曹長(サージャント)?』

 相棒の方を振り返って歯を見せて笑う白人男性に、アンの中で警戒心が高まっていく。

曹長(サージャント)?あんたたち、兵隊(ソルジャー)なの?』

『ああ、「イワクニ」って知ってるかい?俺たちはあそこの海兵隊員(マリーン)さ。まあ、それはあくまで仮の姿で、本業は別なんだけどね』


「曹長」と呼ばれた黒人男性は表情を変えずに答えた。

『些細な情報の伝達ミスは緊急の作戦にはつきものだ、リック。

 それより喋りすぎだ。口より先に手を動かせ』

『オッケーオッケー、わかってますよ。ちょっとビックリしただけですよ』

 そう言うと、相変わらず笑顔を絶やさぬまま、アンに近づいてきた。


『いっそ、あんたが「言葉」が喋れない方が気が楽だったんだけど。まあ、仕方ない。悪いけどこれも仕事なんでねえ』


 降り出した雨がだんだんと強くなってきて、アンは身体中が冷えていくのを感じていた。

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