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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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ONOMICHI 『尾道 白猫亭』ジョシュアの思い

 「ふう、これで最後かな」


 汗ばむ陽射しの下、イングリッシュ・ローズをはじめ様々な観葉植物が見事に花開いた英国様式の庭園の中庭に円形の白いテーブルと椅子をセッティングすると、ジョシュアはゆっくりと腰掛けた。

 ポケットからスマートフォンを取り出し、『Memory』と付けられたフォルダ内の写真と目の前の建物を見比べ、ジョシュアは微笑んだ。


「ふむ。ほぼ完璧な再現具合だな。日本の建設会社もいい仕事をするじゃないか。さすがは我がイギリスやドイツと並ぶ職人(クラフトマン)文化の国だ」

 それらの写真はいずれも古い白黒写真を最新技術でカラー写真として再現したもので、屋敷の完成記念パーティーの様子や、夫婦が小さな赤ん坊を抱いているもの、また、そこから数年後であると思われる、笑みを浮かべる小さな男の子の手を父親が握り、ピンク色の肌着を着た赤ん坊を母親が抱いているものなど、西洋建築と日本建築が奇妙にして絶妙なハーモニーを奏でるこの建物『尾道 白猫亭』の外観、内装共に在りし日の様々な姿を映し出している。


「ま、高いペナルティ付き秘密厳守の作業と引き換えとは言え、相場の十倍もの報酬(ギャラ)とくれば、仕事も丁寧になるってものかな」

 

 お気に入りのアンティークのウエンズレイのティーカップに香り高いダージリンを注ぎながら皮肉っぽくつぶやいていると、突然スマートフォンが振動し、イギリスの国歌的な曲である「 God Save The Queen」ーただし、セックス・ピストルズ版のーがけたたましく流れてきた。


 ジョシュアは午後のお茶をゆっくりと楽しみながら、電話に出た。

「やあレスター、調子はどうだい?こっちはさすがは日本人だ。イタリア人やスペイン人に任せていたらコンクリートの三階建てにされてもおかしくはないほどの原型をとどめぬ荒廃ぶりから、完璧な再現具合だよ」


「ジョシュア様ああ!ご無事ですか!!!!」

 レスターのあまりの大声にジョシュアは苦笑いしながらスマートフォンを遠ざけた。

「ああ、大丈夫だよ。あんまり大声を出すと健康に悪いよ?」

「ーーそんな事はどうでもよろしいのです!ジョシュア様がおっしゃっていた通りーー」


 レスターはジョシュアの予想通り公認会計士であるクラークが裏切っていたこと、またその場で無残な死を遂げたこと、シンの協力により十二家内の内通者の目星がついたことを説明した。


「なるほど、ほぼ予想通りだな」

「ーーそれで、いかがですか?あの方を見つけることはできたのですか?」

「いや、まだだよ。まだ何の気配も感じられない」

「ーーそんな!早くしませんと、いつ連中にその場所が突き止められてしまうかもしれませんぞ!クラーク先生のことでよくわかりましたが、やはり連中は闇の魔法使いとつながっております!いかなる手段を用いてくるか、想像もつきません!」

「焦っても仕方ない。遅かれ早かれ奴らの手の者もここへやってくるだろうし、そうなったらそうなった時だよ」

「ーー何をおっしゃているんです!あなたに万が一のことがあったら、私は大恩ある亡きアーサー様に何と言っておわびすればいいのですか!父の墓前にも顔向けできません!!ええい、ここはやはり貴方様がいくら止めようと、私もそちらへ参ります!!!」


「レスター」

 苦笑まじりのジョシュアは落ち着かせるように言葉を選び、ゆっくりと話しかけた。

「君がいなければ、誰が我が家の管理をしてくれるんだい?第一、今からこちらに向かっても、おそらく到着するまでにすべてが終わっているよ」

「かと言って、このまま手をこまねいていてもー」

「それに、君は肝心なことを忘れている」

「肝心なこと、とは?」


「もうひとつのピース、最後の希望だよ。おじいちゃんが言っていたように、あの娘が揃って初めて運命の歯車は廻り出すんだ。イスカリオテと対峙できる未来への、ね」

「そ、そうでした。申し訳ございません。それで、彼女は?」

「まだ現れていない。だが、感じるんだよ」


 ジョシュアは眼下に見える街並みを見下ろしてつぶやいた。


「彼女が、もうすぐ近くまで来ているのを」

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