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7. エピローグ

「「たのもー!」」


 声を揃えて叫びながら冒険者ギルドに突然現れた、幼い少年と少女の二人組。

 10歳に満たない程のその二人は天使と形容したいほどに可愛い顔立ちをしていて、荒くれ者の冒険者ですら口元が緩んだ。

 よく似た顔立ちは、双子だろうか。


「冒険者に!なりに来ました!」

「お前らじゃちょっと早いかな。登録は12歳からだぞ、12歳になったら出直しておいで」


 猫撫で声で声をかけた男は気性の荒さで有名で、ギルドにいた全ての人間が口元を引き攣らせて彼を見た。

 気性は荒いが実は彼は大の子供好きである。


「例外があるって聞きました!実力があれば年齢に満たなくても冒険者になれるんですよね?」

「うーん、まあそうなんだけどね」


 ギルド職員が眉を下げる。

 この可愛い子供達を冒険者にしてしまうことに微妙に抵抗があった。

 しかし規則は規則。拒否はできない。


「分かった。試験は二つ。まずはギルドマスターとの手合わせ。勝つ必要はない。冒険者としてやっていけるかをここで判断する。それに合格できたら、次は実戦。実際にFランクの魔物と戦ってもらう。元冒険者の職員がいて、その人が試験官。危険だと判断したら割って入る役目も担う」

「分かりました!」

「スタイルは?」

「僕は剣」

「私は魔法!」


 元気よく声を張る子供達に、職員の頬も緩む。


「了解。試験は一人ずつだ。理由は分かるね?」

「「勿論」」


 縁起でもないので口にはしない。

 冒険者である以上、どちらかが倒れる可能性もある。そのときに生き残るため、個人の力が必要だ。


「名前は?」

「ローレン」

「アリーシャ」

「了解。じゃあこっちにおいで」


 奥から筋肉質な職員が出て来て訓練場に二人を案内する。試験官はこの人だ。

 冒険者は観戦すべくぞろぞろとついて行った。


「どっちからする?」


 子供二人は顔を見合わせる。目で話がなされたようで、僕からと男の子が挙手をした。


「よし。じゃあアリーシャは端に寄っといてな。ローレン、剣はこれ使え」


 はい、と職員が刃を潰した剣を手渡した。ローレンが普段使っている剣より少し重いが、使いこなせる範囲だ。


「好きなタイミングで来ていいぞ」


 ちょいちょいと職員が指で手招きをする。

 ローレンはその美しい顔にやけに似合う好戦的な笑みを浮かべ、次の瞬間には斬りかかっていた。

 カン、と鋭い音がした。


「やっぱり止められちゃったか」


 ローレンの苦笑を見ながら職員は背中に汗を伝わせていた。

 速い。そして、重い。

 冒険者を引退して早6年、素振りはしているが実戦がないために体が鈍っているのは事実。現役の頃なら余裕を持って止められていた一撃だったが、今の自分では結構ギリギリだった。未だに手が痺れている。

 ローレンがぱっと距離をとり、目を逸らさず細い息を吐いた。

 吐き終わったのと同時に、また斬撃が来る。今度は退くことなく剣が振られ続けた。

 そこからは無言。冒険者たちも言葉を発さず斬り合いに見入った。キン、キン、という剣がぶつかり合う音だけが訓練場に響く。


「終わりだ」


 勝ったのは職員。ローレンの喉元に剣先を突きつけそう宣言した。

 ローレンの剣を思い切り押し返しバランスを崩させたのだ。体重が軽い子供相手だからこそ簡単に決まったのだった。


「ありがとうございました。それで、どうですか?」

「文句なしの合格だ」


 肩で息をするローレンからほっと安堵の笑みが零れる。冒険者たちから歓声が上がった。


「じゃ次、アリーシャ。魔法使いだったな。いつでも始めていいぞ」

「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよトリプルアイスウォール」


 アリーシャが詠唱を終えた途端、アリーシャを氷の鎧が覆い、その周囲に分厚い氷の壁が出現した。場が騒めく。

 アイスウォールが鎧のように使えると知っている者は、この中には誰もいなかった。

 そして氷の壁がこれ程に厚いことも滅多にない。つまり、アリーシャの魔法の熟練度は冒険者の中でも群を抜いたものであることが分かる。

 驚いた職員だったが、すぐに平常心を取り戻し剣を振りかぶって駆け寄る。


「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよアースウォール」


 早口でアリーシャが詠唱する。土の壁が覆ったのはアリーシャではなく、職員の剣。本来魔法を纏った剣の攻撃力は上がるため、自分または他人の剣へのバフとして使われる。

 しかし今回纏わせた土は剣の鋭さを失わせるものだった。氷の壁を切り裂ける筈もなく、職員は鋭く舌打ちをした。


「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよウォーターウェーブ」


 詠唱したのは職員。大量の水の波が剣を覆った土を流す。


「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよファイヤーウォール」

「っつ!女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよダブルウォータートルネード」

「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよウィンドカッター。女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよアーストルネード」


 職員の目の前に火の壁が出現する。駆けた勢いで急には止まれず、髪に火が燃え移った。職員はすぐさまごく小さな水の竜巻を生み出し消火する。同時にもう一つ大き目の水の竜巻を生み出し火の壁を消火した。

 大きさの異なる二つの魔法を同時に使える職員の熟練度もかなり高い。

 しかし直後職員を無数の壁の刃が襲い掛かり、さらに土を巻き込んだ竜巻で視界が奪われる。

 職員は何とか風の刃を回避し避けられないものは剣で斬る。しかし最早勘頼みで、防ぎきれなかった風の刃が職員に切り傷を作った。


「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよアーススロープ」


 職員の詠唱で、氷の壁の少し手前に坂が出現した。

 アリーシャは元々ウィンドカッターを生み出そうとしていたが、慌てて水の波に切り替え詠唱をする。しかし波が坂をなくすより早く職員は生み出したその坂を駆け上がり、跳んだ。

 その体が氷の壁を超える。

 アリーシャは上から迫る職員に冷や汗をかき、慌てて次の詠唱を始めた。


「女神に魔力を捧ぎ請わん、出でよ――」

「終わりだ」


 詠唱は間に合わず、アリーシャの口は掌で塞がれ首元に剣が当てられた。

 口を塞がれてしまえば詠唱はできない。


「アリーシャ、短剣は持ってるのか」

「はい」

「今回みたいに危なくなったときには詠唱と同時に短剣を使えるようにしろ。一撃を防げれば可能性ができるだろう」

「分かりました、訓練しておきます」

「おう。アリーシャも文句なしの合格だ、何度か冷や汗をかかされた」


 職員は苦笑しながら頬の傷を触る。

 ローレンもアリーシャも、十分すぎる程に冒険者としてやっていけるだろう。


「おし、第一の試験は二人とも合格だ。次は実戦だな。もう要らない気もするが、規則だからな。対象はゴブリン。はぐれの1匹を一人ずつと、3匹の群れ、あと一角狼も出るからそいつを二人で連携して討伐してもらう。ついでに解体の腕も見るからな」


 と言いつつ、解体の腕は合否には全く関係ない。では何故そう言ったかというと、二人が解体に集中しすぎて周囲の警戒を怠らないかを確認するためである。

 まあソロではない以上、どちらかが解体しどちらかが見張りをするというのが通常なので、意味もあってないようなものなのだが。


 職員の引率のもとゴブリンが出現する森へ向かった二人ははぐれゴブリンを一撃で葬る。

 3匹の群れを探していると、遭遇したのは7匹の群れだった。


「どうだ?やってみるか?」

「やってみます。危なくなったらヘルプをお願いしたいです」

「勿論だ、そのための引率だからな。じゃあ俺はこっちで待機してるから」


 職員が距離をとる。一発目はアリーシャの範囲攻撃だった。そしてこの範囲攻撃で、ゴブリンは全て討伐されてしまった。

 ゴブリンの素材は持ち物も含め一銭にもならない。その代わり美味しくもないので放置しても魔物が寄ってくることはない。討伐の証拠はギルドカードに自動で登録されるので、一部を持って帰ることもない。仕組みは不明。


 続けて一角狼を探す。数十メートル程奥に進んだとき、気配がした。一角狼だ。それも、3頭。


「どうする」

「やります」


 一角狼は火で倒すと素材が駄目になる。さらに森の中で火を使えば気に燃え移る可能性もあり危険だ。

 ローレンが剣に氷を纏わせ、駆ける。

 舞うように剣を振るったその様子は試験のときとは全く違った。複数の敵が相手のときはこちらの方が適切だ。

 2分もあれば一角狼は全滅していた。素材は殆ど傷ついていない。職員はその技量に感嘆する。

 忘れがちだが、この二人はまだ10歳なのだ。

 二人は警戒を怠ることなく丁寧に解体を済ませた。


「二人とも、合格だ。文句のつけようがねぇな。じゃギルドに戻るか、正式に登録するぞ」

「「はい!」」


 ローレンもアリーシャも満面の笑みを浮かべる。

 意気揚々とギルドに戻った二人の表情から合格を察したのだろう、冒険者たちの歓声が出迎えた。


「何かあったら俺に言えよ!なんでも助けてやるからな!」


 そんな声がそこかしこから聞こえる。

 新人いじめは存在しない冒険者ギルドだが、ここまで好意的なのも珍しかった。顔の効果が絶大だ。

 説明を受け、二人は冒険者ギルドを後にする。


「明日、依頼を受けに行こうか」

「薬草採取がやりたいわ」

「ならそうしよう。そういえば薬草採取に役立つ新しい魔法を考えたって言ってたね」

「そう、サーチライトって名付けたの。薬草だけ光って見えるっていう魔法」

「アリーシャは本当にすごいね。魔法を工夫するだけじゃなくて、新しく生み出すなんて」

「えへへ」


⁑*⁑*⁑


 この後、ローレンとアリーシャは冒険者として駆け上がり、史上最年少のSランク冒険者が誕生することになる。

 そして、ローレンは剣神、アリーシャは魔法姫という二つ名で呼ばれるようになる。


「ローレンの剣神はいいけど、私の魔法姫はダサくない?」

「いやそんなことないよ。いかにも姫っていう見た目じゃないか」

「もうちょっと何かあるでしょ……」


 ぼやくアリーシャをローレンが宥めながら、いつものように二人はギルドからの帰り道を歩く。


「そういえばお母さんとお父さんは私達の歳の頃に私達を産んで冒険者をやめたのよね」

「ああ、そうだね」

「私お母さんとお父さんの出会いって聞いたことないなぁ……」

「母さんって元々冒険者じゃなかったんだよね。どうやって出会ったんだろう」


 考え出すと猛烈に気になってくる。

 帰宅して二人は両親に突撃した。


「お母さんとお父さんって、どうやって出会ったの?」


 母親はぱちりと目を瞬かせ、少し考え込む。

 そしてふふっと笑った。


「私の一目惚れね」


 絶妙に出会いを省いた説明だったが、二人は指摘しなかった。

 父親も照れたように微笑む。


「俺も一目惚れだったな」


 両親が目を合わせると、一気に甘い空気が出来上がる。

 いい歳してこれだからなあ、と二人は微笑ましい気持ちになった。


「お母さんはどうして冒険者になったの?」

「戦うレオンが好きだったから。怪我をするレオンを私が治してあげたかったの」

「父さんはそれで良かったの?」

「良い訳あるか。でもマリアが、俺が冒険者をやめるなら別れるとか言うんだよ。俺はそれに負けたって訳だ」


 愛する女が危険に晒されても俺の側にいてもらうことを優先する俺も俺だけどな、とレオンは自嘲した。

 だがレオンとてマリアが一般人の、ちょっと治癒魔法が使えるだけの女なら別れただろう。ひとえにマリアに戦闘能力があったからマリアの言葉を受け入れたのだ。


「なんで冒険者やめちゃったの?」

「お前らができたからだよ。冒険者なんて常に死と隣り合わせだし、お前らを残して死ぬ訳にはいかないから」


 だから本当は二人も冒険者になって欲しくなかったんだけれど、とマリアが苦笑する。

 それでも止めないのは、自分たちが冒険者だった過去があるから。


「私達が消えたSランクパーティの子供だって知ったらみんなびっくりするかな?」

「意外とあっさり受け入れられたりして」


 幸せそうな家族の笑い声は家の外にも響いていた。

これにて完結です。お読みいただきありがとうございました。

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