終焉
「かつて経験したことのない給付金」という派手な爆弾。
もちろんこの国にはすでに借金しかなかった。財源は底をついていた。
用意したのは二国であった。二国からわが国への提示であった。
二国は財政難に苦しむわが国に救いの手を差し出しただけと語った。
だから、返済など必要ないと。
提示金額は、国民一律100万円。年齢、収入、国籍さえ問わない。
ただ一点、国内に住んでることが証明されたら、オッケー。手続き上の手間を一切省いた。
現金が直接、書き留めとしてその住所に送られるとのことだった。
多数のコロナ死者により人口が減ったとはいえ国家予算に匹敵する膨大な額であった。
口座でなく現金、しかも金額が以前より格段に多かったことで国民は貯蓄でなく消費を選んだ。
好きなものを買ったり旅行に行ったり、その金と時間を楽しんだ。
経済もさらに活性化した。
海外旅行では買収された航空会社を使い、旅行先も半数以上が二国だった。
国内ではすでに7割以上をしめていた海外企業の店舗に多くの金は溶けていき、二国の元に間接的に戻っていった。あの給付金は、二国にとって先を考えれば安いものだった。
ある日、ネット上にこんな記事が書かれていた。
「あら、この国って二つに分かれてないか? ヤバいんちゃうの、なんて気のせいか笑」
同調するコメントはいくつかあったが、投稿者と同じくあくまでネタであった。
だが、ネタが事実だと知って、だからどうしただろうか。
会社のトップが変わっても、労働者たちはなにも気にしなかった。
以前より給与が上がるなら、それで幸せだった。
二国はその様子をある程度、予想できていた。
「やはりデモなんてありませんな」
「この国の国民性は労働に向いておる。何より勤勉じゃ。几帳面だし、時間も守るしの」
「これほどの労働力は他国にいないですな」
「間違いない。ところで、やつらは大丈夫じゃろか?」
やつらと呼ばれた……
多くのわが国のリーダーと呼ばれる者たちはなにもしなかった。
自分たちの時代はもうすぐ終わる。
十分に甘い蜜は吸わせてもらった。
その後のことは関係ないと。
大切なのは残された自分たちの人生。
彼らの本音だった。
与党野党ともに考えは一致していた。
あとは操られたまま演じていようと。
最後まで立派に建前だけを国内外に示し続けた。
国民はたった100万円で、自分たちが他国に売られたことなど知りもしなかった。
---し、か、し、
---たとえその事実を知っていたとして、何か変わったのでしょうか?
---答えは、否。
何も変わりはしない。
ただ、近い将来わが国がなくなる。
日ノ国という名前が世界から消えてしまう。
それだけのこと。