思惑
中ノ国主は考えていた。
今は世界最大の人口を誇っているが、少子化政策を行なって今後の人口は減っていく。
人手がこのままでは足りない、と。
加えて、選ばれて育てられている今の若者たちをみんな国内に留めておくのはもったいない、と。
今こそ、下準備のときがきた、と。
「そろそろ変異のピークが現れます」
例の研究所で働いていた人間がそう語った。
コロナの研究に関わっていた責任者。
次に起こるであろう変異について彼は知っていた。
「で、どれくらいなんだ?」
「早いでしょうね、おそらく今月中にはあらゆる国で一斉に爆発するかと」
「なら、ワクチンも追いつかないな」
「初期症状は今までと一緒です。ただ、放置すれば、数日で状況は一変しますよ」
「ウィズコロナで、今もほとんどの国にウイルスは残ったままだったからな、はっはっ」
「はい、そこを狙っての今回の拡散。結果、世界のほぼ全地域に混ざりました」
「見事だな。部下たちを使って、最毒化する相性抜群の人工ウイルスを流していくとは」
「すべて計画通りです」
「でも、彼らはそれを知らないんだろ。大丈夫なのか?」
「とりあえず今は隔離で新たな旅行に行ってもらってます。世界一周クルーズですよ」
「なるほど、かりにそこから感染者が出たら、排除すればいいだけか」
「お察しが早いですね」
「それにわがパートナー露ノ国も結果、自ら他国との出入りを切ったから問題ないな」
「ただ、あそこは隣国との戦闘でもう国力は残っていません。手を切ってもよろしいのでは?」
「だから、いいんじゃないか。うちには優秀な人材が山ほどいる。彼らを生かすチャンスだろ?」
「おお、すばらしいお考えです」
「それに、うちはひとりっ子政策の代償として人手がこれから必要になるんだ」
「人の交換ってことですか」
「指導者を与えて、労働力をもらう」
「結果、世界一になるんですね」
「ああ、次の変異株で世界中が危機的な状況に陥ってくれるだろうしな」
中ノ国主は終始、上機嫌だった。