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四話 ホブゴブリンスレイヤーはわからせる





(あれは…………)


 俺は、その姿に見覚えがある。

 間違いなかった。あの男は、先日、俺を襲ってきた騎士だ。

 なぜ、こんなところに、あんな奴がいるんだ? そう思い、混乱する俺だったが、その答えはすぐに分かった。


「あの騎士は、まさか、リザードランナーの王?」


「ああ、多分な」


 アベルの呟くような言葉に、俺は答える。

 騎士団と思しき連中に囲まれて現れた、あの男こそが、おそらくは、ゴブリンスレイヤーを倒そうとしていたゴブリンたちの王なのだろう。

 そして、どうやら、今まさに、戦いが始まるようだ。


「オーガスト!」


「ああ」


 俺はアベルに呼ばれて、立ち上がる。

 見れば、すでにアベルも立ち上がり、戦闘態勢に入っていた。

 俺たちはエルフの少女を連れて、森の中へと身を潜める。


「オーガスト、まずいね」


「ああ、まずいな」


「いくらなんでも、数が違いすぎる」


「ああ」


 そう、これはまずかった。

 4人で戦うにも、相手の軍勢が大きすぎるのだ。

 それに、俺たちには少女を守りながら戦わなければならないというハンデまである。

 しかし、今更、引き返すことなどできない。

 このままでは、全滅するだろう。

 だが、だからといって、何か策が浮かぶわけでもない。

 どうしようもない状況。絶望的な戦況。

 そんな中でふと、内なる声が脳裏に響いた。




( おまえはホブゴブリンスレイヤーだろう? ホブゴブリンさえ殺せればそれで良いはずだ。 おまえはそれだけのために生きているのだ )

( ホブゴブリン共はすぐそこにいる。 行け! 行って槍を突き立てろ! やつらを殺せ!殺せ!殺せ! 邪魔する者は道連れにしろ! 殺して殺して殺して殺し尽くせっ……!! )




 それはまるで悪魔の囁きのように俺の中に響く。

 そうだ、俺の目的はただ一つ。

 俺の家族を殺した憎っくき敵を殺すこと。

 ただそのためだけに生きてきたのだ。

 それなのに、俺は何をしているんだ?

 やつらを殺す機会を逃していいというのか!?


「おい、どうした!?ずらかるんじゃないのか?!︎」


 気がつくと、俺は槍を手に走り出していた。

 オーガストの声を振り払い、ゴブリンの群れの中心を目掛けて突き進む。そこにホブゴブリン共はいるはずだ。

 既に戦いは始まっており、乱戦の最中で進むのは容易でなかったが、ゴブリンも人も構わず蹴散らしながらホブゴブリンの元へ向かう。

 やがて、俺の前に立ち塞がるものはいなくなった。

 そして、俺はついに、目的の場所にたどり着いた。

 そこは、他の場所に比べて、明らかに異質な雰囲気を放っている。

 その中心には、一際大きな天幕が張られていた。

 その中には一体の巨人が鎮座しており、周りに何体ものホブゴブリンがいた。


「…………」


 俺は何も言わずに、槍を構える。


「グギャァッ!?」


 俺は無言のまま、槍を突き刺す。

 突然の攻撃に驚いたホブゴブリンどもは、慌てふためき逃げ惑う。


「な、なんじゃこりゃああああアッっ!!!」


 ゴブリンの王が叫び声を上げるが、もう遅い。

 この一撃は、ゴブリンの王の心臓を貫いていたからだ。


「オオオォオッ!!︎」


 次の瞬間には、俺は雄たけびを上げていた。

 そして、手に持った魔法の槍を思い切り振り回す。その勢いにゴブリンたちは吹き飛ばされていく。


「な、なんだ、コイツはっ!」


「ばかな、こんな、馬鹿なぁっ」


「オ、オークかっ?」


 そんなことを言いながらも、ホブゴブリン共は、俺の猛攻の前では致命傷を避けるのが精一杯で、たちまちいくつもの手傷を負う。決して癒えない呪われた傷を……

 その痛みに苦しみながら、彼らは次々と倒れていった。


「ぐぎゃああああっ」


「ウガッ、やめろぉおおおっ」


「ゴ、ゴブリンスレイヤーが…………」


「ま、まさか、そんなはずは」


「ゴブリンスレイヤーが、こんなに強いなんてぇ……」


「そいつから離れろっ。喰われるぞおおっ」


 最後の最後まで意味不明な言葉を吐く奴もいたが、とにかくこれで終わりだ。

 辺りを見回せば、そこには死体だけが広がっていた。

 俺はまだ立っているもののいないことを見て取り、ホブゴブリンの生き残りがいないかどうか探す。やがて瀕死の一体が見つかった。

 幸い意識もまだあるようで、話しかけることができた。


「おまえが死ぬ前に言っておきたいことがある」


 瀕死のホブゴブリンは虚ろな目でこちらを見上げ、黙って聞いている。


 俺は続けた。

 今、こうして話している間にも死にゆく相手のことなどお構いなしに。

 だって俺にとってはこいつが死んでも構わないのだ。

 どうせ、家族を殺した憎い敵なのだから。

 だから、俺はいつも通り、淡々と告げよう。

 それが復讐というものだから……



「俺を……俺を"ゴブリンスレイヤー”と呼ぶな!」


「俺はゴブリンスレイヤーじゃない……ホブゴブリンスレイヤー……ホブゴブリンスレイヤーだっ!!」


 大事なことなので二回言ってやった。地獄に堕ちても忘れるな!と心で叫んだ。

 そうして俺の名は、誰にも知られることなく静かに消えてゆくはずだったのだが、なぜかその名は瞬く間に知れ渡ったらしい。

 噂では、あの日を境に、ゴブリンの姿を見ることが無くなったという。

 そして、ゴブリンスレイヤーの名を持つ、一人のホブゴブリンスレイヤーの噂だけが残った。





なんか伏線っぽいのありますけど、これにて終幕ですw

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