予防接種とかワクチン打った後って本当に効いてるかわからんけど謎の自信沸くよね
「あれ?いつの間にか追いかけて来なくなったな」
衛兵達に追われて鬼ごっこしていたが、森の方向に逃げ込んでいたら撒いたようだ。意図的に追ってこなくなったようにも見えたが・・・。
「しかし深い森だな。これで森林不足なのか?こんなに緑あるのに吸収しきれないなんて、瘴気ってよほど強いんだな」
追手から逃げ込んだのは、深い森。観光客用と思われる看板もあり『イマカリフス大森林』と書いてあった。一応観光名所では・・・あるのか?人っ子ひとり居ませんが。あっ、瘴気が蔓延してるなら観光も自粛要請されてるか。感染症の渦中の俺らもそんな感じだったしな。異世界といえどそこは価値観は同じだよな。
「とりあえずは、どうにかして帰る方法探さないとな。レンタルしてたビデオも返さないと延滞料金がやばいし。というか7泊8日だと油断して全然見てなかったし。早く帰ってみないと」
しかし、ここでだいたいの転移転生系統の作品を見てきた俺は察している。帰る方法はほぼないと言っていいだろう。
目的を完遂するか、とあるドアが現世と異世界を繋いでいるとかいう展開じゃないとまず帰れないという理不尽設定がデフォルトだ。前々から思ってたが、勝手に召喚とかしておいて帰れないってふざけてないかな?訴えれば勝てるぞマジで。ア○ム法律事務所に相談してやろうか。
とまぁ別にそこに恨みを抱いた所で、実際俺の場合現実になにか強い思い入れがあった訳でもない。彼女もいなかったし、仕事も社畜極めすぎてて毎日辞めたいと思ってたし。強いていえば、最後にオカンのカレー食いたかったくらいかな。
「おっと、あまり想いを馳せてもしょうがないな。とりあえず当面の行動方針、んを・・・オ??」
突然、視界がグラついた。立ちくらみ??いや立ちくらみは立ちくらみだが・・・そんなレベルじゃない。最初に視界がグラッとしてからものの数十秒程だったが、平衡感覚が無くなる程の激しい異常が体に襲いかかってきた。立てない。地面に埋められるかのような圧力がかかったと思えば、次にら宙に投げ飛ばされたかのような感覚に陥る。あまりの落差に吐き気が止まらない。
「う、おぇぇ、あが・・。ぐぞ・・これが『瘴気』ぃ・・・?」
現実の感染症なんかと比べ物にならないだろう。こんなのに感染?冗談じゃない。一発で死を迎える。というかもう迎えそう。まだ転移して30分も経ってませんよ。
「どうすりゃいい、どうすりゃ・・・あっ」
そこで俺は思い出した。あのお姫様の言葉。
『抗体を持ち、その機能的な左腕を有する救世主様。この瘴気の中で動けるのは、貴方しかいません。』
瘴気の中で動ける。左腕。こいつが何か鍵になるのか?見ると、またもや左腕が光っていた。しかし転移した時の眩い光とは違う。危険アラートのような、真っ赤な灯りがともっていた。
俺はそこに意識を集中させた。このアンバランスな左腕が何か効果がある事を願って。
すると、ゴウンゴウンとゴツい音を立て始めた。え何、確かにおれも起死回生の一手になれやと思ってたけど、なんか怖い起動音みたいな音してない?その音は破壊光線出す時か竜撃砲打つ時しか聞かないよ?
――刹那、甲高い音が鳴り響き、周囲へレーダーのようなものが発せられた。すると俺の頭の中に声が響いた。
『大気内瘴気濃度75%を観測、レベルレッド。体内瘴気濃度80%を観測、レベルレッド。至急浄化が必要です。浄化開始までカウント5。4.、3・・・』
「いきなりなに!?怖い怖い!?近未来的なデザインだなぁとは思ってたけど、ほんとに近未来な無機質な声でアナウンスされると怖いって!」
『2、1・・・0。浄化開始します。周囲に人がいる場合、頭を低くし衝撃に備えてください。繰り返す、衝撃に備えろ。以上』
「なんで最後だけ軍隊口調なんだよ、しかも注意アナウンスって普通カウントダウンの前にやるだろろろろろろろろろろろほほほほほほぉぉぉーーーーーーー!!!??」
ツッコミモードに入りかけてたが、マジで衝撃が周囲に広がり、竜巻かと思うような暴風が巻き起こった。発生地点は俺の左腕。風をモロに受けて、言葉は発せないし息もできない。これあれだ。車の窓から顔だして『わぁ風すげえ〜ぷはぷは』ってやつの5倍はヤバい。正直しぬかも。
若干の生命の危機を感じ、走馬灯のような思い出が脳内を巡る。近所の公園でドッヂボールをした幼少期。不良漫画に憧れて制服を着崩したら、生徒指導の対象になって一日中草むしりさせられた中学時代。反抗期で母ちゃん罵倒して、一晩立って謝ろうと思ったら翌朝赤飯たかれて反抗期を謎に祝福された高校時代。あぁ・・・思い出がたくさん、おもい・・で・・・。
・・・・・・あれ?そこまで魅力的な思い出ないな俺。
暴風に耐え、そろそろ俺の意識も風に吹かれて飛んでいきますよ〜っと自虐しそうになっていたら再度アナウンスが響いた。
『大気内瘴気濃度5%まで低下を確認。体内残留瘴気濃度20%、レベルグリーン。お急ぎモード解除します。』
風が止み、左腕のラジエーターからは静かな駆動音でプシューっと空気が排出されている。エアコンの室外機か何かだろうかコイツは。
はぁ、なんだったんだ一体・・・というか、アレ?そういえば・・・さっきまでの瘴気の影響がなくなっている??あんなに体を蝕まれていたのに、毒素が排出されたようにピンピンしてる。もしかして、さっきの暴風が瘴気を打ち消した?
まさかこんなタイラントの擬人化みたいな腕が、そんな環境に配慮した作りになっているとは思わなかった。というかなんでワクチン打っただけでこんな腕になるんだよ意味わかんねーだろ。
と、頭を抱えているとまた無機質なアナウンスが脳内に響いた。
『クールタイム約4時間が必要です。スリープモードに移行します。ベッドがある方は、お腹を冷やさぬよう毛布をかけましょう。おやすみなさい。』
「は?スリープ?何言ってんふわぁぁ・・・眠っ・・・いきなり眠っ・・・」
めちゃくちゃ眠くなってきた。スリープモードって俺もろとも眠くなんのかよ。こんな瘴気だらけの所で寝たらアカン・・・ああでもダメだ、これは抗えないやつ。感覚的には二度寝のやつ。絶対寝たらダメだけど、でもそういうシチュエーション程眠くなっちゃうよね・・・zzz・・・
瘴気にやられたり、爆風に吹かれたり、腕に新機能ある事を知った俺はスリープモードに入り、為す術なく眠りに落ちていった―――