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抗体できたって言われても目に見えないから実感わかないよね

苦しい。辛い。痛い。重い。動けない。

次々と自らの体に襲い来る悪夢のような苦痛。苦痛の波が収まったかと思えば、直ぐに第2波が畳み掛けてくる。

とめどなく襲い来る恐怖。それに打ち勝つことで、人は『免疫』『抗体』を獲得できるのだ。何かを得るには、何か代償を払わなければならない。それが世の中の不変の原則というものだ。

そしてここにいる青年も、その代償を払っている最中なのである。



「ゔああ゛ーー・・・苦しい・・・」

マジでヤバい。副反応なんてそんな大したことないとか思ってた昨日までの自分を海の底に沈めてやりたい。というか、この苦しみから逃れられるならだれか俺を沈めてくれ。ほんとに苦しすぎる。

なぜ俺がここまで苦しんでいるのか。それは、先日に接種したワクチンの影響である。


今年、全世界へ流行りに流行った感染症。

(いつかバ〇オハザードの世界来ないかな・・・)

なんて空想に空想を重ねていた俺からしたら、流行り始めの時のニュースなんて、不謹慎極まりないがドキドキワクワクだった。

だが、現実はそんなにワクワクするものでもなかった。感染対策でお店も軒並み締まり、自由に飲み食いできない。マスク着用が半ば義務化され、人の顔も伺い知れない。そんな苦行を強いられ、ようやく『ワクチン接種』という一筋の光が見えたのだ。

その響きでさえも、バ〇オ脳の俺からすると

(Tウイ〇スへの抗体ができたんだ・・・!)

と心躍らせるような大ニュースだった。時代がゲームに追いついたとさえ思った。非常に単純な思考回路である。

だが、ここでも現実は非情である。その後連日報道されるのは、ワクチン接種の副作用のニュース。SNSを見ても『マジ辛かった副反応〜』の連鎖。

(抗体打つのにそんな作用あんのか?ジョ〇ォヴィッチも軽く接種して・・・あ、アシュ〇ーパターンかな?)

と、副作用のニュースを見てもなおバ〇オ脳だった俺。そんな脳が覚めるのは間もなかった。

実際に今日接種して、軽く違和感あるだけで全然じゃねえか!筋トレだってできるぜ!と調子に乗っていた。その数時間後―――



「熱い、腕が・・・燃える・・・ちぎれる・・・弾ける・・・」

完璧なるフラグ回収である。気を抜けばすぐトんでしまいそうなくらいの壮絶さだ。何が筋トレだってできるぜ、だ。いまの俺は腕立て1回もままならない虚弱体質だ。

「このまま熱下がんなかったら・・・ハジケリストの仲間入りか・・・ふっ、げホッ、ゲホォ!」

いけない。仲間入りしてはいけないボーダーラインをワンステップで飛び越えるくらいの思考回路まで昇華している。余計なことを考えるな。今は寝て治すんだ。

「落ち着いて寝よう、落ち着いて・・・そうだ、大好きなフィギュアでも眺めながら・・・」

元よりゲームが好きで、特にこんな感染症の状況下に照らし合わせバ〇オへの熱が再沸騰し、フィギュアを買ったり作ったりした。おかげですっかりオタクの神棚と呼んでもいい棚が出来上がっていた。それを眺め、気分を落ち着ける。

「アシュ〇ー、ジ〇、エ〇ダ・・・いつもなら俺を興奮させる貴女方も、今では清涼剤・・・ん?1体誰か落ちてる・・・」

棚の裏に1体フィギュアが落ちていた。気になってしまい、並べてあげようとダルい身体に鞭打ち、手に取った。その1体とは――

「た、タ〇ラントT-002・・・いつもなら目を背けてしまう様なお前も、片腕の異常という観点から今の俺と親近感が湧いてしまうぜ」

敵キャラのフィギュアに親近感を覚えてしまった。きっと俺は末期だ。

「いつか俺もお前のように片腕だけ・・・なんてな。ゲホゲホ」

そんな軽口を叩き、接種した自分の左腕をふと見下ろす。



「――え?」

腕が、光っていた。内部から。

「・・え、え?何コレ、え?ちょっ、タイラン、は?はぇ?」

ただでさえ熱で茹だっていた脳が、再沸騰したかのようにパニックに陥る。

「なんで光って?け、消さなきゃ・・どうやって?どうしよ・・うっ、クラクラするぅっ」

いきなりパニックになり、さらに副作用の苦しさもあり思わず倒れてしまった。そんな間にも、左腕が放つ光は大きくなっていた。やがてそれは俺を飲み込み、目の前は眩い光に包まれた。

そして俺の意識も光に包まれるように、プツリと途切れた――


・・・・・・

「――いこうですぞ、これですくいが――」

「いやしかし、このままめざめな――――」

「――やく、はやくしょちを―――」

・・・ぼんやりとした脳内に声が聞こえる。

うっ痛え・・・どうやら俺は、床に横たわっているらしい。ベッドに寝込んでたはずなんだが。寝返りで落ちちゃったかな?

というか、具合悪い人間の周りでベラベラ会話すんなよ。ガンガン頭に響いて痛――くない?


あれ?副反応でダウンしてたはずなのに、その症状は収まっている。倦怠感や熱っぽさもない。ふっ、さすが俺。抗体を速攻で取り込み、適応したようだな。ゲーム脳は伊達じゃねえ。ゲーマーとオタクは普段からファンタジーな世界に触れてるおかげで、突飛な展開にも対応できるんだよ!

自画自賛し、状況を確認しようとムクリと起き上がった。


「「「おわぁ!いきなり起きた!?」」」


その場にいた人達にめちゃくちゃビビられた。死んでたと思ったらいきなり起き上がるタイプのゾンビを目にした時の反応、というのが的を得ているでしょう。

しかしここで退いてはいけない。コイツらは俺の部屋で俺を囲んでいる。どう見ても不法侵入は相手の方だ。強気にでなくては。


「やいやいてめぇら!病み上がりの人間囲んでなんの用だ!お礼参りか!?確かにVCオンにしてイキリ散らかしてた時はあったが、それでリアルに凸られるのはマナーいは・・・んぅ・・・???」

強い言葉(?)で優勢を取ろうと必死こいて喋り散らかしたが、そこで周囲の景色の違和感に気付く。ここ、俺の部屋じゃない。なんか・・・宮殿??そんな感じの荘厳な雰囲気漂う、石床のThe王族の間みたいな部屋にいた。なんだここは。俺はベッドで寝ていたはずなのに。

俺が混乱していると、コツコツと靴音を鳴らし王女様的な方が登場なさった。


「混乱するのも無理はありません。いきなり世界線を超えて呼び出してしまったのですから、救世主ケンジ様」

ななな、何だこのよく漫画やらで目にする展開は!!これが転生というやつか!?ワクチン打ったから!?というかこの王女様・・・

「な、なんで俺の名前を!?」

「ええ、知っていますよ。なんせ――」

「なんせ・・・?(ゴクリ)」

「――着ているお召し物に書いてありましたので」

「学生時代のジャージをパジャマにしていた弊害ィーーー!」

よく見たらしっかり刺繍してあったわ。そりゃ分かるわ。歩く名刺だろこんなん。ひと目でどこの学校かも割れちゃう。悪いこと出来ないね☆


「って、そうじゃない!王女様(的な人)!俺はなんでこんなところにいるんですか!?寝込んでただけなのに!」

「何故ここにいるのか。それは、私どもが貴方様をお呼びしたからです。正確に言えば、その左腕が呼応した、ということです。」

「左腕が?(チラッ)・・・ひぃ!!?な、なんか俺の左腕がぁ!イカツクなってる!!?」

王女様に言われて自分の左腕を確認すると、上腕が3倍くらいに肥大化していた。なんかラジエーターみたいなのもついてる。ちょっと近未来的です。


「私どもの世界は今、とある状況に悩まされております。その現状を打破し救済して頂くために、別世界より救世主様をお呼びしておりました。そして呼応されたのが貴方、ケンジ様に――」

「なぁにコレェーー!フラ〇キーの前腕みたいにアンバランスじゃんコレェーー!?」

「あ、あのケンジ様・・・」

「やるならもーちょっとスタイリッシュに作ってくれないんすかァ!?しかも片腕だけって!せめて両腕にするとか!」

「そ、その形がどうなるかというのは、救世主様が召喚なされた時の潜在意識次第だとお聞きしておりましたので」

「潜在意識・・・?」

俺が召喚された時・・・確かに光に包まれて、その時何考えてたっけ??

・・・・・あっ

「タ〇ラント・・・」

バ〇オ脳、ここに極まれり。そのせいで俺はアンバランスな片腕になってしまったらしい。さっきまで自画自賛していたゲーム脳も、ここまで来ると忌み物だ。


「そ、それで!!こんな腕になって!俺はなんのために呼び出されたんですか!?救世主ってなんすか!?」

「落ち着いてください。説明しますから。とりあえず見るのが早いでしょう。そこのバルコニーへ出て貰えますか?」


言われるまま、バルコニーへ出て外を眺める。

「なんか・・・澱んでますね。空気というか、なんというか」

「ええ。これが現状の問題『瘴気』です。この王宮の周囲は、結界を張っていてあまり影響はありませんので、こうして外に出ることもできますが・・・」

「『瘴気』・・・。よくゲームで聞く単語ですね。きっとこれが原因で国民が危機にさらされてるとかそういう展開ですよね。そしてきっと、俺が瘴気に対する抗体を持ってるから呼応したとかいうパターンでしょ?」

「り、理解度高いですね・・・。概ねその通りです。そしてこの瘴気は、冥界から発生しているようです。」

「冥界とな」

「はい。冥界は元々、こちらの国々との間にある山脈によって隔絶されていたのですが、近年隔絶されていたはずの瘴気が流れ込んできてしまいまして・・・この現状なのです。」

「瘴気が流れ込む?まさか、それは冥界側からの意図的な――!?」

もしやこの展開、『救世主様ァ〜冥界にいる王を倒してこの瘴気を打ち払って下さァ〜い』とかいう感じか!?なんてこったい、オタク兼ゲーム脳を拗らせた俺にとっちゃなんとも心躍る!し、しかし、なんの力も持たぬ俺に何ができるんだ!戦闘力がないなら仕方ない、ここは誠実に断るしかないな。

「すみません王女様。俺には冥界を討ち滅ぼす程の力はありません。呼んでもらって申し訳ないんですが、他の人に――」

「??冥界を滅ぼす?なんでですか?」

「え??」

ポカンとした顔で疑問をぶつけられた。

「いや、瘴気が流れてくる根源である冥界を絶ってくれっていう展開では?」

「そんな事しても瘴気は無くなりませんよ。冥界にとっての瘴気って、私たちの方でいう酸素みたいなものですから。そんなの無くしようがないでしょう?」

「ええ、そうなのぉ?」

思ってたのと違ったようだ。でもそうなら・・・

「冥界側が何かやってるわけじゃないなら、なんで瘴気がこちらへ流れてきているんですか?今までは隔絶されてたんですよね?」

「森林伐採が原因です」

「は??」

なんか想像の斜め上をぶち抜く原因が登場した。


「今までは、立ち並ぶ山脈の木々が瘴気を吸い、浄化して空気をこちらへ流していたのです。それが近年の産業発展で森林伐採が進んでしまい、山脈の木々も次第に減って・・・」

光合成の次世代バージョンかな?

「ちょちょちょっと待ってください。大体は掴めました。木々が減って瘴気を処理しきれなくなった、という解釈で合ってますか?」

「おや、また理解度が高くて助かります。その通りです。」

「そこから俺に何をしろと?聞く限り、出来ること無くないですか?自然に立ち向かうとかどうするんですか」

「自然を復活させて貰います」

「は??」

「植林して、緑を取り戻して貰います。」

「・・・は???」

「その為にあなたを呼びました。抗体を持ち、その機能的な左腕を有する救世主様。この瘴気の中で動けるのは、貴方しかいません。その左腕があれば、より自然を取り戻す作業も効率よく進みます」

「すみません王女様。それってつまり・・・」

「理解度が高いケンジ様なら、さすがに気付かれますよね。そう、貴方は――」


「体のいい労働力として召喚しました☆」


「・・・・・(ダッ)」

「「あっっ!逃げた!!!」」

「追うのです衛兵達!救世主様を逃してはなりません!!必ず捕まえて、自然復活と瘴気の殲滅へのいけに・・・礎になって頂くのです!!」


あの王女、生贄って言いかけやがった!!クソが!さっきまでちょっと胸躍らせてた俺の純情を返しやがれ!!転生しても労働なんてやってられっか!

衛兵達の追撃を受けながら、重い左腕をかばいながら逃走した。王宮周りの結界を抜ける辺りまで、その追撃は続いたのだった。

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