戦闘開始
闘技場に入ると、観客席には一、ニ、三回生の全員が座っていた。
「それじゃあ、今から君たちには、バトルロワイヤル方式の模擬戦を行ってもらう」
一対一じゃないのか、まぁ確かにバトルロワイヤルの方が盛り上がるだろうしな。
「一ついいですか?」
「なんだね、エミリア・ハラウド君」
エミリア・ハラウド、職業剣士にして剣の天才。
将来の剣聖候補筆頭とも言われていながら、その美貌から剣姫とも呼ばれているらしい。
「薬師がこのメンバーに選ばれていますが、私たちの戦いについて来れるのでしょうか?」
一見俺のことを心配しているように見えるが、言い方を変えれば薬師なんて雑魚はこの試合に入れるなということだな。
「と言われているぞ、フライト君?」
「問題ありません」
少なくともこいつには負ける気がしないしな。
「だそうだ」
「まぁ本人が大丈夫ならそれでいいです。怪我しても泣かないでね、薬師さん?」
笑顔だが全く目が笑っていない。
「ご忠告ありがとうございます、剣姫殿」
最初の相手はこいつになりそうだ。
まぁウォーミングアップくらいにはなるか。
「質問は以上か?それでは――戦闘開始だ」
――――
「さっきぶりですね、剣姫殿」
戦闘開始と同時に、俺の前には予想通り剣姫が現れた。
「エミリアでいい。それと敬語もやめろ」
さっきと雰囲気が違う。
やはりさっきの姿は、偽りの姿だったか。
「それよりもお前は何者だ?何故薬師がこの試合に選ばれているんだ」
「さぁどうしてだろうな」
大体わかってるけど。
「あくまでもしらを切るつもりか。ならば試してみるまでだ!」
エミリアは剣を抜き、俺の方へと向かってくる。
「早いな」
流石は剣姫、かなり早い。
「おっとあぶね」
剣は俺の体のギリギリを通り過ぎた。
「ほぅ、避けたか。少しはやるようだな」
魔法と違って剣は、鍛錬の積み重ねで強くなる。
やはり身体能力が向上しただけではついていくだけで精一杯だ。
「避けるだけじゃわたしには勝てないぞ」
くそ、剣バカが。
無茶苦茶に振っているように見えて、しっかり俺の癖をつかんできている。
これが剣姫か。
「しつこいな。チッこれは勇者用に取っておいたんだがな。まぁ試しに使うのもありか」
なんだ?何か技でもうつつもりか?
「フライトと言ったか、お前は私の技の実験台になってもらう」
剣姫の技か、少し見てみたいな。
するとエミリアは剣を構え直した。
「神速斬!」
直後、俺の体は倒れた。
何が起きた?
「これは……」
「私が剣にスピードを求め続けた結果生まれた最速の技だ」
薬で強化した俺が見切れないなんてな。
やはり俺は剣と相性が悪いな。
「ここに選ばれたから何かあるだろうと思っていたが、期待外れだったな」
油断したな。
リーベにあんなに言われたのに。
「さて、降伏するかこのままやられるか。どちらか選べ」
こんな奴に負けるとは。
俺もまだまだ未熟だったか……
なんてな。
あれだけ早いのは予想外だったが、概ね作成通りだ。
魔法の条件は揃った。
「それじゃあ……こんなのはどうだ?」
「?」
俺の実験にも付き合ってくれ。
「負傷変換」
そう唱えた瞬間、俺の体はどんどん軽くなり元の状態へと戻っていた。
そして、俺の前には倒れたエミリアの姿があった。
「こ、これは一体……」
「どうだ?俺の魔法を受けた感想は」
「魔法?」
「そう。この魔法は名前の通り相手のダメージと自分のダメージを交換する魔法だ」
「な、なんだその魔法は!見たことも聞いたこともないぞ」
「それはそうだろう。だってこの魔法俺が作ったんだから」
「魔法を作っただと」
魔法を作る奴なんて、ここ数百年いなかったかからな。
驚くのも無理ないか。
「俺は剣がほとんどできない。だからお前は俺にとって最悪の相手だった。だが、それと同時に最高の獲物でもあった」
「獲物……」
「この魔法は魔法が得意な奴にはあまり使えないんからな」
そして剣姫は剣にかなり執着している。
魔法は絶対に使えない、いや使わない。
「私ははめられたのか」
「そういうことだ」
確かに剣姫は強かった。
だが、剣ばかり使うというプライドがある限りこれからの成長はないだろうな。
「はは、お前本当にただの薬師か?」
「さぁどうだろうな」
「私の負けだ。また一から鍛え直そう」
剣姫エミリア・ハラウド。
こいつも強いが、思ったほどじゃなかったな。
「だから……」
ん?
「私をフライト様の弟子にしてください!」
「はぁ?」
俺はめんどくさいやつを倒してしまったらしい。
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