ありえない
今年の受験者達は、強者ばかりだ。
勇者に賢者、剣聖候補筆頭の剣士までいる。
そんな最強の年と言われている彼らに、私は大きく期待していた。
近年、英雄は老化を迎えている。
だが、そんな彼らに勝てる戦士は生まれないでいた。
私の中では、今年の三回生と二回生はかなり出来がいいと思っている。
英雄も生まれるかもしれない。
そして素質ある一回生が入ってくる。
これは学園内に競争を生み、生徒達をさらに成長させることができる。
私はワクワクしていた。
勇者がどう育つか、学園はどう変わるのか。
学長として期待は膨らむばかりだ――
――――
「学長、大変です!」
「どうした?」
「ま、満点がでました!」
「なんだと!」
ありえない。
筆記試験は私が毎年作っている。
年を追うごとに難しくしているが、今年の問題には今まで誰にもわからなかった魔法回路の効率化の問題を出したはずだ。
「解答を見せろ!」
「は、はいっ」
私は解答を受け取った。
完璧だ。
これこそ私が求め、自分で見つけられなかったものだ。
他の問題も全て正解している。
一体誰が……
「おい、これを解いたのは誰だ?賢者か?それとも勇者か?」
「いえ、それを解いたのは……薬師です」
「薬師だと?」
「はい、フライト・ナジルという薬師の男が解いたものです」
ありえない。
賢者や勇者ならまだしも、薬師なんかが解けるはずがない。
というよりも、何故薬師が試験を受けているんだ?
いや、今はそんなことどうでもいい。
この魔法回路は完璧すぎる。
フライト・ナジル一体何者だ?
「学長」
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「いえ、実は模擬戦でも一人だけ見たことのない魔法を使い担当教師が強制的に合格させた者がいまして」
「まさか……」
「はい、そのまさかです」
「おいおい、自作の魔法を作るなんて英雄以外で見たことないぞ」
勇者とか賢者とか言っている場合ではない。
魔法回路の効率化に魔法の作成、何故薬師ができる?
何か嫌な感じがするな。
私がこんな感情を抱くのは二人目だな――
――――
「ほ、本当に!?」
カリーナさんはかなり驚いている。
まぁあんなに心配してたしな。
「はい、試験監督の先生から合格にするから帰ってくれと言われました」
俺にとっては遊び感覚だったが、支えてくれたカリーナさんに恩返しできたのは嬉しいな。
「そっか……寂しくなるね」
カリーナさんは見送ってくれた時と同じような、寂しい顔をした。
「他の子は鍛錬ばかりだったけど、フライトだけは小さい子達に勉強を教えてくれてたからね」
確かに俺は強さを得てから、暇な時は子供達に勉強を教えていた。
知識を他の人間に与えるというのは、悪い気分ではなかった。
「あの子達も寂しくなるだろうね。特にテレナは貴方によく懐いてたから」
テレナか、容量がよく知識も力も満遍なく備えた子だったな。
才能がありながらも、決して偉そうな態度は取らなかった。
まぁ何故俺のところばかりにいたが。
「テレナの実力なら俺がいなくても大丈夫ですよ」
「そういう意味じゃないんだけど……」
カリーナさんは呆れている。
テレナが懐いていたのは、俺が人より頭が良かったからだろう。
やはり、人間というのは知識を追い求めるということだな。
「フライト兄さん!」
唐突に俺を呼ぶ声がする、テレナだ。
「本当に英雄学園に行ってしまうのですか?」
金髪ロングの美少女が上目遣いで俺のことを見ている。
彼女は可愛いというより、美人だ。
言葉遣いも綺麗で、怒っているところや悪口を言っているところを見た事がない。
「ごめんな、一生会えないわけじゃないから我慢してくれ」
彼女は悲しそうな顔をしていたが、少し考え込んだ後いつも通りの顔で俺の方を向いた。
「わかりました、確かにフライト兄さんの才能をここに置いておくのは惜しいですからね」
彼女は俺のことをかなり過大評価している。
頭がいいだけの俺を何故こんなに評価しているのか、俺にはいまいちわからなかった。
「フライト兄さん!私も兄さんくらい知識を得て同じステージに立てるように頑張ります!」
とびっきりの笑顔で宣言した彼女は、感情が薄くなった俺でも少し微笑ましく感じた。
――――
「行ったわね」
「……」
「テレナ?」
「……ないと」
「何?」
「早く強くならないと!兄さんに見放されてしまう。カリーナ!私に魔法を教えろ」
「テレナ?何か口調が……」
「あのキャラは兄さんに気に入ってもらうための嘘なんだって!そんなことどうでもいいからさっさと教えろ!」
「わ、わかったわ」
「兄さん待っててね」
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