入学試験(筆記)
英雄と勇者は別物です。
剣士でも強ければ英雄になれます。
この世界では、一定の歳になると職業が与えられる。
しかし、職業というのはランダムに与えられるわけでは無い。
なりたい職業を願えば、ほとんどの人がその職業を与えてもらえる。
勇者になりたい者は勇者を願うし、賢者になりたい者は賢者を願う。
この世界は不平等では無い、どちらかと言えば人々に優しい世界だ。
そんな中でも、職業とは関係なく強い者は英雄として国を守っている。
しかし、英雄となるためには現時点で英雄をしている者を倒さなければならない。
このように英雄をつくり出すことで、国を守る絶対的な守護者を生み出しているのだ。
その英雄を育成する機関こそが、英雄学園である。
だが、ここ数十年英雄は変わっていないのが今の現状だった……
そして今、この世界を覆すであろう異端者が生まれてしまった。
その男の名は、フライト・ナジル。
最強の薬師だ――
――――
「フライト、本当に行くの?」
そう言って心配してくれているのは、孤児院の管理人をしてくれているエルフのカリーナさんだ。
「大丈夫ですよ、俺は強いですから」
「う、うん……」
まぁこんな反応をされるのは普通だろう。
薬師であるはずの俺が、数々の強者が集まる英雄学園の入学試験を受けようとしているのだから。
「それに、自分の力を試したいだけですから」
「まぁそうよね……うん、力試しに行ってきなさい!」
本当にこの人に育てられて良かったと思う。
俺が薬師と分かっても、この人だけは今まで通りに接してくれた。
俺はほとんどの人間になんの感情も無くなってしまったが、この人への感謝だけは忘れなかった。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
カリーナさんはとても笑顔で俺のことを見送ってくれた。
だがもう一度振り向いた時、彼女は少し寂しそうな顔をしていた。
――――
「ここが英雄学園か」
英雄学園の入学試験はかなりハイレベルと聞いたことがある。
特に筆記試験は年を追うごとに難しくなり、これまでに満点を取った者はいないらしい。
だが俺は筆記試験には自信がある。
今まで効率的な魔法回路を作ったり、自作の魔法を作ったりと魔法の構造はほとんど理解している。
俺はなんの緊張もなく、試験会場へと向かった。
筆記試験が終わった。
それほど難しくはなかった。
というか、どちらかといえば簡単だった。
まぁ満点は確実だろう。
しかし、これくらいの問題なら他の奴らも解けているはずだ。
つまり本命は次の試験ということか。
――――
俺は次の試験会場へと到着した。
多くの受験者達が集まっていたが、見る限りあまり強そうなのは見当たらなかった。
そして、周りの奴らを観察していると誰かとぶつかった。
「ごめんなさい」
俺はその声がした方向を向いた。
するとそこには、一人の少女が立っていた。
少し小柄な見た目に青く光っている目、そして大きく手を引くのは肩まである銀色の髪だ。
美しい容姿だが、どこか冷たさを感じる。
「いや、俺も周りが見えていなかった」
そう言い返すと、彼女は少しお辞儀をして去ろうとした。
しかし、俺は見逃さなかった。
「おい、ちょっと待て。お前今、俺に何をした?」
彼女は少しビクッとした後、無表情ながらも驚きを隠せない様子でこちらを振り返った。
「何故気づいたの?」
「あんな雑な毒魔法すぐに気づくだろ」
彼女は俺に毒魔法をかけていた。
しかも、時間差で現れる毒魔法だ。
「でも今まで誰にも気づかれたことない」
「なら、やる相手を間違えたってことだな」
俺に毒魔法なんて効かない。
あんなに薬を飲み続けたんだ、毒なんて優しいものだ。
それにあの薬漬けのおかげで、毒や麻痺には敏感になっていた。
「それで私をどうする?先生に言う?」
「別に言わねーよ。お前がやったことも立派な作戦だからな」
彼女は少し驚いたが、すぐに微笑んだ。
「私の名前はリーベ。貴方は?」
「フライトだ」
「フライト、私はこの試験絶対に受からないといけない。だから、もし戦うことになっても容赦はしない」
「俺もだ」
そう言うと彼女はまた微笑んだ。
「でもここで会ったのも何かの縁、一緒に合格したい」
さっきの冷たさが少しなくなっている。
緊張が解けたか?
「俺は負けない。強いからな」
「油断しない方がいい。今年は最強の年と言われている」
「最強の年?」
「今年は勇者や賢者、剣聖候補が受験しているの」
勇者、賢者、剣聖、これは期待できるな。
「他にも神童と呼ばれた人や逸材と呼ばれていた人たちが沢山入ってくる」
今年は豊作の年ということか。
「とにかく油断しないで」
「わかった、肝に免じておく。ありがとな」
「うん。なんてことない」
そして俺たちは、試験の説明をしている集まりの方へと向かった。
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