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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第二章 黒閃の魔人と神覚の暗殺者
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エカテリーナとリィズ

 ヴィルハルトの魔導士、エレイン・アーネットには『魔力視』という特性(スキル)がある。大気中はおろか、他者の中にある魔力さえ見通すこの能力は、必然魔力が濃い場所ほどハッキリ『光』として見える。故に彼女は、本来外見からは分からない、魔物の核を一目で特定出来る。その特性(スキル)は、魔物殺しに執念を燃やすヴィルハルトにとって非常に有用なものだった。

 だが、その特性(スキル)が今視たものは、本来有り得ないはずのもの。人間をこの能力で見た場合、魔力の根源である心臓にのみ、強い光が存在するはず。

 しかし、リィズ・クロームの身体には、同様の光が『右腕』にもあった。


「何……?」

「どういうこと……?」


 ヴィルハルトさえ瞠目し、エレインに視線を向けていた。

 彼の一瞬の硬直は、幸いにして隙とはならなかった。リィズとセシルもまた、動きを止めていたからである。


「そうか……君にはそれがあったね」


 いつもの余裕な笑みを浮かべたリィズだが、しかしその顔には一筋の冷や汗が滴っている。

 直後、次元孔(ワームホール)が二つ出現した。


「……させるか!」


 狙いを察したヴィルハルトは、宣言無しに身体強化を三重掛けし、エレインへと疾走。

 身体が軽い。

 先程までと、練体術の効果の違いを感じながら、セシルの凶刃がエレインを斬り裂く前に、間一髪で防いだ。


「やるね、もう術を使っていたか……!」


 それまでとは比較にならない速度を見せたヴィルハルトを見て、リィズもエレインが『整調』を使っていたことを察する。

 天然そうに見えて、既に戦闘準備をしていた。ヴィルハルトは素直に感心した。


「備えていたか」

「あの人は……多分凄く危険ですから。準備し過ぎってことはないと思ったんです」

「ほう、分かっているのか。そうだな、奴は危険だ」


 ヴィルハルトとエレイン、そしてアリナがリィズとセシルに相対する。


「どうしてリズリーの勇者と賢者であるアナタ達が、ヴィルハルトを殺そうとするの」

「私とセシルで出した結論さ。君は人類(われわれ)にとって、理の外側にいる存在。ましてエカテリーナに手を加えられたとなれば、どんな劇物か知れたものじゃない。今は元気でも、ある日突然ドカンと爆発する、なんてのもあり得る」

「そんなこと……!」

「そう言えるのは、エカテリーナを知らないからさ」


 アリナの問いにも、エレインの反論にも涼しい顔で対応するリィズ。その眼に迷いは毛頭無く、ヴィルハルトの排除という軸を揺らがせることは考えられなかった。


「私とエカテリーナはね、新人の頃からの付き合いだった。当時は魔物なんて極大の危険生物は居なかったから、戦士の仕事は治安維持と害獣の駆除。だからまあ、魔導士は結構暇だったんだよ。仕事が無かった私たちは、共に『魔法』の研究を行っていた。練体術と魔術以外にも、大気と身体を流れる魔力の使い道は、あるはずと信じてね」


 リィズは、遠い眼をして懐かしき過去に想いを馳せていた。

 アリナ達からすれば、魔物が現れる――エカテリーナが創り出す――前の世界など、話に聞いた程度のものでしかない。彼女が実際に見、そして生きて来た世界がどういうものか、リィズ以外は知らない。だが、その瞳から小さな光る雫が覗くのを見て、彼女の言葉が真実だという説得力を与えていた。


「『魔力で動作する、特異な力を持つ道具を作ろう』なんて言い出した時は、何言ってるんだこの女は、と思ったさ。だが……彼女はやり遂げた。ミスリルなんていう新種の合金まで創り出して、数多くの魔道具を生み出した。あれはまさに魔法……いや、神の御業だよ」


 彼女の口調に、僅かに熱が籠る。数々の伝記に偉業として伝わる、魔道具の発明。それは間近で見ていた彼女にとって、どれだけの衝撃だったか。推し量るには充分な程、彼女の言葉にエレインは力を感じていた。

 しかし――一瞬にして、彼女の顔から笑みが消えた。


「だから君は生かしておけないのさ、ヴィルハルト」


 魔術計(タイム・ジャッカー)を取り出し、高速で術を制御し始めるリィズ。アリナが察して止めようと『黄雷』を放つも、射線に割り込んだセシルによって阻まれる。

 憮然とした表情で話を聞いていたヴィルハルトは、セシルの攻撃範囲から逃れながらもリィズに視線をやり続ける。


「貴様は――」

「あらゆる物を形にする彼女が、ただ『魔物のプロトタイプ』なんて理由だけで君を生み出す筈が無い。まだあるだろう、エカテリーナの目的の為に、必要な何かが」

「エカテリーナさんをそんなに尊敬してるなら、どうしてエカテリーナさんと関係の深いヴィルハルトさんを殺そうとするんですか!?」

「尊敬しているからこそ、だよ! 私では、彼女の領域には決して辿り着けない。そもそもの持っているものが違い過ぎるからね。だが! 私は魔道具を創るのではなく、人(・)を(・)育(・)て(・)た(・)! 半人半魔なんかじゃない、純度百パーセントの人間さ! それもリズリー史上最高の英雄『カルマン・クロフォード』の才能全てを受け継いだ金の卵!」

「リィズ・クローム! アナタは結局何がしたいのよ!?」

「エカテリーナの生んだ子供(さくひん)を、私が育てた作品(こども)が打ち破る! フハハハハハ!! どうだい、あの女の薄ら笑いを消してやるには、これが一番じゃないかい!?」


 狂ったように目を見開きながら、先ほど仕込んだ魔術と今発動した魔術を組み合わせるリィズ。二対三という数の差を感じさせない立ち回りに、エレインは焦りを、アリナは歯痒さを覚える。

 その上、次元孔(ワームホール)を介して、セシルが瞬間移動を繰り返す。


「ッ!!」

「アリナさん!?」

「平気、掠っただけよ!」


 遂に、アリナの右腕をセシルの刃が捉えた。ローブが斬り裂かれ、傷口からは紅い血が流れだす。

 これ程の切迫した状況の中、ヴィルハルトは――


「フフフ……何だ、そういう事かよ」


 セシルを大振りの一撃で後退させながら、口元を歪ませ、嘲るような笑い声を漏らした。


「何がおかしいんだい?」


 その様子には、流石のリィズも疑問を投げざるを得なかったらしい。或いは、何か策があるのかと警戒しての事かもしれない。

 ヴィルハルトは切っ先をリィズに向け、呪詛をぶつけるような低い声で彼(・)女(・)の(・)本(・)音(・)を言い当てた。


「要するに貴様……あの女(エカテリーナ)に嫉妬していただけか」

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