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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第一章 凶戦士と『自称』仲間たち
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アリナ・ヴァーミリオン

 何も訳が分からないまま、エレインはアリナについていった。彼女と一緒にいたロイドという男性が何か言ったからこうなった事は分かるのだが、どうしてこうなったかは理解出来ない。


「あの……アリナさん、でしたっけ?」

「ん? どうしたの?」

「ヴィルハルトさんとロイドさん? は何処に行ったんですか?」

「ああ、アイツらなら今頃話し合ってるんじゃない?」

「話し合いですか?」

「そ。ロイドは口が達者なのよ。アイツの数少ない特技」


 あの時、エレインを除く三人はこのようなやり取りをしていた。



 *


「まぁまぁ、落ち着けよアリナ。ヴィルハルトもそう邪険に扱ってやるなよ」

「邪険になどしていない。相応の態度を示しているだけだ」

「……どういう意味よ」


 無表情のヴィルハルト、怒りの形相で彼を睨みつけるアリナ。そこに、ニヤニヤした笑みを浮かべたロイドが介入した。一見すると、場違いにも見えるが、事態は彼によって収束を見る。


「いやいや、一旦この話中断しようぜ。そうだ、丁度昼時だし全員で飯行こうか。同じ場所で飯食えば少しは――」

「俺は行かん。お前たちで勝手にやっていろ。丁度いい、あいつをお前らで引き受けろ。いい加減連れ回すのも面倒になっていたからな」

「アンタ……」

「待て待て、気持ちは分かるけど怒るのは止せよアリナ。色々気になる事はあるが……二日預かる程度なら構わねえ」

「ほう」

「なっ……」


 ヴィルハルトを睨んでいた彼女が、ロイドに詰め寄った。


「ロイド、何言って――」

「ちょっと耳貸せ」


 アリナに自ら接近したロイドは、彼女の右耳に口を添えた。


「あいつからの要求に条件付きで応えるのさ。後は俺がどうにかする。お前の『仕返し』の舞台はちゃんと整えてやるさ」

「私はどうすればいいの?」

「あの娘と仲良くなっておきな。ついでに今のヴィルハルトについて聞いておくといい。彼女については、俺も気になる」


 話を終えると、ロイドはヴィルハルトに人差し指を立てながら言った。


「一つ。俺の頼みを一つ聞いてくれるなら、あの娘と暫く遊んでもいいぜ」

「言ってみろ」

「なに、簡単さ。せめて昼飯だけ、俺に付き合ってくれよ。それ以降は自由にしていいからよ」

「……いいだろう」

「交渉成立だな。じゃあ行こうか。アリナ、また後でな」



 *



「いや、待って下さい!」


 アリナがいきさつを語ると、エレインは彼女の右腕をグッと掴んだ。


「それってつまり……私何日かはヴィルハルトさんに会えないってことじゃないですか!?」

「そうだけど……何かマズい?」

「当たり前じゃないですか!! 私この世界で知ってる人、あの人しかいないんですよ!?」

「え、どういう意味?」

「だって私――」


 エレインは自身の事情をアリナに話した。記憶喪失で、彼に保護されてから今日までの記憶が一切ないこと。

 それを聞いたアリナは、彼女の頭をそっと撫で始めた。労わり、慈しむように。他人からこう優しく触れられることはエレインにとって未知の経験であり、驚きのあまり動けなくなってしまう。

 彼女を撫でながら、本気で慈しむ表情を見せながら、アリナは言った。


「かわいそう……よりによってアイツに見つかるなんて……」

「え?」


 かわいそう。その言葉の意味を理解した時、反射的にその手から逃れた。

 何故だか知らないが、身体の芯から熱くなるような感覚を覚える。俗に言う『怒り』という感情を、この時初めて感じていた。


「すみません。どういう意味ですか、それ」

「え、いやそのままの意味よ。あんな不愛想が服着て歩いてるみたいな奴に拾われたなんて……」

「貴方にあの人の何が分かるんですか」

「だって私、あいつの幼馴染、小さい頃からの付き合いだもの」

「え?」


 小さい頃からの付き合い、つまり子供の頃を知っている。エレインは身体の熱さを感じながらも、思考がそちらに完全に向いた。

 子供の頃のヴィルハルト。というと、街で見かけるように母親と手を繋いだり、笑いながら走り回っていたヴィルハルトがいた、ということか。


「どうしよう……ぜんっぜん想像出来ない。むしろ身体だけ小さくて話しかけられても『静かにしていろ』みたいなこと言ってる所しか考えられない……」

「うん、大体そんな感じだったわよ」

「えぇ……」


 成程、自分と出会うずっと前からあの調子なら自分を心配するのも分かるかもしれない。

 そう考えると、彼女の言動に沸いた感情も引っ込んでいった。代わりに、新たな感情が芽生える。


「あの……そのお話、もう少しよく聞かせてくれませんか?」

「アナタには愉快な話じゃないけど、良いわ。それじゃ、ゆっくり話せるお店に入りましょ」

「あ、そういえば――大丈夫なんですか?」

「何が?」

「その、女性だけで街を歩くのは良くないって、ヴィルハルトさんが……」

「ああ、そんなこと? 大丈夫よ、アタシにちゃんとついて来るならね」

「おい、そこの姉ちゃん」


 そこに下衆な笑みを浮かべた男が一人、アリナに話しかけてきた。男は小さな麻袋を逆さまにし、中から白い粉を取り出した。


「こいつは軽く舐めるだけで疲労やら何やらを全部吹き飛ばしちまう薬なんだがよ、どうだ。特別に一か月分、一万エラで売ってやるぜ」

「……衛兵を呼ばれたいのかしら? こんな白昼堂々売るなんて」

「ヒヒヒ、やっぱり姉ちゃん、この国の人間じゃあねえな? 姉ちゃんの国じゃ違法かもしれんが、この国じゃあこいつはまだ何の規制もされてねぇ、文字通り真っ白だ。だから安心して――」

「失せなさい、下衆野郎。アタシは薬にもアンタみたいな雑魚にも興味ないの」

「へぇ。気の強い姉ちゃんだ、気に入ったぜ。けど、もう少し身の振り方を覚えた方が良かった――」


 男がズボンのポケットに手を入れると、そこから白く光る刃が現れた。男は慣れているのか、素早くアリナの身体に突き立て――ようとした瞬間。


「『黄雷』」


 アリナの指から生じた黄色い光に打たれ、男はうめき声と共に刃物を取り落とした。


「づっ!? な、なんだ今の……! いや、待てよ今のは……」

「それでアタシを刺すつもりだったのよね? 大方毒か何か塗ってたんでしょうけど……やってみなさいよ、さぁ」


 アリナは平坦な胸を張って男を挑発した。最初こそ強気に睨んでいた男だったが、やがて彼女の胸元を見るやいなや顔を青くして「俺が悪かった。許してくれ」と叫びながら走り去っていった。

 その様子を見て呆然とするエレインに、アリナはにっこり笑って親指を立てた。


「ね、大丈夫でしょ?」


 かっこいい。

 エレインは、素直にそう思った。ヴィルハルトの昔の話を聞いてみたいというのが主だった彼女は、今はこの人をもっと知りたいと思うようになっていた。



 *



「ここで良かったかしら? 適当に入ったところだけど」

「いえ、全然」

「ふぅ、これで落ち着けるわね」


 エレインとアリナが入った店はヴィルハルトのいきつけの店よりずっと人が多く、そして華やかだった。まだ文字を上手く読めない彼女はアリナに代わりに頼んでもらった。運ばれてきた水に口をつけると、エレインは意を決してアリナに話しかけた。


「それで……アリナさん、でしたっけ。私、エレインって言います。さっきも言いましたけど、私何も覚えていなくて、ヴィルハルトさんに守ってもらってます」

「エレインちゃん、ね。正直、アイツが真面目にアナタみたいな女の子を庇護してるのが信じられないんだけど……それは置いておいて。私も自己紹介するわ」


 アリナは、左胸にある金色の紋章を見せながら、自己紹介を始める。ここでエレインは気が付いた。デザインこそ違うが、似たような金色の紋章は、『ヴィルハルトも着けていた』。


「私はアリナ・ヴァーミリオン。戦士ギルド所属の『特級魔導士』よ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 特級魔導士、やはりただ者ではなかったですね。そうするとロイドの方もただの口が達者な男という訳ではなさそうですね。
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