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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第二章 黒閃の魔人と神覚の暗殺者
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決戦近づく

 集会所併設の療養所に着いた時、ヴィルハルトとエレインは意識無くベッドに横たわるロイドと、俯いたまま顔を上げないアリナの姿があった。


「ロイドさん……!!」

「……遅かったか」


 両手で口元を押さえるエレインと、拳を血が出るほどに握りしめるヴィルハルト。事と次第は、二人の元に血相を変えてやってきたアリナから聞いていた。

 ルドルフの言っていたことが、現実となっていたのだ。


「命に別状は無いよ。ひと月もすれば治る。誰がやったかは知らないが……多分、わざとこの程度に抑えているようだね」


 突然治療所の前に現れたらしいロイドの治療を担当した医師、イーリス・ブラウン。エレインの身体検査も担当した、凄腕の医師。

 赤紫の瞳と、青紫のポニーテールをした白衣の美女は自らの調べで得た情報を三人に伝える。


「それと、彼の身体から彼とは違う魔力を検出した。火傷もあるし、恐らく赤炎を何発か貰ったのだろう。少なくとも魔導士が関わっているのは確からしいね」

「……イーリス・ブラウン。アンタに聞きたいことがある」

「ワタシは情報屋じゃないよ? 知ってることなんてたかが知れているが?」

「少なくとも無知ではないだろう。この近辺で、不審者の情報は?」

「不審者なんて、路地裏にはいつもいるよ? でもそうだね……どうも近頃、権力者を狙った襲撃が増えているように思うよ」


 唇に指を当て、ぼんやりとした顔で語るイーリス。気になることがあるようで、ヴィルハルトは矢継ぎ早に彼女に問いを投げていく。


「いつからだ?」

「ほんの数日前だよ。しかも練体術や魔術を使っていたなんて話もあるぐらいだから、何が起こっているのか――」

「襲撃された場所は?」

「質問が多いよ……これ以上はお金を取るよ?」


 ヴィルハルトは恐ろしい速さで金袋を取り出し、イーリスに向かって投げつけた。数十万エラの入った袋を何のためらいもなく投げ渡され、流石にイーリスもたじろいでいる。


「冗談のつもりだったんだけど……いやまぁ、君の金払いが良いことは知ってるからね。くれるなら遠慮なく頂こう」


 金袋を彼女の横のデスクの引き出しに入れると、イーリスは少し顔つきを凛々しくさせてから話し始めた。


「襲撃された人が多いのは、西門付近のエリア、もっと言うと富裕層向けの住宅地があった場所だね。崩れの日であの辺りに住んでいた権力者が軒並み死んで、今じゃあカラのエリアだ。取り壊そうにも、デカい麻薬シンジケートが居付いてしまったらしく、行政も手をこまねいている。今でも麻薬の売買が行われているね。半分封鎖された場所だから、一般人が近づくことはまずないけれど」


 元高級住宅街。そこはヴィルハルトが訪れたことのあるエリアだ。というのも、あそこには非認可だが効果の高い薬を売る売人がいた。最後に利用したのは、魔将襲撃の一つ前の襲撃の後だったか。


「確かにあそこは堕ちた人間の溜まり場だが、そのような集団のことは聞いた事が無い」

「だろうね。そもそも、そんな話が出るようになったのもごく最近の話だ」

「……腕輪付きの腕輪が分解されて見つかる事件があったな。アレと同じタイミングか?」

「へぇ、詳しいじゃないか。確かにアレとタイミングは一致している。ロイドの怪我から考えれば、腕輪付きがどうやってか腕輪を外され、そのまま暗殺者に転向したと考えるのが自然だろうね」


 イーリスの話により、ヴィルハルトは一つ確信を得ていた。

 そうして身体を翻そうとした時――エレインが、ヴィルハルトの腕を掴んだ。


「行くつもりですね。独りで」

「だったらどうした」

「私も行きます」


 毅然とした声だった。殆ど彼女を知らないイーリスでさえも、「これは説得不可能だ」と察せてしまう程に、確固たる意志がその声には宿っていた。


「相手は間違いなく奇襲を仕掛けてくる。全方位を警戒出来る経験を積んでいないお前の安全を保障出来ん」

「相手には、戦士と魔導士が揃っているかもしれないんです。それなら、ヴィルハルトさん一人じゃ危険でしょう?」

「俺が今更、そこらの戦士と魔導士(コンビ)に遅れを取るとでも?」

「そうは思いません。だけど……」


 ヴィルハルトは、上級戦士(ロイド)と特級魔導士(アリナ)のコンビさえ崩せない程の強さ。彼の強さを間近で見ていたエレインは、それを何よりも知っている。それでも彼女は、退かない。何故なら――


「私、ヴィルハルトさんの力になるって決めましたから! それに、一人より二人です。ヴィルハルトさんなら、その方が効率がいいって分かるはずです」

「待って、エレインちゃん」


 それまで何も言わなかったアリナが、ここで初めて口を開いた。顔を上げた彼女の眼には、エレインのそれに勝るとも劣らぬ決意が宿っていた。


「私も行くわ。ロイドを……相棒をやられて、大人しくなんてしてられないもの。ヴィルハルト、アンタと調律は出来なくても……アンタを援護する方法は幾らでもあるわ」


 一人の戦士を同時に調律出来るのは一人だけ。他に調律してしまえば、前に調律していた魔導士との繋がりは消える。だから、アリナは単体の魔導士として敵に妨害を掛けることに徹すると表明した。

 女性二人からの並々ならぬ圧力に、ヴィルハルトは一つ息を吐いてから指で付いてくるよう促した。


「好きにしろ。というより……元から個人でどうしようとは考えていない」

「え、そうなんですか!?」

「今は使える連中がいるだろう。アレらを有効活用しない手はない」

「ああ~~、私何となく分かっちゃいました!」

「え、何。ヴィルハルト、アンタ何する気?」


 三人は静かに寝息を立てるロイドに一度思いを馳せてから、歩き出した。



 *



「いやはや、凶戦士だ何だと言われていたけど、随分仲間に恵まれているじゃないか。……お~~い、もう出てきていいんじゃないか?」


 イーリスの呼びかけと共に、彼女の背後の壁に黒い穴が開き、そこから仮面を着けず、素顔のリィズ・クロームが姿を現した。


「助かったよ、イーリス。お陰で、彼らを呼び出すことが出来た」

「どうしてこんな回りくどいことをするんだい? 君の口から教えてやっても良かっただろうに」

「罠を疑われたらおしまいだろう。君という第(・)三(・)者(・)に(・)見(・)え(・)る(・)人を使えば、彼らも疑わない」

「ふぅん、まぁいいけどね。それよりホラ、早く」

「そう急かさなくても、ただ働きなんてさせないさ」


 リィズは、懐から金の延べ棒を何本も取り出した。総計で一千万エラに届くであろう大金に、イーリスは口元を綻ばせる。


「流石はワタシの古い友人。金払いが良くて助かる」

「良かったのかいイーリス。彼らだって、金払いの良い上客だろうに」

「確かにね。ヴィルハルトは言わずもがな、アリナはロイドの治療に迷わずワタシを指名した挙句、『金なら幾らでも出す』と言ってきた。金を目的の為の手段と思っている連中は、これだから愛しい。でもそれはそれだ」

「金さえ積めば誰でも治す凄腕の医師だろう、君は。人を死地に送るような真似をしていいのかい?」

「その死地を作った本人が言うのか。ワタシは金を積まれれば誰でも治すのと同じように、金さえ貰えれば誰の依頼も受ける。尤も、公に募集はしてないから依頼者は君ぐらいだよ、リィズ」


 イーリスはこれまで数多くの人間を救ってきた右手を、策謀家(リィズ)の肩に置いた。

 リィズは彼女の顔を見つめて、ニッコリと笑って見せた。


「ありがとう、親友(イーリス)。貴方のおかげで、私はエカテリーナの鼻を明かすことが出来るよ」

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