↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第一章 凶戦士と『自称』仲間たち
29/101

孤高の戦士は魔導士を得る

 自身の原点を回想したヴィルハルトの目の前で、エレインは調律を行なっていた。

 しかし幾ら魔力の流れがみえているといっても、源流が違うことで生じる変則的な魔力の流れは彼女に苦戦を強いている。

『調律』は相手の魔力の流れや速度を戦士と合わせる事で、戦士と魔導士の魔力を同調させる魔術。これが出来なければ、術式の強度が低い『整調』は簡単に抵抗され、意味を成さなくなる。

 しかし、普通の人間は魔力を視認できず、調律は術師の感覚が全て。唯一の例外である彼女は、経験の無さを知覚、そして意志で補っていた。


「こっちじゃない。それならこっちに……」


 一緒にいたいと願った。独りで戦って死んで欲しくないと願った。

 記憶のない彼女が最初に出会い、世話を焼かれ、興味を惹かれた。理由は知らないし、今は知ろうと思わない。ただ心が願う、『この人といたい』と。


「待って、何でここで色が濃くなって……!?」


 しかし、やはり一筋縄では行かない。人間の心臓と魔物の核では、魔力の源という点は同じでもそれ以外が違いすぎる。天性の才はあれど、経験が無ければ不測の事態への対処はどうしても遅れる。

 駄目かもしれない。

 そんな考えが浮かんだ時、彼女の耳に二人の男女の会話が聴こえた気がした。


『ようやく理解した。貴様、他人の意思など知らず己の道しか見えぬ人種だな』

『そうだ。つまり……お前と一緒だよ、■■■■』

『違いない。……良かろう、そこに直れ。貴様を調律してやる』


 男の口にした名前は聞き取れなかったが、まるですぐ近くで話していたように思えた。その瞬間、それまで手探りだった調律のやり方が、一斉に彼女の中に流れ込んできた。まるで何百回とこなしていたかのように、魔力の合わせ方が手に取るように分かる。一つ、また一つと流れを同調させていき、遂にその時は訪れた。


「出来た……」


 呼吸を忘れるほどに集中していたエレインは、その瞬間すうっと息を吸い込み、大きく吐き出しながら達成の言葉を口にした。

 ヴィルハルトとの距離が物理的にではなく、もっと概念的な領域で近付いた感覚。元々一つの存在だったと錯覚しそうな程に同調していた。

 これが、調律。戦士と魔導士が手を結ぶという行為。

 無論、この感覚は魔導士だけでなく、戦士であるヴィルハルトも感じているようだ。無表情な顔に少しだけ驚愕の念が露わになり、エレインと自身の剣を握る右手を交互に見ている。


「さて……時間ですね。準備は宜しいですか?」


 調律を終えた二人に、テオドールは左右に回転鋸を携えながら声を掛ける。

 二人は目線で答えを返した。


「……奴の核の位置は?」

「核ですね。……頭です」

「承知」


 次の瞬間、ヴィルハルトは一迅の黒い風となり、テオドールと激突した。

 その速さ、剣戟の威力共に先の比ではなく、テオドールは息を呑んだ。

 手元の鋸で頭部への斬撃は阻まれ、ヴィルハルトは即座にその場から退避。足を止めれば、周囲を飛行する回転鋸の餌食となる。


「これが『整調』か」


 後方でエレインが整調を掛けている。実際に自分がされたのは初めてだが、だからこそ効果の程を明確に感じていた。

 二重に身体強化を掛けたが、効果が平時の三重と遜色ない程に引き上げられている。三重ならば、魔将の認識速度さえ上回れるかもしれない。

 結論、今なら殺せる。

 全身全霊で殺意を燃やし、圧倒的な膂力と速度でテオドールを攻め立てる。さしもの魔将と言えど、魔導士の支援を得たヴィルハルトが相手では、防戦一方である。

 飛来する鋸を捌きながら、一瞬の間に一撃を叩き込む。もし鋸がエレインに向かっていけば、漸く得られた優勢が崩れる。ならばあちらに意識を割く必要が無い程に厚い攻めを。

 幾ばくかの打ち合いの末、遂にその刃が魔将の頭部に届いた。


「……チッ」


 返ってきたのは、それまで感じたこともない硬質な手応え。ゴーレムの肉体さえ遥かに超えるその硬さは、整調と二重の練体術で強化されたヴィルハルトの力でも砕けない。その手応えに動きが止められた瞬間、回転鋸の一つがエレインに向かっていった。


「させねぇ!」

「させないわ!」


 ロイドとアリナが間一髪でエレインを助け出した。既にこれまでの戦闘で大きく消耗した彼らでは、魔将との闘いには参加出来ない。事実、鋸を受け止めきれずに吹き飛ばされ、そのまま倒れて起き上がらない。アリナも地面に膝を着いていた。


「アリナさん、ロイドさん!!」

「気にすんな……ヴィルハルトがやられんぞ!」

「そうよ、アタシらよりアイツの面倒見てやりなさい!」


 地面に血を滴らせながらも強気に笑うロイド。真っ二つになっていないだけ幸いな状況でも、彼は変わらない。アリナも同様、ここに至るまで受けた脚の傷が広がり真っ直ぐ立てない。それでも気高く、英雄の妹としての誇りを胸にエレインにやるべきことを示す。

 エレインも二人の姿に涙を浮かべながらも、整調を掛け続ける。


「ええい……そういえば居ましたね、あんな虫けらが……!」

「その虫けらに崩されたな?」


 忌々し気に顔を歪め、口調を崩すテオドールの右腕が、左に薙いだ剣に飛ばされた。


「くっ……しかしですな、兄上よ……」


 一秒にも満たない速度で再生された右腕で、テオドールが前髪をかき上げる。今度は口の端を吊り上げて邪悪に笑い始めた。ヴィルハルトが訝し気な目を向けると、テオドールは嘲笑うように声を張り上げる。


「我ら『きょうだい』の長兄たる貴方が、人間風情と肩を並べて戦うなど一体どういうおつもりですかな?」

「……何?」

「穢れた生物たる人間を殺し、貪り、間引く。それこそが魔物(われわれ)の使命。その貴方が人と共に魔物(きょうだい)に剣を向けている。この異常さが分からないのですか。ねぇ、そこの人間たち?」


 ヴィルハルトは気付いた。コイツは自分にじゃなく、『後ろ』に聞かせるために喋っている。


「どういうこと……ですか?」


 エレインが反応した。明らかに動揺した様子の彼女を見て、テオドールは予想通りとばかりにゲラゲラと嗤い出す。


「クハハハハハ、いけませんなぁ、兄上! まさか己の生い立ちを黙っていただなんて!」

「口を……開くな!」

「おやおや、随分と慌てているようですね。よく聞きなさい。ヴィルハルト・アイゼンベルク殿は我らの母、エカテリーナ様が生み出した最(・)初(・)の(・)魔(・)将(・)。つまり、私はおろか外で蛆の如く群がる魔物、それら全ての兄なのですよ!」

「貴様……!」


 ヴィルハルトの上段からの振り下ろしを躱しながら、まだなお話を止めない。


「とはいえ元々人間ですし、今も細胞の半分は人間のものです。流石の母上といえどゼロから新生物を作るのは難しかったらしく、人を改造して生み出したようですね。尤も――」


 エレインは顔を俯かせ、表情が見えない。テオドールはそれを『効いている』とみなしたか、止めとばかりに最大級の侮辱を浴びせた。


「胃腸はおろか心臓や脳髄さえ存在しないものが幾ら人の細胞を有していても、人間と認めてくれる者がどれだけいるでしょうかねぇ! クッハハハハハハハハハハ!!!」


 ヴィルハルトの剣戟に首に裂かれながら、しかしテオドールの表情は勝利への確信に満ちていた。俯いたまま顔を上げないエレインの姿を、ショックで動けないのだと解釈したからだ。事実、ヴィルハルトの動きは先ほどより明らかに鈍くなっている。整調が維持出来ていないのだろう。


「いやはや、知られてしまいましたね兄上。ですがご安心下さい。ここにいる者は――」


 二つの回転鋸のうち片方をヴィルハルトの、もう片方をエレインに向けて飛ばした。ヴィルハルトは硬化を重ね掛けして受け止めたが、エレインはそうもいかない。


「皆ここで始末致しますので」


 迫る回転鋸に対して動こうとしないエレイン。ヴィルハルトが目を少し見開き、声を掛けようとしたが既に遅い。『避けろ』と言い終わる頃には、もう鋸は彼女のいる場所を通り過ぎている。地面スレスレを、唸りを上げて飛行する回転鋸。それはエレインの元に到達――


「それが……何か?」


 ――する直前に強大に重力に襲われ地面に接触して失速。顔を上げ、光を宿した瞳でテオドールを睨むエレインに軽く躱された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。