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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第一章 凶戦士と『自称』仲間たち
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魔物の襲撃

「えっ、なに!? 何ですかこれ!」

「……魔物だ」


喧しく鳴る鐘の音の意味を察したロイドは、目の前でアリナの魔法に関する講義を受けていたエレインに、諭すように言う。


「あいつらの退治は俺らの仕事だ。絶対に街には入れねぇから、エレインちゃんはここで待ってな。……行くぜ、アリナ」

「私は大丈夫よ。アンタも――」

「心配すんな。もう一つの相棒ならここにある」


ロイドはニッと笑うと、背中に背負っていた『斧の付いた槍』を指差した。


「急ぐぜ。間違いなくヴィルハルトもいる。手柄取られるぜ」

「そうね。働いてくれるのは助かるけど、宿代ぐらい浮かせたいわ」


二人は駆け出すやいなや、瞬く間に小さくなっていった。残されたエレインは、ロイドの言葉を反駁し、黒い鎧の彼に思いを馳せる。


「ヴィルハルトさん……」


アリナとロイド、彼女たちの評価から彼が魔物に殺されるような人でないことは分かる。しかし、魔物退治というのは聞いた所によると、死ぬこともあり得る危険な仕事らしい。

死。実際に見たり感じたりした記憶は無いのに、何故かとても恐ろしく感じる。

周囲の戦士達も一斉に駆け出していくのも、その非常さを彼女に認識させる。

まだ魔導士になった訳ではない自分に出来ることは何も無いが――ここで待っているのも落ち着かない。訓練所を出て集会所に入ったとき――


「あ、ちょっとちょっと。君魔導士?」


声の方向を振り向くと、お兄さんとはいえない程度の年に見える、顎鬚を蓄えた男性がいた。腰に剣を提げており、戦士だということは彼女にも分かった。


「君、パートナーは何処にいる? 行くなら途中までついていくし、見つからなかったらでいいけど、今日だけ俺と組んでくれないか?」

「えっと……あなたは?」

「ああ、すまない。言い忘れてたな。俺はアラン・バートレット。何年か戦士やってるしがない男さ。お嬢ちゃん、見ない顔だけど例の最近来た人か? 良い杖持ってるじゃないか」


アリナから貸して貰っていた杖を、エレインはまだ持ったままだった。その為か、彼女が魔導士の紋章を着けていないことには気付いていないようだ。そして、それを幸いと思う自分がいることにも気が付く。


「私はエレイン・アーネットです。アランさんの魔導士の人は、何処にいるんですか?」

「あぁ……今彼女は自宅待機中でね。ちょっとお腹が重くてな」

「病気ですか!?」


心配を顔に隠さずズイッと顔を近付けてきたエレインに、アランはたじろぎながら両手を振って心配の必要を否定する。


「あぁいやいや、そうでは無いんだが……どう説明したもんかねぇ。とりあえず元気ではあるんだ、それは大丈夫」

「そ、そうですか」

「とにかくそういう訳でね。金は少しでも稼いでおきたくてね、ウチの国は、固定給だけじゃ心許ない。だからお嬢ちゃんみたいな魔導士の協力が得られるなら嬉しい」

「すみません。私、力になりたい人がいますから」

「ふむ……パートナーね。その人の名前は?」

「パートナーでは無いですけど、その……ヴィルハルトさんの所に――」

「ヴィルハルトって、まさかヴィルハルト・アイゼンベルク!?」


「マジか」と頭を抱えたアラン。しかしながら、その口元には笑みが浮かんでいた。


「興味持つのは分かるけどさ、随分と物好きだねぇ。君アイツの戦い、見たことある?」

「ありません。だから気になってて……」

「だろうね。……ついて来な。アレを見たら、付いていこうなんて気、失せると思うからさ」


指で合図したアランに、エレインはついていく。同じ仕事をしていながらヴィルハルトに何処か恐怖している彼を見て、心配は更に強くなった。



*



現在、魔物の襲撃に対抗するため各国家は強大な壁を築き、その中を民衆の生活圏としている。十年前の『崩れの日』における膨大な被害の一因に、生活圏の分散により防衛の手が回らなかったことが挙げられてから、このような体制が敷かれることとなった。それ以来十年間、国家間の移動中などを含めても、戦士や魔導士以外の人が魔物の手に掛かることは殆ど無くなった。

魔物の襲撃時には、四つの方角に設置された警鐘を鳴らすことで伝達される。正面に魔物が見えた場合鐘が鳴らされ、その方角から魔物が来たということが認識される。今回の襲撃で、鳴ったのは『南だけ』。つまり――そこに膨大な魔物が集中していた、ということである。


「遠く見るのは止めておきなさいよ、気が滅入るから」

「もう遅ぇ」


アリナとロイドは、他の多数のペアと共に、南門に迫る魔物と交戦していた。蜘蛛と似た姿の中型魔物『スパイダー』の左眼を潰した直後、ちらりとスパイダーの後ろに見える多様な形の赤い点。あれらが全て控えている魔物の眼だと思うと、途方に暮れたくなる。

しかし、万が一魔物が街に侵入した場合、あの日の惨劇が繰り返される。それだけは許されないという気持ちが、彼らを含む戦士たちを支えていた。


「アリナ、狙われてるぜ!」

「大丈夫よ」


身体を起こしたスパイダーが、尻から数㎝(セクト)はある糸を吐き出した。後方にいたアリナに届きうる飛距離を有するそれを、何ら『整調』を乱すことなく跳躍して回避。

スパイダーは、戦闘力こそ中型種最弱だが、この相手を拘束する糸によって特に乱戦では恐れられる存在だ。長射程の糸によって魔導士が拘束され、支援を失った戦士諸共喰われることも少なくない。


「アタシを狙うなんて、見る目あるじゃない。でも、隙だらけよ――やっちゃいなさい、ロイド」

「おうよ」


無防備なスパイダーの顔面に向かい、ロイドは槍斧(ハルバード)を構えた。先の攻撃で核の位置は頭部に特定済み。身体強化を施した身体が、スパイダーの頭部一直線に飛び出し、そのまま核を貫いた。呻きのような声を漏らした後、スパイダーの身体は魔晶石を残して消えた。


「……何体目だっけ、これ」

「中型は四体目よ。小型は十体で、大型は今の所ゼロ」

「大型はキツイって。せめて共闘しねぇと」


休みなしに討伐を続けていた二人は、少し息を整えようとした――が、即座に左からオーガが雄叫びを挙げながら突撃してきた。身体を弛緩させた隙を突かれ、横薙ぎに振るわれた棍棒への対応が一瞬遅れたロイドは、頭に一撃を受けてしまった。身体が宙に浮き、その勢いを利用して後方へ下がった。


「平気!?」

「問題ねぇ! 助かったぜ、アリナ」


直撃ではない上、アリナが咄嗟に重力低下を掛けたお陰で殆どダメージは無い。しかし、今が油断も隙も無い状況だということを二人に改めて認識させる。


「こいつぁかなりしんどいぜ……気張れよ、アリナ」

「誰に向かって言ってんのよ。アンタこそ、もう気抜いちゃダメよ」


周囲から響く魔物の咆哮(ほうこう)、戦士たちの怒号、そして悲鳴。混迷する戦場で、戦士と魔導士は死闘を続ける。ある者は『英雄』への憧れ、ある者は生まれ育った街を守るため。

だが、実のところ襲撃してきた魔物の数から考えれば、こ(・)の(・)程(・)度(・)で済んでいるのは幸いだった。その理由は――彼らから少し奥にある、『魔物の包囲網』にあった。



*



戦士たちに襲いかかる魔物の群れ。その少し離れた場所で、同じぐらいの数の魔物が何かを取り囲んでいた。驚くべきことに、その包囲はたった一人の戦士の為に形成されたものだった。魔物には凡そ知性と呼べるものは無いが、本能的に目の前の者が桁外れの存在であることを理解し、集団で排除するための行動を取っているのだ。

そして、その存在の名は――。


「死ね、死ね……」


ヴィルハルト・アイゼンベルクは、一対数十という数のハンデを覆し、魔物の肉体を次々に斬り裂いては核を潰していく。

三分割したオーガの胴体。その一番上の胴の左側に剣を突き立てて核を粉砕。体を右回転させ、その勢いで小型魔物『ウルフ』の身体を二つに別れさせる。核の手応えを感じると、地面を強く踏みしめて跳躍。直後、彼のいた場所にゴーレムの拳が振り下ろされた。


「身体強化、《+一重(プラスワン)》」


スパイダーの身体を踏み台にしながら、剣を巨大化させる。そのまま真っ直ぐ飛び出してゴーレムとその後ろにいたオーガの身体を両断した。

既に五十を優に超える魔物を塵にしたが、まだ包囲は解ける様子が無い。


「どちらにせよ……」


兜が無い漆黒の全身鎧(プレート・アーマー)を纏った凶戦士は、己を睨みつける魔物全てに憤怒の念をぶつけながら、剣を構えた。


「殺し尽くすだけだ」

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