表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

一触即発

ナタリーの車でようやくアジトに帰還した久遠達は、ダニエルに詳しく報告した。


何があったのかという結果、そしてこれからどうなるかという懸念を。


「……なるほどな、事情は分かった。

それで、平和のために姐さんを止めるのが当分のアンタの目的かい。」


「んまぁ、大義名分としちゃあそうだな。

でもアテェの本音はもっとずっとシンプルだよ。」


「どういうもんかお聞かせ願いてえところだ。」


「レディに年齢訊くようなことするんじゃねぇやい、ダニエル。

アンタ女の扱いが格段に下手になったんじゃねぇんか?

何せ少し前までは男、男、男でやってたんだからにゃあ。」


「言葉に気をつけなよクソアマ。

手前の下品な口が愉快な音を立てて吹っ飛ぶ新しい遊びを思いついたンでねぇ。」


「……銃をおろせルシア、ナタリーも挑発はやめるんだ。

俺達のアジトが廃屋になっちまう。

それに俺は女の扱いが上手かった時期なんてないぜ、何せこの世のプレイボーイどもは漏れなく俺の反面教師だ。」


「謙遜はやめろよダニエルぅ。

ヨアキムなんてうちの女どもからは『歩く性欲』って呼ばれてんだぜぇ?

でもアンタは中々良い評価もらって……なぁ?」


「僕は裏でそんな風に呼ばれてたのか。

……ちょっと夜の散歩してくるよ。」


「おう、あわよくば死んで来いバーカ。」


ルシアの心ない一言を背に、ヨアキムはブツブツ言いながら玄関の扉を開けて外に出た。


「ああん、何だよ何だよ。

酒の呑みすぎでリバースタイムか?

いやでもアイツ、下戸だよな?」


ナタリーが細く長い足を組んで豪快に笑う。


黙っていれば美人なのに。


「……ちょっと待て、何の音だ。」


ガン、ガン、ガン


誰かが何かを蹴っている……?


ダニエルが窓を開けると、




ヨアキムがドラム缶を蹴りまくっていた。


「……勘弁してくれよ、アイツ性欲モンスター扱いされてキレてやがる。」


「チッ、ヘタレ放尿野郎のくせに生意気やりやがってよぉ。」


ナタリーはヨアキムの足許めがけて数回、拳銃を発砲した。


「ギャアッ!」


「三秒以内に戻ってこねぇと手前の四肢を引きちぎってそのドラム缶にブチ込んで河に落とすぞ。

アテェがここにいる間はヨソ様に迷惑かけんじゃねぇよ、ボケ!」


「クッソォ、ママに言いつけてやるからな!」


「やってみやがれ、この片玉野郎が!」


「……ナタリーの大声もかなり迷惑だと思うけど……。」


久遠が小声で呟く。


「あーら嬢ちゃん、それは言わないお約束よぉ。」




・・・




フリードタワー1階 応接室


「アンタにとって『約束』とは何だね、白人の姉貴。

……俺は予定を二転三転させられるのが嫌いだぜ。」


タバコに火を点ける西園寺。


向かいの席に座っているのはカミシア。


約束を急に取り消しておきながら、『これから会えないか』などと宣うフリーダムな女だ。


「私達は選ばれし民族……誇り高き民族よ。

私とアナタが対等だなんて厚かましいと思わない?

ねぇ、名誉アーリア人の坊や。」


「相も変わらず傲慢なオンナよ……実に見苦しい。

いつまでもその座に座っていられると思っていたら大間違いだ。

アンタのその態度は、いつかアンタ自身を滅ぼすことになる。

無敵の神にでもなったつもりか知らんが……肝はでかくても死からは逃れられないぞ。

この世にいる限りは平等に、その猛毒に侵される運命なのさ。

選ばれし民族を気取っていられたのも、時代が時代だったからさ。

神は初めから誰も選んじゃいない。

そして……『アレ』はこれから産声をあげるつもりだ。

いいか女、アンタが胸に刻むべき教訓は後にも先にもひとつだけだ。

アンタが今座ってるその玉座は、アンタが作り上げたものじゃないってことだけだ。

それさえ忘れなきゃ、無敵を気取るのはアンタの勝手だ。」


「死ぬことは構わない……怖くもない。

でもそれは、かつての屈辱を晴らしてからのお話。

でなければ今の我々には何もないでしょう。

ええ、分かってるのよ、それくらいのことは。」


要は、あの連中に負けたまま死ぬワケにはいかないという意地だ。


「下らん。」


「ええ、そうでしょうね。

でも我々の望むところは結局『戦争』だけ。

戦争に愛された人間は平和な世界から爪弾きにされる。

それがこの世の最も簡単なルールだものねえ。」


「この街を火の海にしてでも叶えたい、か。」


「ええ、そうよ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ