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見 つ け た

「よォ西園寺の旦那、元気してっか!?」


『お前は相変わらずやかましい声だな、ナタリー。

耳がイカれちまいそうだぜ。』


カミシア達が去った後の、静まり返ったバー。


ナタリーは携帯電話を片手に、客用の椅子にふんぞり返っている。


「旦那ァ、サバーカの件はどうすんだね?

アンタはあんなのを放っておくタチじゃねぇだろ?」


『サバーカ……?』


「あら、その反応だと聞いたことねぇようだな。

クローバーの母体だよ、共産主義者どもの残りカスだ。

ま、残りカスと言うには多少規模がデカいってのがムカつくところぉ。」


『資本の犬を嫌う連中が犬を名乗るとは随分と滑稽だ。

……しかし……クローバーに後ろ楯となる組織があるってのは本当だったのか。

噂だけは俺の部下達も知っていたみたいだが……。』


「世間の偽善者どもから集めたカネでクスリを作り武器を買い、戦力を拡大してきた連中さ。

正義感の強いアホほど操りやすいものはねぇからなぁ。

そしてそんな連中がよりにもよってこの街を支配しようとしてやがる。」


『で、お前の言いたいことは何だ?』


「そう急ぐなって、急げば大切なモンを見落とすぜ。」


『お前は逆に悠長すぎるのが短所だぞ、ナタリー。』


「……ナチと手を組むのはやめとけ、ありゃ『戦争』のために敵を作るマジモンのイカれ野郎どもだ。

あいつらの行動目的は『敵を倒すため』じゃなく『戦争をするため』ってことさ。」


『そんなことは知ってるさ。

だが俺達に牙を剥かない限りはヤツらの勝手だ。』


「クローバーを援助してた連中を漁ってたら、その中にナチの息がかかった組織を見つけたんだよ。

連中、赤旗を調子に乗らせたところで一気に叩き潰すつもりだぜ。

よほど負けたままなのが悔しいんだろうな……アレの本質は結局その程度さ。

旦那、あんなメンヘラ女と関わってるとロクなことにならねぇぜ。

何しろアイツはこの世のありとあらゆる理不尽を糞で固めたようなヤツよ。」


『言いたいことは充分伝わった。

お前はとても良い女だ。

それで……その情報を提供することによってお前に何かメリットがあるのか?

お前が自分の利益を省みずに動いてるんだとしたら、そいつが今一番の問題になる。』


「うちのバーが野外コンサート会場になっちまったら困るんだよ。

それに、ああいう手合いは一刻も早く地上から抹殺しておいた方が良い。

他人に手ェ貸す理由なんざ、大体はそんなモンさ。」


『……ふん、分かったよ。

首が飛ばないうちに手を打っておこう。』




・・・




「可憐なる乙女よ、ここはどこだ?

私はヤツを追いかけていたはずなのに……。」


「……迷子に……なったんだよ……はぁ……。」


あれから赤髪の女と久遠はカーシルを見つけられずにいた。


まあそれだけなら良い。


酷いのは、更に道に迷ってしまったということだ。


「ハッハッハ、よかろうよかろう!

人生、時には迷うことも必要なのだ!」


「ちょっと黙ってて……今仲間に電話するから……。」


助けてくれた時は白馬の王子のように見えたが、今やただのアホにしか見えない。


というか言動が隈無くアホだ。


構っているとこちらまでアホになりそうだ。


久遠は死んだような表情で携帯を取り出した。




『……おお、お前さんか。

もしかしてカーシルを殺ったのか?』


「殺れてないよぉ……殺れてたらこんなこの世の終わりみたいな声出さないよぉ……。

ねえダニエル、本当に最悪なんだけど……。

殺されそうになるし、助かったと思ったら変なのに絡まれるし。」


久遠が愚痴を垂れ流していると───


「待てッ、今君はダニエルと言ったのか!?」


「うわっ、何するの!?」


ダニエルのことを知っているのか?


飢えた子供が食事に飛びつくような凄まじい勢いで久遠の携帯を強奪した。


「ダニエル、ダニエル、お前はダニエルなのか!?

ダニエル・ノートなのか!?

いや間違いなくお前だな、電話越しに聞こえてくるその声も……間違いない、ダニエルだな!」


『……その声は……。』


「私だ、姫月 冬乃だ!」


女のような男なのかと思っていたが、名前のせいで更にややこしくなった。


もうどっちでも良い。


『フユノ───?

お前、あの冬乃か?

何てこった……今久遠……黒髪の女子高生と一種にいるんだな?』


「ああ、そうだよダニエル。

その声は、私が生きていることに驚いてるな……?」


『……お前に限って死ぬとは思ってなかったさ。

ブッダとイエスがRPG持って銀行襲撃したなんて話を信じるヤツはいねぇ。』


「ふふ……相変わらず下品な言い回しだ、お前らしい。」


電話の向こうにいるダニエルの声は久遠には届かない。


だが、冬乃とダニエルが旧知の仲だったということは分かる。


カーシルを逃してしまったが、今は少しばかり、この感動(?)の再会を邪魔しないでおこう。


「今すぐにでもそちらに向かいたい気分だが……待っていてくれ。

私にはやらねばならぬことがある。

それを済ませて……久遠と共に戻るとするよ。」


『ヘッ、お前の椅子はもうねぇぜ。』


「役立たずの元強盗クンの椅子を貰い受けるさ。」

この世のありとあらゆる優遇を受けたければ、弱者を偽るのが最短ルートである

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