動き出す
フリードタワー最上階───
西園寺は『赤鳳』傘下組織のトップ達を集めて会議を開いていた。
彼の強さに惹かれた者や同郷からやって来た者など、その境遇は様々である。
『赤鳳』とナチの暴力集団が対等なのは、『赤鳳』がそうした事情を抱える巨大な組織だから。
そしてその頂点に君臨する西園寺は『アジアの猛獣』『裏世界の帝王』などと呼ばれている。
過去にはカミシアとタイマンで戦ったこともある。
結果は辛勝。
それも、帯刀した彼女に対して素手で。
以来、カミシアからは片思いのような感情を向けられている。
「……クローバーの件ですが、支援していたのはヨーロッパ諸国の『慈善団体』だとか。
あの連中も、秘密裏に行われていたクスリの開発のことは知らないようです。
丸腰の連中というのは実に質が悪い。」
「だろうな、そんな気はしていた。
善だの愛だのぬかす奴は手前のエゴを美化しているだけだ。
連中が必死こいてばら撒いたカネは皆武器となりクスリとなり消えていく。
飢えたガキは増え続け、何も解決しないってな。
祖国でもこの手合いのクズは沢山見てきたさ。」
「連中のバックにはギャング組織がいるとの噂も聞きます。
もしそうなら、クスリの『完成品』は既にその組織に渡っている可能性も……。」
「そうだ、俺達が懸念すべきはそこだよ桑島。
だがひとつ訂正するなら、それはもう『可能性』なんて話じゃあないってことだ。
誠に胸糞の悪い話だが、その完成品は確実に然るべき連中の手に渡ってしまっている。」
「我々にとってはまさに脅威です。
無法地帯のようなこの街にも『秩序』がある。
その秩序を破壊しようとしている連中がいるならば、見過ごすワケにはいきません。」
「必ず仕留めてやるさ。
光の世界の住人がこの街の闇に手を出すってのが、どれほど罪深いことか……。
脳天にブチ込んでやれば目を醒ますだろう。」
・・・
ダニエル達のアジト───
「久遠、お前何か……体に力入ってないか?」
「そりゃ入るでしょ。
あれ、宣戦布告じゃん。」
「なぁに、先に殺人狂を殺せばクリアさ。
やるかやらねぇか、それだけだぜ。」
ダニエルは軽く言ってのけるが、久遠にとってはまぁ無理難題だ。
「そんな簡単にいかないよ……。」
「あのヘタレでさえやる時はやるんだ。
お前さんもちっとは根性を見せてみろ。」
「ダニエル達は根性がありすぎるんだよ……。」
「じゃあさ、今回は久遠一人でやるか?」
ルシアからの、突然の提案。
「な、何言ってるの?」
「アンタがカーシルを殺すってことだよ。
お前も相手も一人……要するにタイマンってことさ。」
「いッ……いきなりは無理だよ!」
「どうせいつかはやらなきゃいけなくなるんだ。
心配すんな、死んだら墓くらい立ててやるからさ。」
「いやぁだぁぁぁ……相手は殺人狂なんだよぉ!?」
「だから?
ギャングやマフィアに比べたらノミみてぇなモンだよ。」
「二人ともやめとけよ、久遠ちゃんはバトル担当じゃな───。」
ヨアキムが助けに入ろうとするものの、ルシアの裏拳で呆気なく沈められる。
「カミシアのボケに好き勝手言われてムカつくだろ?
見返してやれよ、今がそのチャンスってやつなんだからさ。」
「……うぅ……。」
「よし、そうと決まれば銃を買いに行くか!」
「決断が早すぎるよルシア!」
「るッさい、アンタが遅すぎるんだ!」
・・・
「……というワケさ。
コイツは初心者だから安い銃で頼むよ。」
「それならこれだな……インフィニットファング。
どこのどいつが名付けたのか知らんが、まあ性能は悪くねぇし値段も安い。」
髭を生やした黒人の男が無愛想に拳銃を渡してくる。
やって来たのはルシアが気に入っているという武器屋。
如何にもアンダーグラウンドという雰囲気を前面に押し出している感じだ。
「初心者だって言ってたな、今回は特別にタダで売ってやろう。」
「本当に?
あとでぼったくったりしませんか……?」
「ぼったくらねぇから早く持ってけ。」
「あッ、おいクソジジィ!
私が初めて銃買いに来たときはぼったくったくせによォ!
美人だからって甘やかしてんじゃないぜ!」
この街の住民の大半は、銃声でしか幸せを感じられない。