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8枚目 私、異世界で初の名刺交換しました

前回のあらすじ:国王面接に合格した!


「やっと……やっと解放された~」


 気が抜けた声を出しながら壁に寄り掛かった。疲労と眠気で瞼が半分落ち始めている。

 しかし、ここはまだ廊下。そう、この果てには不思議な世界が広がっている。それを見るまでは――いやそもそも。


「ここが異世界だから」


 現実逃避の頭にセルフツッコミを入れる余裕はある。

 客間へ戻るまでが面接だ。


「はぁ……『おとなしくしているとお思いで?』って何様のつもりよ……おとなしくしてる方が安全で友好的なのに……ああ、王様も貴族様も騎士様も疲れてるのに、こんな時間まで残業させてゴメンなさい……」


 誰もいない廊下で一人反省会開幕。


 仕事オンモードになると上から目線で論破しあってしまう。

 気付いたのは一社目に入社して二年後。同僚から上司まで面倒でうるさい奴と烙印を押され、以降、徹底的に裏方に回り身を隠した。

 意見が聞きたいと言う極稀な人には箇条書きのメモで伝えるも自信は持てず、人が来ない狭小の場所で一人反省会。前社長にはバレて専用反省部屋という名の倉庫を与えられる始末。


「上手くやった……ほうなのかな。宣言したからにはやるしかない……よね……ああ~その前にお腹空いた……眠たいよ」


 目に水滴が溜まり始めた、その時。

 寄り掛かっていた壁と頬の間にゴツゴツしたものが挟まった。


「ふへぇ?」


 大きくて生暖かくゴツゴツしたもの。

 眠気がある今は心地良く、思わず頬擦りしながら口角が緩む。


「あったかくて気持ちいい……あ、手か……って、手えええぇぇ!?」


 ()()から急いで離れ背後を振り向く。

 燭台で仄かに橙色が掛かった銀髪と紺碧の瞳――ポウタ様が無表情で佇み、素肌の左手は壁に添えられていた。



 つまり、私が今気持ち良いと思って頬擦りしていたのはポウタ様の手!?

 うわあああ! 恥ずかしいよ!!



 内心パニック状態の私とは対照的に、ポウタ様は挟んでいた左手をじっと見つめ呟いた。


「……………………痛い」

「はい?」


 痛いなら挟まなければいいのに。

 彼の言葉にむっとすると呟きが続いた。


「壁……ざらざら…………マドカ……綺麗な頬……傷つく…………ダメだ」


 本日、いろいろあり過ぎて頭の処理機能がそろそろ充電切れ間近。

 そんなギリギリの中、表情皆無で単語発言のポウタ様の翻訳をすると――


 壁はざらざらで痛いから寄り掛かるな。

 頬に傷がつくぞ。


 ――かな。ご心配、ありがとうございます。

 さらっとお肌を褒めて名前を呼んでくれたことは、今はスルーさせて下さい。

 抹消したい恥ずかしい行動の後に着火材を投下され、爆発する寸前です。何が、ではなく早くお布団に篭りたい。


 私の脳内葛藤など知るよしもないポウタ様は、見慣れてしまった無表情で佇んでいる。


 しかし、いつから背後にいたのか。まったく気付かなかった。

 他騎士や女中がついて来ようとしたのを無言の圧力――ついて来るな――で遠ざけたはずだったのに。

 《天の魔術師》と任命されても国王を脅迫するような要注意人物を一人で野放しにはしない、か。ポウタ様には慣れてきたから別にいいけども。


 そこで思い出す。

 呼吸を落ち着かせ数歩後退。姿勢を正しポウタ様を見据える。


「今日はお疲れのところ、運んでもらったり護衛をして下さりありがとうございました。あと、王の間へ入る時も背中を押してくれたお陰で緊張が解れました。本当にありがとうございます」


 緊張、不安と大事な場面で助けてもらった。

 自然な笑みと感謝の言葉が出てくるのは当然だ。


 だが、相変わらずポウタ様に変化はなし。

 先程まで観察眼が働いていたが如何せん、本当にもう疲労の限界だ。


 ぼぅとし始めた私に掌サイズの小袋を見せられ咄嗟に受け取った。

 何かこれ、某アニメ映画のもふもふバスに乗り込む生き物から貰ったシーンに似ている。そっちの方がいい笑顔だったけど。


 中身は――ナッツのクッキー。

 まさかのお菓子! まさかのナッツ! 牛肉じゃなくてよかった!


「交換…………メイシ……ない」

「え?」


『私の国では自己紹介の一環として自分の身分を記載した名刺を互いに交換します。今後、より良い信頼関係を築いていきましょうという意味も込めて』


 わざわざ代わりになるモノ、しかも私が興味を示したモノを覚えていて持ってくるなんて。

 どれだけ忠実で、真面目で、人を見て動くお人好しなのだろうか。思わず笑みが溢れてしまう。


 背負っていたミニリュックから一枚の白地名刺とペンを取りだす。ポウタ様の頭上に疑問符が浮かんだのが見えた気がした。


「私を信用してくれるなら所属と名前を記入してくれませんか? シーガス王国初の名刺交換をしましょう」


 彼は迷いなく頷き、私の手から白地名刺とペンを受け取る。

 大きな掌でさらさらと記入し両手で持ち私へ差し出す。私がしたように。

 本当に、よく見ている人だ。


 爪先を揃え両手で受け取る。

 大柄な体格に反して繊細で綺麗な文字が綴られていた。

 つっかえそうな名前を頭の中で何度も復唱し顔と口角を上げる。



「頂戴致します。【シーガス王国遊衛騎士団所属 聖騎士序列四位 レーヴィリュヒテュ・ポウタ】様ですね。これから、どうぞよろしくお願いします」

「……………………ん」



 歓迎するかのように仄かな灯りが揺らめいた。


円はクール騎士と名刺交換をした!

一言メモ→翻訳機能必須


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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