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6枚目 私、引き続き質問します

前回のあらすじ:円の能力【空気を凍らせる】が発動!


「私は元の世界へ還れますか?」



 私が一番知りたい情報。

 彼らが一番知られたくない情報。


 口元に手をあてていた人事の人が私を見据える。


「我々ではわかりません」

「そうですか……残念です」


 やはり、の返答が返ってくるが収穫はあった。


「では次に。《天属性》が少ないのはわかりましたが、それで何故召喚を選んだんですか? 必ずしも召喚される人が《天属性》とは限らないのに。実際私だって――」

「《天属性》です」


 『天属性とは限らない』と続けようとしたが、その前にハッキリと返答された。


「【異世界召喚】で喚ばれる人は《天属性》です」

「……根拠は?」

「今までが全員《天属性》だったからです。召喚直後のためか別の魔力も混在し波になっていますが、マドカ様にも天の魔力が漂っています」


 漂っていると言われても私は特に何も感じない。異世界人特有の匂いだろうか。

 視線を他二人へ向けると頷かれた。いや、頷かれても。匂いじゃないですよね?


「相違はございません。(わたくし)も《天属性》の方とご一緒する機会がございますが同じ波です」


 女中頭様にまでハッキリ言われると反論のしようがない。波までわかるなんて優秀な方だ。

 これで違ったら追い出される可能性もあったのだから、良い方に捉えよう。うん。


「今まで、と言うことは他にもいるんですね」

「マドカ様で八人目です。いた、にして下さい」


 過去形。今はいない、ということ。

 多いのか少ないのかはわからないが、他にも同じ立場だった人がいたと思うと急にやるせない気持ちになる。その人達はどうなったのだろうか。

 考え始めると徐々に不安が膨らむ。



「私が協力したとして妖獣退治に終わりは見えているんですか?」



 協力して直ぐに状況が変わることはないだろう。

 総数も分からず全てを退治するまで解放されないなら、一体どれだけの時間を費やすのだろうか。

 唇を噛みしめながら言葉を続ける。


「私の国は長い間大きな争いがなく平和な国で命の危険も少なく魔獣も妖獣もいません。だからこそ、終わりが見えない戦いがどんなものか想像もつきません。魔法も使えるかわからないですし役に立たないかもしれない。それでも……いいんですか?」


 今、私はどんな表情をしているのか。

 おそらく異世界(ここ)に来て一番みっともない表情をし情けない弱音を吐いてしまったはずだ。

 いい歳の大人が恥ずかしくてカッコ悪い。



「終わらせるために俺が戦う」



 ハッキリとした口調に目を見開く。

 他二人も驚愕の表情で声がした方へ顔を向けている。



「……お前は……俺が守る」



 頭の処理が追い付かず暫く呆然とし――理解した途端、全身が熱くなった。

 声の主は無表情、人事の人は肩を震わせ女中頭様の咳払いが聞こえた。


「ふふふ、レヴィの……ポウタの言う通りです。妖獣の巣窟には目星を付けています。だからこそ【異世界召喚】に踏み切ったのですから」


 目星が付いていると知り少し安心する。

 人事の人は、また垂れ目を柔らかくし微笑む。


「それに、マドカ様はこの国でやっていけます。何しろ陛下相手に正面から脅迫する根性がありますから」

「理由になってません!」

「……お言葉ですが、陛下の御前では最低限のマナーと常識ある発言をして下さい」

「は、はい! 本当に申し訳ございません……でした」


 不安な暗い気持ちが一気に払拭された気がした。


「召喚目的は国を平和にするため。ですが、()()今後もマドカ様と有意義な時間を過ごしたいです。あなたといるのは楽しい」

「……相違はございません」


 女中頭様の意味合いは違うかもしれないが騎士様も頷いてくれた。

 相手を知る努力、コミュニケーションを重ねて互いを知っていけば持ちつ持たれつの関係になれるかもしれない。

 そう思うと少し前向きにもなれる。



「私は……《天の魔術師》で間違いありませんか?」

「我々は《天の魔術師》と確信してお話をしています」



 真剣な眼差しで返答をしてくれた。


「ありがとうございます」


 人選は間違っていなかった。

 今はそう感じる。



◇ ◆ ◇



 一人になった客間を静けさが包む。


 《王の間》にいた人達や生活するために必要な質問をいくつかし、三人には退席してもらった。騎士様は廊下にいるだろう。

 眼鏡を外し髪をほどき靴も脱ぎソファーにもたれ掛かって一休憩。


『精霊が有する十属性の最上位《天属性》。妖獣を唯一――』


 録音機器で録った会話を再生しながら、だが。

 通常勤務を終わらせた足で【異世界召喚】され、心臓爆発寸前の緊張感と気が抜けない話し合い。正直、疲労はピークだ。

 鞄に入っているホットアイマスクで心身共に癒されたいが如何せん、爆睡する自信しかない。


 そう、まだ大仕事が待っている。


 国王が指定した一刻とは一時間。

 支度や移動時間を考えると私の運命が決まる最終面接まで残り十五分。


 鞄の中から水筒と飴玉を取り出す。

 女中頭様には申し訳ないが今は飲食し慣れた物を摂取したい。前職場には無料の飲料水とお菓子が置かれ帰り際に大量に貰った。


「しゃ……前社長ありがとうございます。還れたら専属のお酌係になりますから」


 五日後に飲み会の約束をしたが守れそうにはない。翔の卒業式も。


 そして。


 スマホを取りだし『アルバム』をタップ。ゆっくりとスライドすると笑顔の男女と純白のドレス。


 試着にも顔を出すことができなかった。

 本番までの楽しみにする、と言わずに駆けつければよかった。

 本人に直接伝えたかった。



「……おめでとう、お母さん。拓哉さんとお幸せに……でも、絶対に還るから」



 スマホを強く抱きしめソファーへ身体を預けた。



『――お前は……俺が守る』



 録音機器から聞こえる声は、まだ私の耳には馴染まない。


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