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4枚目 私、自己紹介します

前回のあらすじ:名刺が紛れ込んでいた


「お待たせしました。どうぞお入り下さい」


 緊張した面持ちで入って来たのは私が指名した男女二人。そして無言無表情の騎士、銀髪男。


 疲れているはずなのにハブられたの!?

 いじめられて仲間外れなの!?

 それとも、ただ単にお人好し!?


 心の中で、本当に心の中でツッコミを入れる。


 しかし、重苦しい雰囲気。空気を気にする日本人として、この中で話し合いはしたくない。

 どうしたものかと思案し始めた時、鶴の一声が。


「天の魔術師殿。失礼ながら、一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」


 垂れ目の漆黒の瞳、右目下に泣き黒子がある端正な顔立ちの青年。青黒色の髪を前髪中央だけ鼻先まで垂らし、サイドと襟髪は清潔に整えている。

 細身の一七五程で濃紫色の衣装を優雅に着こなし首元には藤色のスカーフを巻いている。大人びた雰囲気はあるが輪郭や声音から私より年下のはず。


 だが、衣装の装飾と色合い、最初に開口したことを踏まえると彼がこのメンバーで一番偉い人だろう。油断したらダメだ。


 異世界に召喚されて初めての会話――銀髪男は無言だったからノーカウント、国王は別枠――に、テンションは上がっているが顔には出せない。しかも質問。聞き逃しをしてはいけない。


「……どうぞ」

「何故、私と彼女を選んだのですか?」


 うん、疑問に思うよね……。


 明らかに若い青年とメイドお婆様。異世界の人と話せる内容はない、と思っているはず。

 不安や疑問を抱えたまま平等な話し合いはできない。一つずつ解消しましょう!


「お二人を選んだ理由は三つあります」


 指を三本立て、ゆっくりと言葉を続ける。


「一つ目、間接的な立場の人と話をしたかったからです。お二人は私が召喚された場にはいませんでした。しかし、《王の間》にはいた。つまり、直接ではないけれど間接的に私の召喚に関与、または情報を知らされている人達ではないか、という推測を立てました」


 最後に『推測』を忘れずにつける。召喚の場には確実にいなかったが《王の間》に入れる基準を知らないからだ。


「直接関係者では一方通行の話し合いになりやすく、この国の良さを知る前に嫌いになる可能性もあります。誘拐された身としては最初から良いイメージはありませんから」


 青年と女性は苦い表情。

 嫌味を言って発散させておかないと今後もストレスが溜まるだけだ。


「だからこそ間接的な方々に説明を求めたいのです。何故誘拐……召喚を認め、私に何を求め、今後どうしていきたいのか。部下として個人としてのお気持ちを教えて下さい」


 真剣な表情で私を見つめる二人。

 想いは届いていると思いたい。


「二つ目、女性の意見が欲しかったのと男性と二人っきりは遠慮したかったから。三つ目は自己満足で申し訳ありませんが彼ら……召喚の場にいた人達に休憩をしてもらいたかったんです」

「「!?」」

「一番言いたいことがあると思いますが、万全の状態で訴えてもらえると私も遠慮なく言い返せます。ですので、説明時間という名の休憩時間と錯覚してもらえたら、と。まぁ、彼は休憩になりませんけど」


 視線を銀髪男へ向けるが変わらず無表情。

 しかし、青年は笑うのを耐えている――何故?


「拙い回答で少しでも不安や疑問が晴れたのなら幸いです。そして――」


 深呼吸をし気持ちを切り替える。

 右手に左手を重ね、お腹の上に添え顎を引き真っ直ぐ三人に視線を巡らせる。


「――(わたくし)の勝手な我儘にお時間を割いて頂き、ありがとうございます。また、《王の間》での無礼な発言や態度、国王陛下の御前で大変失礼だったと反省しております。謹んでお詫び申し上げます」


 頭を四五度に下げ最敬礼。

 三人は呆気にとられた様子で固まっている。ゆっくり上体を起こし彼らの前へ進み爪先を揃えた両手を差し出す。


「申し遅れました。(わたくし)、異世界日本より参りました、(まどか)と申します。以後お見知り置きを」



 差し出したのは――あの名刺。



(わたくし)の国では自己紹介の一環として自分の身分を記載した名刺、これを互いに交換します。今後、より良い信頼関係を築いていきましょうという意味も込めて」


 言い方は代えたが間違ってはいないはず。


(わたくし)は、この時間を有意義に過ごしたいと思っています。もし、あなた方にもそのようなお気持ちがあれば受け取って下さい」


 暫く沈黙が流れた。


 おそらく、この国に名刺交換という文化はない。

 異世界から来た人間から得体の知れない物を受け取っていいのか。その判断に迷っているのかもしれない。

 誠心誠意を込めて謝罪と理由を話したが、それだけで信用してもらえる程、異世界は甘くないのかもしれない。


 顔を俯かせ不安になり掛けた時、名刺を持つ両手に温かな手が重なる。

 見上げると漆黒の瞳に見つめられた。


「正直、この小さな紙に何が書かれているのかはわかりません」


 よ、読めないの!?

 それは、大変申し訳ない。


「ですが『強制的に誘拐した』私達と真剣に向き合おうとする姿勢、誠意ある心遣いを見せてもらった以上、応じない訳には参りません。マドカ様のお気持ち、頂戴させて下さい」

「はっはい」


 温かな手に名刺が渡る。

 彼はじっと名刺を見つめると私に視線を戻した。


「まず、不躾な質問であったことをお詫び申し上げます」

「いっいえ、私が許可したんですから気にしないで下さい!」


 垂れ目が更に柔らかくなり表情もふわっとした笑みに変わる。

 丁寧な好青年な上に笑うと超イケメンだ!!


「名も名乗らず失礼しました。私はシーガス王国近衛騎士団所属、人事担当のクロード・シュルツと申します。以後お見知り置きを、マドカ様」


 じ、人事の方。

 私は面接中……? 合格ですか……?


「その《メイシ》というのは、まだあるのですか?」

「は、はい。いっぱい」


 正確な枚数は数えれていないが、かなりの数があった。

 人事の人は他二人、何故か銀髪男にも視線を向ける。


「マドカ様のお心に応えるかの判断は各自に任せます。否であれば退席を。私からは何も申しません」


 やはり、このメンバーでは彼が一番偉いようだ。

 上司命令はしない、という発言なのだろう。


 一拍置き高齢の女性が一歩踏み出した。


 綺麗に団子状に結い上げられた髪に右耳には銀のピアス。

 首から足元まである黒のロング丈スカートにシンプルな白エプロン、首元には青色のスカーフ。如何にもなメイド衣装だ。

 顔の皺が目立つも意思の強い瞳と美しい立ち姿は優雅さを醸し出している。


「シーガス王国王宮女中頭を任せられております、ゲルダ・パージェと申します。本来であれば(わたくし)のような下働きが天の魔術師様と話をするなど言語道断」


 眉間に皺を寄せながら屁り下った言葉を連ねているが十分にお偉い方だった。

 女中頭ってメイドのリーダーだったような。しかも、王宮の方ならメイドの中のクイーン・オブ・メイドでは。


「しかし、シュルツ様がおっしゃるように天の魔術師様の姿勢とお心遣いにお応えしたいのも、また事実。今この場でのみの無礼をお許し願います、マドカ様」


 最後、少しだけ微笑んだような気がした女中頭様は綺麗なお辞儀をし私の手から名刺を受け取る。

 名刺を渡すだけなのに、とても心が温かくなる。


 そして最後に動いたのは銀髪男。

 前に立たれると身長、体格の違いがよくわかる。


「……………………遊衛(ゆうえい)騎士団所属……聖騎士……レーヴィリュヒテュ……ポウタ……」


 低く聞き取り難い声量だったが、すっと耳に入ってきた。


 柔らかな銀髪の髪は右サイドだけ顎まである癖毛。前髪は左分けで右サイドの髪と額には組紐が巻かれている。瞳は紺碧の切れ長で鼻筋も長く、おそらく年上。

 体格の良い身体には、やや窮屈そうな紺色の騎士服に首元には赤色のスカーフ。羽織っていた白のロングコートは脱いできたようだ。

 騎士のはずだが剣は持っておらず、唯一、両腕に籠手(ガントレット)がある。寧ろ、人事の人が右腰に剣をぶら下げている。拳で戦っているのだろうか。


 手袋を外し私の倍あるゴツゴツの手に名刺が渡った。無言で受け取ると名刺を額にあて小さく何かを呟く。小声すぎて聞き取れない。


「マドカ様」

「は、はい!」


 ぼぅと騎士様を見ていたら反応が遅れ思わず声が上擦ってしまった。

 人事の人は柔らかな表情のまま右手を左胸に添える。


「我々がしたことに理解が追い付かないのは当然です。しかし、マドカ様が誠意ある聡明な方だと見込み私達は臣下として、一人の国民として説明をさせて下さい。あなたのメイシ……お気持ちに添えれるように」

「……はい、よろしくお願いします」



 さぁ、腹を割って話をして下さい!


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