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30枚目 私、駆け抜けます

※残酷描写有。苦手な方はご注意下さい。


前回のあらすじ:自分の殻を破りレヴィさんとアマリア様、副団長を【転移】召喚。成功!


 黒雲の下、急上昇と急降下が繰り返され眩暈が襲う。脳が警鐘を鳴らし始めたと同時、怒声が響いた。


「速度を抑えろレーヴィリュヒテュ! マドカ様の身体が持たんぞ!」

「!?」

「だ、大丈夫です……進んで下さい」


 言葉と声色が噛み合っていなかったのか速度が緩まり頭を撫でられる。安堵のため息を心の底で吐き、再度太い首に回した腕に力を込めた。


 只今の(わたくし)、レヴィさんに背負われ戦場を駆け抜け中でございます。何故かと申しますと――




「魔獣が妖獣を庇う!?」


 【転移(デアル)】で帰還した聖騎士二人がもたらした情報は私たちに大きな衝撃を与えた。


「はい。【幻影】と同種の幻が混在していると気付き妖獣に狙いを絞ったのですが……悉く邪魔をされます」

「……数、多い……間に合わない」

「早目に情報共有すべきところ自軍から孤立した上に【念話】は遮断。敵も自分たちを狙っている節があったので山中で撹乱、各個撃破に切り替えました」


 悔しい表情の二人。聖騎士が苦戦を強いる程に今回の敵は今までとは違うということ。

 群れで動くこと、幻影魔法は証明され妖獣を撃退できない理由も判明。あとは。


「どれが司令塔か、はバレバレほよね。ウルツ君のお陰で」


 一斉に視線がウルツへ移ると素早くフードを被りしゃがみ込んでしまった。褒められ慣れてないのがバレバレで、やはり行動が可愛い。

 地図上には一匹だけ弧を描く赤点。聖騎士二人は顔を見合わせ頷き合う。


「群れに付いた妖獣は表十六。小型の灰色羽トカゲで新規妖獣も同型ですが、黒雲の下でもわかるほど全身漆黒です」

「まるで、天の魔術師様の御髪のような色であったと……ああ、失礼」


 卑しい者を見るかのような視線と嫌味たっぷりの発言の主は――名前忘れた。

 しかし、差別と侮辱は場所を考えるべきだ。ほよ副長はもちろん、団長までもが厳粛な顔をし周囲もやらかしたなお前、みたいな視線。

 だが、一悶着は勘弁。物申しておこう。



「お言葉で「似ても似つかない」」



 威圧するような声に周囲は硬直。声の主は紺碧の鋭い視線を発言者へ向けていた。



「マドカを比喩表現に使うな……!」



 怒気が含まれた口調に発言者は全身を震わせ青白い表情で怯えている。私を含め周囲も冷や汗が見えた。

 断言するのは召喚初日以来。だが、怒気を発したのは初めてだ。私のためだと思うと胸が熱くなる。


「危険、応援、急げ!」


 不吉な発言は地図を睨み続けているウルツから。確認するとレヴィさんたちと相対していた山脈側二つの群れが湿地帯へ向けて動き始めていた。


「馬鹿な! 何故、聖騎士の方へ向かうのだ!」

「もし合流すれば二人で半数以上の敵を相手することになりますぞ!」

「自分とレーヴィリュヒテュが向かいます」

「オーディス殿の到着までは、お二人も身体を休めるべきです!」

「――落ち着け」



 騒然とし始めた場を一人の男が静粛にさせる。その顔にはいつもの笑み。


「当面の目的は司令塔を叩くことだろ? つー訳で聖騎士と魔術師以外はテントから出ろ。インガルから指示を仰げ」

「し、しかし」

「妖獣退治は専門家に任せな。代わりに魔獣は全面的に投げるから覚悟しとけよ?」


 苛立った様子で渋々と退席し残ったのは見知った人たちだけ。団長の視線は何故か私へ向いた。


「この三日間、体調に変化は?」

「? 特に。元気です」


 安堵した表情は、まるで娘を心配する父親のよう。私が憧れた父親の表情。


「二人はどうだ?」

「メイシを持った以降、常に【能力強化】と魔力消費は半分以下、敵の攻撃は致命傷にならず擦り傷だけ。魔物を狩って食い繋げば五日は持ちます」

「マドカ……メイシ……感謝」


 魔獣、食べれるの!?

 狩人(スヴェル人)、たくましい。


 名刺の効果は充分に発揮され私の身体にも異変がないということはデメリットなし、のはず。


「なら、二人にはエリオルシオたちの加勢を命じる。本当に敵が合流するかはわからんが、メイシの加護がないアイツ等の限界が近いのは事実だろう。魔術師組は司令塔退治の策を……と思ってるんだが異論がありそうだな、マドカ」

「はい。私も加勢組に入らせて下さい」

『!?』


 全員、目を丸くし徐々に眉間の皺が深くなる。寸止めで眼鏡を上げる癖を止め、真っ直ぐ団長を見据えた。


「偵察員として行かせて下さい。記憶力には自信があります。机上と映像だけでは見えない点と点を繋ぎ、打開策をまた見つけだしてみせます」

「……危険だぞ?」

「あら、お忘れですか? 私には最強の護衛がいるのを」


 優雅な笑みを紺碧の瞳へ向けるといつもの無表情で力強く頷かれる。


「問題ない」




 ――と、こんな流れで戦場を駆け抜け中。


 過ぎ行く光景には黒焦げたモノが多数あり、焼け野原から黒煙が上がる。遠く前方には淡い光と時折赤い光が確認出来た。

 徐々に禍々しいオーラと息苦しさを感じるのは襲い掛かる敵の数が増加したから。しかし、聖騎士が手を翳すだけで氷結し粉々に吹き飛ぶ。すごっ。


「奴等も幻には気付いているでしょう。フルバード殿は妖獣専門の研究者ですし、自分たちよりも情報を持っているかもしれません」


 疾風の中でも聞き取れるのは周囲に風の膜が張られているから。アマリア様に感謝。

 誘拐犯二号は聖騎士。二人一組を義務付けているなら研究者も聖騎士のはず。最前線に参加する研究者と聞くと危険人物な気がするのは本の読みすぎだろうか。



「………………空」

「はい! ……えっ!?」

「晴れない…………な」



 久しぶりに呼ばれた名前――"空"に思わず返事をしてしまった。契約書はフルネームだが王国人は読めず仕事と割り切り名字しか伝えていない。

 だが、私の反応を気にした様子はなく本当に空の話題だったようだ。ありふれた名前が憎たらしく勘違いが恥ずかしい。

 黒雲の空を見ながら確かに光が射さない。農業地帯のはずだが。


「ずっとですか?」

「………………ん……マドカ」

「はい?」


 攻撃の手は休めず耳はピクピク。今度は本当に言いたいことがあるようだ。


「………………悪かった」

「? 何のことですか」

「………………怒鳴った……マドカ、恐いのと…………背中嫌い」

「!?」


 無表情の横顔でも後ろめたい気持ちが伝わった。



『俺が恐いか?』

『何故、背後を気にする?』



 あの時の会話以降、レヴィさんは絶対に私の背後には付かず真横にいる。身勝手な私の我儘で未だに返答していないからだ。



『ならいい』



 人を見て動くお人好しの彼に甘え続けた。だけど、戦闘員として戦場に立つ以上、甘え続ける訳にはいかない。

 腕の力を振り絞りレヴィさんの肩に顎を乗せ耳元で呟く。


「謝罪は拒否します」

「……!」

「私のために怒ってくれてありがとうございます。正直、嬉し涙が出るところでした。でも、全然恐くなかったですよ」


 息を呑む音が聞こえ驚いているとわかる。戦場は別だが初めて会った時から不思議と恐いとは感じなかった。十三兄弟の包容力なのか。


「あと背後と背中は別物です。レヴィさんは嫌いじゃないって言ったんでしょ? 背中もですよ。寧ろ頼もしくて勇気を貰えます」

「………………ん」

「でも、戦場(ここ)が恐いのは事実なので……力は貸してくれますか?」

「………………信用してくれるなら」


 忠実で真面目な発言だが、今は意地悪な顔をしていると声色から感じた。それが妙に気恥ずかしく返事の代わりに膝で背中を叩く。

 レヴィさんの口元が綻んでいたのを見たのはアマリア様だけだった。




「泥寧……湿地帯に入ったか。奴等が暴れた痕に敵の増加。近い……レーヴィリュヒテュ!」

「飛ぶ」

「!!!」


 レヴィさんは地面を力強く蹴り、一瞬にして黒雲の空へ飛び上がる。

 瞬間、真下を炎が駆け抜け舞い上がった熱風は肌が焼けるほどの熱さ。炎は魔獣を呑み込み湿地を焼け野原へと変貌させた。

 目を見開き現実(リアル)の光景、黒い群れと灰色の羽、そして漆黒の生物と炎を放った人物を脳裏に焼き付ける。


「レヴィさん! アマリア様!」


 返事の代わりに二人の体勢が変わった。膨大な魔力が空気中に渦巻いているのが身体全体に伝わる。

 背中合わせに焼け野原に着地、手を翳せば青と緑の魔術式が出現。


「【――氷群!】」

「【――烈風!】」


 残党の魔獣へ向け、尖った氷の塊と風の刃が凄まじい速度で放たれ一瞬にして残党は全滅。細氷と白煙が舞う。

 その白煙の中から両翼と細長い尻尾の影が一つ見えた。それはまるで小型の竜――



 ――刹那。



 一陣の風が吹いたと思えば足元で何かが突き刺さった音が聞こえた。

 唾を呑み込みゆっくりと視線を下げれば、十字に斬られ胴体の中心をダガーナイフで突き刺された竜――妖獣が絶命。先程記憶した灰色の羽は鮮血に染まっていた。

 小声で名前が呼ばれ背中をぽんぽんと叩かれる。ゆっくり息を吐き、ダガーナイフに力を込め引き抜くと血飛沫と生臭さが漂った。足を踏ん張り目眩を堪える。


 消え行く白煙の中から二人の姿が見え始め、一人は上げていた腕を下げたと同時、射るような視線を私へ突き刺す。その瞳色は柳緑。


 忘れるはずがない。

 誘拐犯二号の色だ。


次回予告:誘拐犯二号とバトル!

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