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2枚目 私、思い出します

前回のあらすじ:国王を脅迫した


 扉を背に、その場に崩れるようにしゃがみ込む。


「ああ~圧迫面接が終わった……国王怖かった……」


 情けない声が出てしまう。

 まだ震えが治まらず鞄と身体を強く抱え込み息を吐き出した。


「周りの言う通りだよ……生意気にも口応えなんかして誘拐って騒いで、あんな交渉を持ち掛けたら私の方が悪者じゃん……と言うか脅迫だよあれ。人様のことを棚に上げておいて自分もダメじゃない……首切られても仕方なかったのに……寛大な国王陛下、ありがとうございます」


 涙目で《王の間》の方角へ手を合わせる。

 説明をする、と案内されたのはクリーム色に統一された壁、アンティークな机とソファー、調度品は最低限の物しか置かれていない客間。

 しかし、きらびやかな場所から来た今はとても安心出来る部屋だ。


「ここを選んで下さって、ありがとうございます!」


 今度は背にしていた扉へ手を合わせる。

 案内してくれたのは私が無茶振りで指名した二人。しかし、少しだけ一人の時間が欲しいと我儘を言い私だけがいる。


 いつまでもこうしていたい――が時間がない。


 ポケットからスマホを取りだしロックを解除。

 圏外の文字が見えたが電話帳から『お母さん』をタップ。聞き慣れた機械音――は響かずブツ切りに切られる。


「……こんなに虚しい音だったんだ……」


 涙ではなく苦笑いが出る。もちろんネットも繋がらない。

 背中を扉に預け、高すぎる天井へ視線を上げながら小さくため息を吐いた。


「……何でこうなったんだろう……」




◇ ◆ ◇




 日本、都内某ビル最上階、イベント会場。

 十八時四五分。


「友ちゃん、遅くなってごめん!」

「お疲れ~空殿。十九時開始だから大丈夫だよ」


 笑いながら出迎えてくれたのは大学からの親友、友ちゃんこと榊原(さかきばら)友華(ともか)

 ショートボブの茶髪、目が鋭く怖がられるが本人は気さくで明るい姉御肌。一七五の長身スレンダーなお姉様だ。


 対して私はヒールを履いて一六十にも満たず。黒髪セミロングの癖毛は上部で団子を作り、金枠の緑ヘアクリップで留めたハーフアップ。

 目が丸っこいのがコンプレックスで赤のボストン型眼鏡で誤魔化して……も同い年には見えない。悲しい。


「受付は終わってるよ。これ、イベントで使うカードと冊子ね。しかし……すごい荷物。今日が契約最終日だっけ?」


 ミニリュックと肩掛け鞄を交互に見ながら友ちゃんは苦笑いを浮かべる。


 今日付けで三年勤めた会社を退職――というか派遣の契約期間満了により辞めた。直接雇用の申し出もあったが諸々の事情で辞退。

 肩掛け鞄の中には事務員兼秘書で使用していた文房具やコップ、スリッパ等が入っている。退職日当日まで必要な物は結構あるのだ。


「三社目か。空殿のことが大好きなあの社長なら引き留めてくれると思ったんだけど……よく辞退に納得してもらえたね」

「朝一、私の(デスク)で籠城。代わりに私が殿の城で仕事したけど最終確認があったから……仕方なく五日後の宴は絶対に参加する交渉に承諾して開城したのが十四時。待ち合わせに間に合ったのは奇跡だよ」


 言葉が戦国風なのは社長が兜を被り待ち構えていたから。今日は討死に覚悟の合戦日だったらしく社員による法螺貝の合戦合図付きだった。

 意味がわからない。


「納得してないじゃん。可愛い抵抗は見事にスルーか。スイッチ入ってる時の空殿は容赦ないからね」

「?」

「まぁ、飲み会苦手な空殿を粘りで承諾させるとは流石は若きイケメン起業家! 愛されてるじゃない~お付き合いのご予定は?」

「ありません! ほらほら中に入るよ!!」


 今、顔を見られたら絶対に赤面していると体温で実感し俯きながら親友の背を押し進める。


 『愛されてる』とか言われると途端に恥ずかしい。

 恋愛経験が皆無な訳じゃないけど、やっぱりあの社長は心臓に悪い。

 普段は友ちゃん以上にお調子者でバカ明るくムードメーカーなのに、商談中は手抜きなくスマートに終わらせる姿はカッコよくてギャップが素敵だ。


「……人のことディスるのはいいけど社長のことベタ褒めしてるよ、それ。空殿はギャップ萌え好きか」


 いつの間にか横にいた友ちゃんが意地悪い笑顔で語り掛けてきた。


「オフスイッチの独り言、声に出てて筒抜けなのを覚えておきなよ。心休まる相手っていう認識に私は嬉しいし意外なギャップで好きだけど」

「気をつけます……」

「ははは、そんな可愛い大親友にお姉さんからプレゼント」


 ラッピングされた袋を手渡される。

 疑問符を浮かべながら開けると――素人目には黒色、の生地に白の花模様が刺繍された気品あるスカーフ。


「綺麗な青黒色に繊細な花刺繍……どうしたのこれ?」

「デザイン事務所に勤めたの随分前なのに覚えがいいのは当たり前か。明後日の空殿の誕生日、仕事が立て込んでて会えそうにないんだ。だから、少し早い誕生日プレゼント。空殿が好きなその色、探すの大変だったよ。あ、社長には黙っておいてね」


 ウインクしつつも照れているのか耳が赤い。

 何故社長の名が出るのかは不明だが年度末で忙しいこの時期、自分でも忘れていた誕生日。思いがけないタイミングでのプレゼントに温かな想いが膨れ上がる。


「ありがとう。大切にするね」


 互いに顔を見合わせ笑った。

 大切で忘れられない素敵な一日になる。



 この時は心の底からそう思っていた。


《社長の装備》

 ・ピコハンマー(武器、百均)

 ・兜(防具、オフィス入口にある三十万の代物)

 ・旗(社員一同より、手作り)

 ・眼鏡(自分用、強そう)


《円の装備》

 ・眼鏡(自分用、見えないから)

 ・タブレット(備品、本日返却します)

 ・旗(社員一同より、???)


《結果》

 本編の通り


《補足》

 Q、何の会社ですか?

 A、文房具です

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