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素敵な贈り物

「ライナ様!」

「…………」

「ライナ様〜〜!」

「…………」

「ライナ様!……きゃっ!」

「はぁ……。手を貸してあげるから立ちなさい」


こうしてマリア・リグレッドは無事取り巻きの一部になったのである。


主人公から取り巻きへの降格。勿論ゲーム内ではそんなイベントはない。


だけどマリアーー……かなえにとってはこれ以上無いチャンスであり、喜び以外の何者でもなかった。


「ライナ様!おはようございます!」

「……御機嫌よう。今日も無駄に元気ね」


冷たくされてもへこたれない。

だって私はライナ様の秘密を知っているのだから。


隠すつもりがないのかあるのか、渡したブローチはライナ様のバレッタとしてアレンジされている。


それは喜ばしいことであると同時に、仮面のライナ様との二人だけの秘密を晒されているようで、私はどうも腑に落ちなかった。


いや、つけてくれていることは嬉しいんだけど。


「ライナ様は今日はご予定はございますか?」

「私が予定がない日があった?」

「ない……ですね……」


ライナ様はお忙しい。


生徒会の仕事に、学業に、寮長の仕事に、と時間をフル活用している。


これが攻略対象じゃなければ一生接点を持たずに過ごしただろうというくらい時間に追われている。


「だけど側にいてやることは許してあげるわ。私がどれだけ多忙かその目で見て、付きまとうのはやめにしなさい」

「それは嫌です」

「言うようになったわね……」


ライナ様の「取り巻き」になってから2ヶ月ほどが過ぎた。ライナ様は私が取り巻きに入った途端、前から腰巾着をしていた彼女達の反対を押し切って、私だけに構ってくれている。


(愛だなあ……)


そうなのだ。愛としか言いようがないのだ。


私のような治癒しか出来ないポンコツを側においてもライナ様にとっては何の利益もないのに側においてくれている。


これを愛と言わずになんという。


(ブローチもアレンジしてつけてくれてるし)


少年に渡したブローチは、無事にライナ様に渡ったらしく髪留めとしてアップした髪に飾られていた。


元々は私がつけていたから、周りから「奪われた」などの誹謗中傷防止か、アレンジはされているけれど、ライナ様の瞳に合わせた赤い宝石はそのままだ。


「その髪留め、お似合いですね」

「じゃああげるわよ」

「えっ」

「後ろを向きなさい」


言われるがままに後ろを向くと彼女はそのままの私の髪の毛をハーフアップにして、後ろにバレッタを当ててくれた。


ライナ様のきめ細かな指肌が髪を梳く。それだけでなんだかすごくドキドキした。


「そんな……恐れ多いです」

「似合う人間に付けられた方がアクセサリーも喜ぶわ。それに私、煌びやかな物は苦手なの」


バチっと留め具が付けられる音がする。


「……大切にします」

「当たり前じゃない。誰から賜ったものだと思ってるの?ホイホイと下手に他人に渡さないことね」


不快に思われたのだろうか。

そう心配する私に彼女は言った。


「だけど貴方から物をもらった人間は喜んだでしょうね。そんなに綺麗な宝石なんだから」

「……!」


それは二人の総意ということでいいのだろうか。今は聞けないけれど、いつか聞いてみたい。


「……はいっ!」


私は元気よく返事をして、あまりの声の大きさにライナ様に叱られた。


だけど嬉しい。

ライナ様は私を嫌っていない。


むしろプレゼントをくれるほどには好感度が上がっている。


このイベントは序盤であった。


と言うことは、既に私はライナ様ルートに突入しているのだろうか?

他の三人を攻略していないのに?


色々と疑問はあるが、今はこのバレッタが手元にあることが嬉しい。


赤く厚いリボンに宝石が重ねられたバレッタは最後まで宝物になるだろう。


それこそ、私が死ぬまで。



「最近ライナ様と仲が良いですね」


グレイとの食事の時、不意に彼にそう言われた。


「羨ましいですか?」

「全く。だってライナ様はマリア様の事を目の敵にしているじゃないですか。確かに彼女は美しいですが……勿論マリア様ほどじゃありませんよ?あの性格では好きになる方はドMか顔しか見てないかの二択だと思います」


そのドMが目の前にいます。


そんなことは言えずにただただ笑っていると、アレンがそういえば、と言った。


「たしかに、2年の間でもライナちゃんは噂になってるなあ。1年の癖に生徒会副会長までのし上がった秀才。魔力すら扱えないくせにって」

「その生徒会ってそんなに偉いんですか?」


ゲーム内ではその辺りに触れられなかったから、生徒会がどんなものか、私はまったくわからない。あぁ、エドワードルートでは多少触れたかもしれないけれど中身は忘れた。


「そりゃ、上流貴族の内、成績上位陣の一部が入れる特別組織だよ?徴兵もほとんどの場合見逃されるし、偉いって言うか、みんなの憧れだよね」

「へえ、ライナ様って凄いんですね」

「魔法以外は、ですよ」


自分と仲が良い(ように一方的に見える)グレイはライナを敵視しているらしい。


「魔力なら僕の方だって……」

「ま、グレイは次期生徒会候補だもんな!大丈夫大丈夫!徴兵は逃れるよ!」

「徴兵なんてどうでもいいんだよ!僕はマリアさんを次期生徒会に出来れば……」


そんなシステムもあった。生徒会は次期生徒会の人間を指名できるのだ。


だからもし、グレイが2年生で生徒会に入ってマリアを指名すれば、マリアは徴兵を真逃れることが出来るのだ。


普通ならばの話だが。


「それは無理じゃないかなあ」

アレンが興味がなさそうに呟いた。

「マリアちゃんは治癒魔法の使い手だよ?ただでさせ珍しい光魔法の使い手が徴兵を免れるわけないと思うけど」


そう言われると、グレイはぐうの音も出なくなる。


「そもそも没落貴族の出だしね」

「そうですよ。お気持ちは嬉しいですが……私はきっと生徒会には入れませんし徴兵も免れません」


その前に死ぬしな。


私は心の中で嘲笑して答えた。


マリアは17歳になったら死ぬ。

それは避けられない事実だ。


「でも、私は気にしません!前線に出ている方よりは恵まれてますし私は私の仕事を全うするまでです!」

「マリアさん……」


勝手に感動しているグレイにアレンは呆れたように肩をすかした。


「まぁ、光の魔力持ってる時点で命の保証はされてるんだから頑張りなよ」


嫌味を笑顔でかわして食堂にいるライナを横目で見る。ライナは元の取り巻きたちと談笑しながら美しく食事を食べていた。


(私もあちら側にいるはずだったのに)


ライナ様についていこうとしたのにアレン達に見つかり連れられてしまったのだ。


ライナ様には私が勝手にくっついている状況。


一人取り巻きが居なくなってもライナ様はなんの困りもしない。


(でも大丈夫。私にはこのバレッタがあるわ)


ライナ様から頂いた特製のバレッタ。これがあればなんだって耐えられる。

次は番外編(ミニ)です。応援していたけるとやる気がもりもり出ます。

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