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実技テストと救世主

「今日は実技テストだ」


教員の一言で教室は騒ついた。


「この学園の所有地の裏山だな、そこの魔物を二人一組で駆逐してもらう。勿論怪我の可能性はある。だが、実際の戦場では避けて通れないものだ」


半年に二度、行われる実技テスト。


それは例外を持って駆逐した魔物の数で成績を決める。


上位者には勲章が与えられ、卒業時の徴兵で生存率の高い班に当てられることができるのだ。


「幸いにも今年は光の魔力を持つ者がいる。光の魔力を持つものは負傷者の治療を、そのペアの者は光の魔力を持つ者を守ることに専念するように」


ペアは自由という事で各自仲良しグループで固まることになった。


勿論私はグレイと。ライナ様は魔力の強い取り巻きの一人と。


私はライナ様と組みたかったけれどいじめっ子といじめられっ子の関係ではペアを組めるわけがない。


「僕たちは基本的に何もしなくていいから楽ですね」


当たり前だ。グレイは私を守っておけばいいんだから。


グレイは臆病だが魔力の強さは学園でトップレベルだ。グレイといれば危険はないと……、


そんなのはゲーム界では関係ないのだ。


「きゃああああああ!!!!!」

「マリアさん?!」


四足歩行の獣が茂みから飛び出してくる。


その獣は私の首元を涎で汚れた口で私の首元を銜えすぐさま茂みに突っ込んでいった。


グレイが魔術展開する暇もなかった。


茂みの中の枝木で傷がつかないよう腕で顔をかばう。


(何?!えっ、私攫われて、てか餌にされる系?!)


一瞬しか見られなかったが、見た感じ虎や豹のような見た目に近かったような気がする。


(こんなのイベントになかったじゃん!)


そりゃ当たり前だ。


ゲームなんて日常が一時的に切り取られているだけのもの。出来事の全てを把握できるわけではない。


それでもこんな生死に関わるイベントがあるなら描写してほしいものだが。


どのくらい運ばれたのだろう。


このまま餌にされるのも視野に入れ始めた頃、獣の身体に衝撃が走り、私は勢いよく放り出された。


「ガウッ!」

「きゃっ!」


地面に投げ出された身体が生肌に擦り傷を作る。


ちょうど目の前に倒れた獣の身体には火傷痕のものが浮き出ており、短い毛を焼け焦がしていた。


「……やっぱり弾丸レベルの大きさくらいしか出せないか」


そうして私の前に現れたのはボロ布を見にまとったライナ様だった。


「待たせたね、野暮用がなかなか終わらなくて」


おそらく取り巻きを撒くのに時間がかかったのだろう。


ライナ様は短剣を懐から取り出すと獣を目前にして構えた。


「ごめん、僕は大事なものに手を出されて黙っていられるタチじゃないんだ」


ライナ様はそういうと、足を踏み出した。


その一歩だけで彼女は獣に距離を縮め剣先を振り下ろす。首を目掛けて。


それは確実に仕留めるための動きであり、その剣筋には一切の躊躇も無かった。


だが獣も命のやり取りを察知してそのままではいられない。


「ーー!」


ライナ様を喰らおうと真っ直ぐに向かっていく獣。


ライナ様は一瞬で身を屈め、向かってくる獣の首元の急所の肉を抉った。


「!!」

「チッ」


傷が浅かったのか獣を一瞬で葬る事はできなかった。


だが、獣を牽制する事は出来たらしい。


彼、又は彼女は茂みに逃げ出していく。


「……はあ」


ライナ様は一つ息をつくと私に向き直った。


「怪我はありませんか?」

「は、はいっ!無傷です!」

「それはよかった。万が一貴方に何かあれば騎士の名折れですから」


仮面と深く被ったフードで表情は見えないが声色はいつも通り優しい。


(あぁ、やっぱり私はライナ様が好きだ)


ゲームのイベントが無い日常もこうやってマリアのことを助けてくれていたのだ。


そのお慈悲にやはり女神の様な方だと再確認する。


「さぁ、お連れの方がお待ちでしょうから早く行きましょう。きっとご心配なされてますよ」

「はい……」


出来ればこのまま彼女と一緒に居たいのだけど。


だが彼女の状況や立場を思えばこうして送ってくれるだけでも感謝すべきなのだ。


きっとライナ様はご自分の相方を放り出して、こうして自分の警護をしてくれるのだろうし(そんな事をしたらライナ様の評価が下がってしまうと言うのに)首元に浮かぶ汗から相当急いで来たはずなのだ。


「あの……」

「なにかな?」


ライナ様は私の方を見ると首を傾げた。


「いつも助けられてばかりいて、あの、なにか、お礼がしたいです!そりゃ没落貴族の生まれの私が出来ることなんて少ないですけど……それでも何か貴方に報いることがしたいです!」

「君が幸福であることが一番の報酬だよ」

「そうじゃなくって!……貴方は私の気持ちを考えたことがありますか。ずっと知らない人に守られてきて、なんのお礼もできなくて、ただ与えられるものを享受するだけの人生」


そんなものは辛いだけだ。


「私は貴方に何か返したい。お願いします。何かさせてください」

「……じゃあ君の持っているそれを僕にくれないか」


ライナ様が指差したのはドレスの胸元に飾られている宝石で彩られたブローチだった。


「これを……ですか?」

「あぁ、それは無理だろう?」


これは若くして死んだ祖母から受け継がれて来たブローチだ。なんでも祖母の姉が死ぬ前にくれた大事なものらしい。


「大事なものだから無くさない様にね」


それが母の口ぐせだったがそんなものは知らない。どうせこっちはあと数年したら死ぬのだ。


「こんなものでよければ」


私はショールを留めていたブローチを外すと、ライナ様に手渡した。


「ちょっと待ってくれ、これは君の家に受け継がれて来た大事なものだろう?」

「それなら渡さないだろうなんて推測は無駄ですよ。私は貴方のためならなんだってします」

「……困ったな」


彼、または彼女はぽりぽりと頬を掻くと、渋々とそれを受け取った。


「大切にするよ」


ライナ様はブローチを受け取ると、何かに気づいた様に身体を跳ねさせ、ホッとした様に息を吐いた。


「お迎えが来た様だよ、お姫様」


その言葉の後ろで聞こえてくるのはグレイが自分を呼ぶ声。


近くに来ているらしく、声はどんどん大きくなる。


「じゃあ僕はこれで」

「……あの!」


マントを翻して離れようとしたライナ様を引き止める。


「今度は個人的にお会いしてください……。明日二十二時、学園の噴水の前でお待ちしております……」

「……」


ライナ様はなにも答えずその場から離れた。


入れ替わる様に茂みをかき分けてグレイが駆け寄ってくる。


「マリアさん!大丈夫でしたか?!」

「は、はい」

「服が乱れてしまっていますね、上着をどうぞ……」

「えぇ……」


ふわっと男性用の香の匂いがする上着を肩にかけられるとやっと気が抜けたのか、足元から崩れ落ちてしまった。


どうやら自分でも気づかないうちに恐怖を閉じ込めてしまっていたらしい。


「こ、怖かったあ……」


「すみませんマリアさん、俺が間に合わなかったばかりに……」


「いえ、いいんです。それより持ち場に戻りましょう、教官にバレてしまいます」


なんとか立ち上がって、よろついた身体を支えてもらい持ち場に戻った。

次回はライナとマリアのデート回です。応援よろしくお願いします。

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