エドワードとマリア
マリアの勘違いは十年前まで遡る。
「エドワード・フローレンスでございます」
金髪、青い目、絵本の中みたいな理想の人。
王子様が現れたのだと思った。
ライナ様の婚約者だと、紹介された。
だけどマリアはすぐにわかった。
太刀筋が同じなのだ。大好きで大好きでたまらないフードのあの人の剣の太刀筋と。
きっとそうだ。この人があの人なのだ。
「あ、あの、フローレンス様!」
まだ「花咲かなえ」の記憶を引き継いでいなかったマリアはエドワードに駆け寄った。
「い、いつもありがとうございます!」
そう言って花壇で摘んだ一輪の花を差し出した覚えがある。
あぁ、なんて愚かなのだろう。
その時マリアは確かにエドワードに恋をしてしまったのだ。
それが勘違いとも知らずに。
実際はライナ様の祖父にエドワードは稽古をつけてもらっていて、太刀筋が同じだけなのに。
だけどその恋心は主人格が「花咲かなえ」に変わった今も心の隅に残っている。
(ライナ様の婚約者なんだけどな、一応)
片恋は自由だと言うが、結果的にエドワードルートではライナ様から略奪する形になるのだから救えない。
ライナ様はエドワードに恋愛感情はないから良かったものの、これで相思相愛だったら倫理観的にどうなのかと思う。
そんなわけでエドワードを見ると勝手に胸が高鳴り、思春期の少女のようにドギマギしてしまう次第なのである。
(どっちが悪役令嬢だよ……)
自分の恋の為にルートによっては人の婚約者を奪うマリア。
一人の少女のために自分の人生を犠牲にしたライナ様。
答えは明白で、だからこそ私はマリアを許せなかった。
(ライナ様……、マリアじゃなくて私を好きになってはくれませんか……?)
マリアなんかより私の方がきっといい性格をしているのに。
だけど、無理な話だ、だってここはゲームの中の世界。
花咲かなえはお呼びではない。
いつだって、どこの世界だってそうだ。
『お前はいらないよ』
他称友達にだって、職場の人間にだってそんな態度をされた。
そんなひとりぼっちの時に没頭したのがゲーム創作だった。
理想のキャラクターは自分の好きなように動いてくれるし、私を裏切ったりしない。だって私が作っているんだから。
幸い文字は書けて金銭的余裕もあった私は一人で同人サークルを立ち上げてシークレット・ブルームを制作した。
だけどここに来てから、いや記憶が戻ってからか。いつだって人生はうまくいかない。
私はライナ様と幸せになりたいだけなのに。
どうしたら誰にも邪魔されずにライナ様と幸せになれるんだろう。考えるのはそんなことばかりだ。
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