最終決戦
22時、準備があるからと連れられた先はライナ様の自室だった。
長剣、短剣、銃、様々な武器が飾られている。
「私は魔法が使えないから」
その内の長剣を掴み取り、短剣と共に腰に携える。
「かなえ」
ライナ様がわたしの名前を呼んだ。
「貴女のことはわたしが守るわ。そのかわり、貴女が知ってることを教えてほしい」
「わたしが知ってること?」
「なんでもいいわ。些細なことでも」
「……まず、理解に苦しむとは思いますが、この世界は恋愛を楽しむゲーム『シークレット・ブルーム』の世界です。私ーー……花咲かなえはちょっとしたことで死んでしまってこの世界に転生してしまいたした。花咲かなえとしての記憶が戻ったのは一年前、だから貴女の正体は知っていました」
「恥ずかしい限りね……」
ライナ様は頬を染めてそっぽを向いた。
「いえ、恥ずかしくなんかありません。わたしは貴女に救われました。何回も、何回も、数え切れないくらい」
わたしは出来る限りの笑顔で笑った。
こんなものでお礼になるとは思わないけれど。
「貴女がいるから、今の私がいます」
ライナ様は驚いた様に振り向いた。
「死にかけた時、危なくなった時、助けてくれてくれたこと、全部知ってます。それで貴女が傷ついたことも。だから私に出来ることならなんでもやります」
「……じゃあ、ライナでいいわ」
「えっ……?」
「敬称はつけなくていいと言っているのよ」
「ライナ様……!」
「貴方の頭は鳥以下ね」
ライナはため息をつくと自室の扉へ向かった。
「エドワードのところに行くわよ」
「はい、」
中庭ではエドワードが優雅にお茶を嗜んでいた。
「遅かったじゃないか、ライナ」
「レディにはお色直しが必要なのよ。かなえ、下がって」
「用件はわかっていると思うが……」
土が下から押し出される音。その後に私たちの目に入ったのは明らかにこちらに殺意を向けられた地面から生える氷の釘だった。
ライナは間一髪のところでそれを避け、その瞬間、ライナの手元から長剣が引き抜かれる。引き抜いたと同時に剣先はエドワードに向けられた。だが、それはエドワードの氷魔法ーー氷の壁で受け止められてしまう。
「クッ……」
「不便だな、魔法が使えないというと言うのは」
何度も何度も氷の壁を壊そうとライナは剣を振るう。
だが、壁は崩れない。
「トロッコ問題という言葉を知っているかい?」
紅茶を啜りながら、エドワードは優雅にそう言った。
「マリア嬢が今ここで死ねば世界は平穏を保つことができる。数人の犠牲と一人の犠牲、どちらを選ぶか。ライナ、聡明な君ならわかるだろう?」
「それでもっ!」
剣先が欠けた。
「私はマリアを……かなえを見捨てたくない!」
「……美しい友情だな」
ライナが剣を振り上げたその時だった。
後ろから氷釘が地面から勢いよく飛び出でくる。その狙いはライナだった。
「ライナッ!」
だがその声は間に合わず、彼女のドレスは血に染まった。
「か、はっ……!」
治癒魔法を使おうとすぐに駆け寄ろうとする。だがそれはエドワードの雹牢に止められた。
「マリア嬢、私は救世主になりたいんだ」
ティーカップを置いて近寄ってくるエドワードは私に向かってそう言った。
「フローレンス家の当主は完璧でなければいけない。だったら、世界を救うのだって当たり前のようにしなければいけないだろう?」
エドワードは私の顎に手を触れると意地悪そうな目で笑う。
「マリア・リグレッド。君には世界の為に死んでもらうよ」
「……させないわよ」
ライナは無理やり氷釘を抜き取る。周りには血が滴る。だけど彼女はそれを意にも解さなかった。
「かなえは私が守るわ。今までと同じように」
「ハッ!師匠から聞いたよ!それだって自己保身の為だろう?!」
そうだ。ライナは腕の痛みの為だけに自分を守ってくれているだけだ。だけど、その答えは想像してたものとは全く違った。
「最初はそうだったわよ。煩わしくて仕方なかった。でも、かなえを知って、理解して、それでいいって思ったの」
息を切らしながらライナは言う。相当ダメージが大きいのだろう。それでも彼女は叫んだ。
「だからこれは私の意志よ!神にも、誰にも邪魔はさせない!」
「……ッ!」
「君は『そういうキャラクター』だからそう言えるんだ!このゲームはこの花咲かなえが作った自主制作ゲーム!」
「……」
「君は作者に愛されたからいいだろうなあ?!だけど愛されなかった人間はどうなる?!ただ、前座のために作られたキャラクターはどうすればいい?!おしえてくれよ!」
「私はそんなつもりで貴方をつくったわけじゃ……」
「そんなつもりだっただろう!君に私に対する愛なんてなかった!君が私を選ばなかったのがその証拠だ!」
「……っ」
何も言えなかった。エドワードの言うことは正しい。
「……ほらな、神様なんていないんだよ」
そうだ。
シークレット・ブルームは「私が書いた」ゲーム。
私の都合のいい世界が作りたくて作ったゲーム。
神様なんていない。
「……いるじゃない、神さまなら」
傷だらけの身体でライナは叫んだ。
「かなえ!願いなさい!この状況を打破出来るような解決策を!」
(解決策……!)
ライナの属性は火、エドワードの属性は水、今の状況なら氷を解かせる!
私はめいいっぱい叫んだ。
「私は書き換える!ライナ・エトーレの「設定」自体を!」
「なっ……!」
冷たかった空気が一気に熱を帯びる。発生源はライナからだった。身体を貫いていた氷釘も溶けて水と化している。
「ここからが勝負よ、エドワード・フローレンス」
「ま、待ってくれ!君は世界が滅びてもいいと言うのか?!その一人の少女の為に何千人、何万人の命が犠牲になってもいいと?!」
エドワードの言うことは最もだ。もし私がハッピーエンドを迎えたら、アレンもグレイも、他の人たちもみんな消えてしまう。エドワードが正しい。
それでも。
「私はこの子と世界の終わりを見ることにしたの」
これはエゴだ。
世界を敵に回すようなエゴだ。
だけど後悔はしない。
この人が居るなら。
「ライナ!」
「……さよなら」
一瞬だった。
首が飛び、血が吹き飛ぶ。
最期は呆気なかった。治癒魔法でも手遅れなほどの致命傷。
……彼は、
彼は何のために生まれたんだろう。
初めて自分の作ったキャラクターに明確な同情心を覚えた。婚約者を寝取られて、世界の真実を知って、気狂いになりかけながらも正義を執行しようとした。
彼は間違った事を何一つしていない。
綺麗事を言っているのはわかっている。願わくば、天国が存在するのならそこへ。
そう首に祈りを捧げているとライナが声をかけた。
「ここにはいられないわね、早く逃げましょう」
手を取られ中庭の扉を開けようとする。
「待ってください!傷が……」
「……優しいのね、人殺しに」
治癒魔法をライナにかける。全力をかけていると言うのになかなか傷は塞がらない。
「血が止まればいいわ。どうせバレるのだし」
「バレるって……」
「中庭には監視魔法が仕掛けられているの」
「でも!それなら正当防衛なんじゃ……」
「過剰防衛」
「それじゃ……」
「えぇ、わかっててやったわ」
じゃないと殺されるから。
エドワードはこの世界の秘密を公にすれば基地外か、もしくは英雄になれただろう。だが、もうその可能性はない。
「馬を用意してあるの。逃げるわよ」
「随分と用意周到ですね」
「エドワードと同じように私も色々考えてたのよ」
用意されていた馬に乗り込み路をかける。
「ここからどうするんですか?」
「さあ?どうしましょうか」
「そこは何も考えてないんですね」
「一応考えてはいるわよ。お爺様の別宅があるの。そこにお邪魔して、世界の終わりでも見ましょうか」
「世界の終わり?」
「攻略キャラクターが死んだらゲームは成り立たないわ。それとあまりに逸脱した行動もゲームを崩壊させる」
「……世界の終わりを2人でかあ。ふふっ。名案ですね」
件の別宅は学園から2晩駆けた所にあった。
小さなお屋敷で、長年使われていないのか所々埃をかぶっている。
「つっかれたー!」
「はしたないわよ。……ほら見て、空が」
ライナが指差した外には空のテクスチャが剥がれ駆けて灰色に染まっていた。
「きっと町は大混乱ね」
「そうですね」
「数日持つかしら」
楽しそうにそう言うライナに私は問いかけた。
「ライナは……この世界が嫌いだった?」
あまりにも嬉しそうに崩壊した空を見るから。私は無意識にそう質問していた。
「そうね、嫌いだったわ。神さまなんて大嫌い。今でも」
ドキッと、心臓が跳ねた。
「でもね、神さまがいなければ私は生まれなかったわけだから、それには感謝してるわ。それに貴方にも出会えなかった」
「……私は神さまなのに?」
「神さま以前にかなえはかなえよ。私が何年も守ってきたお姫様。それを簡単に嫌いになれると思う?」
「それは……」
愛ではない。ただの情だ。
シークレット・ブルームは二人が結ばれてハッピーエンドになる。これは世界の終わりに近づいているのだろうか。
私はもちろんライナが好きだ。
だけどライナのそれは愛じゃなくて情。
中途半端な感情はこの世界をどこに連れていくのだろう。
そう考えていると、不意にライナが息を飲んだ。
「ライナ?」
「……黙って隠れて」
玄関の大扉が開けられる。
「ライナ、ここにいるんだろう」
しゃがれた老紳士の声だった。
「だとしたら何?お爺様」
「聖女を渡しなさい」
「嫌よ」
即答だった。老父の声は荒々しくなっていく。
「お前は自分が何をやっているのかわかっているのか!」
「最初にかなえを守れと言ったのはお爺様だったじゃない!」
「こんなことになるなんて知っていればお前にあんなことを教えなかった!あぁ、だから「先代」は17になる前に……」
老紳士は叫ぶように言った。
「お前は悪魔だ!魔王だ!世界を滅ぼしたくなければ早くその女を殺せ!」
「嫌よ」
その声は冷たく、決別の色を孕んでいた。
「かなえはもう私のもの。世界だって、私を傷つけた世界だって全部消えちゃえばいい!」
「お前……!」
剣を抜く音がする。それから金属が当たる音。荒い呼吸が館に吸収された。
「私は十分頑張った!もう解放されてもいいはずよ!」
「死によってか?!」
「そうよ!幸せになるにはそれしかないじゃない!」
そうだ。ライナにはこれから先、希望がない。徴兵されるか、政略結婚の道具にされるか。だったらここで死んだほうがマシだ。この世界と共に。
でも、そんなの悲しすぎる。
幸せを感じずに終わる人生ってなんだ。辛いだけの人生ってなんだ。
そんなの生きてる意味なんかないじゃないか。
「ライナ!」
「かなえ?!」
気づいたら私はテーブルの隅から飛び出していた。
「甘いな」
私に気を取られたライナの手から剣が弾かれる。
「どうして出てきたの?!」
「ライナのお爺様、私が死ねばこの世界は元どおりになりますか」
「文献には『リセット』されると書いてあった。君には意味がわかるだろう?」
データは全てなくなる。アレンやグレイとの思い出も、ライナとの思い出も。私の存在自体が全てなかったことにされる。
「ええ……。でも約束してほしいことがあるんです」
「なんだい?」
「ライナはエドワードを殺してしまったけれど。世界を救った英雄として扱ってほしいんです。幸せってそういうことでしょう?」
「どこかの孫と違って話が早いな」
老紳士は短剣を私に向かって放り投げた。
「待って!かなえ、そんなことしなくていいの!私たちはこのまま世界の終わりを待ってればいいんだから!」
「無理よ」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「だってライナは、私を愛してくれていないじゃない」
短剣が身体を貫いた。
そう思った。
だが実際は紅く血に染まっているのはライナの腕で、自分は無傷で。
「……愛してるに決まってるじゃない」
短剣を素手で掴んだライナは血を滴らせながらそう言った。
「勘違いしないでよね。貴女が死んでもいいと思ってるならとっくの昔に鍛錬なんか諦めてるの。あんな辛い鍛錬、誰が好き好んでやるものですか」
「じゃあ諦めるつもりはないと?」
「当たり前じゃない。私は『攻略対象』よ。それも、とびきり作者に愛されたね」
そう言って血まみれの短剣をライナは床へ投げ捨てた。ドレスを歯で破いて包帯がわりに剣の塚に固定する。
「さあ。お爺様、戦いましょう。魔王が勝つか、勇者が勝つか、見ものじゃない」
「あぁ」
踏み込みは同時だった。そして剣が当たる音。強い力が反発した剣は一旦距離を取るものの、鈍い音は止まない。
一瞬、痛みからか、ライナの動きが鈍った。老父はその隙を逃さず脇腹を貫通させる。
「かはっ……!」
血が流れている。血が流れている。
私の大切な人はまだ生きている。
(今の私にできることはーー……)
「治癒の光よーー……」
詠唱時間は長い。範囲だってギリギリ入るかわからない。間に合うかどうかすらわからない。
それでもやらないよりはマシだ。
「痛みを、病を、全ての災厄を祓いたまえ。我が聖なる力の元に活性の力をーー……」
剣を杖に膝をつくライナに剣が振り下ろされる。
「魂の祝福【アニムス・ベネディクトゥス】」
ガン、と鉄の当たる音がした。
「残念。私の相棒が間に合ったようね」
剣を弾いてライナと老紳士が距離を取る。
「どうしてだ!君が死ねばライナは幸せになれるんだぞ?!」
「……愛してるって言ってくれたから」
「そんなことで?」
「そんなこと?あなたは愛を知らないのね」
私は死ぬまで一度も愛を知らなかった。
それこそ、死んで、ライナと出会うまで。
「愛は最強なのよ、お爺様」
ライナが踏み込んだ。突然の攻撃に老体は反応できなかったのだろう。老紳士は肩からライナの剣に切り裂かれた。
「ガッ……!」
血しぶき。赤。鮮血。
ライナのものではないそれはなんの感慨も私に起こさなかった。
「……あい、か」
老紳士は諦めたように呟いた。
「あの方は最後まで私のことを好きでいてくれなかったな……」
「そんなことはないんじゃない、かなえ」
私はライナ様から賜ったバレッタを手渡す。
「その宝石がその証拠でしょ」
「あぁ……」
老紳士は、満足そうな顔をすると目を閉じた。
「……これで良かったの」
「ええ」
外を見るとボロボロと世界が崩壊する景色が見えた。テクスチャが剥がれていく。
「屋上の特等席で世界最後の瞬間でも見ましょうか」
「うん」
階段を上がる。
「ねえ。かなえ」
「なあに?」
「男性のエドワード達はわかるわ、でもどうして女の私を作ってくれたの?」
それは目を丸くするような質問だった。
「女の子でナイト様ってかっこよくない?」
「それだけ?」
「それだけだよ」
本当は、若い頃モデルになった女の子がいたのだけど。それは言わなくていい。
「それだけの理由で私はあんな剣術や体術を学ぶ事になったのね……。でもいいわ、許してあげる」
ボロボロと世界が壊れていく。
「この景色がとても綺麗だから」
この世界の人間も消えていくのだろうか。わからないけれど、消えるのはほんの少しだけさみしい。
「人間が二人だけになったらどうしましょうか。私たちも消えるのかしら」
「わからない。わたしもゲームの世界に来たのは初めてだから」
「それもそうね」
ライナはカラカラと笑った。淑女らしからぬ笑い方で、これが本来の彼女なのかもしれないと思った。
「もしふたりぼっちになったら」
彼女がぽつりと呟いた。世界が黒に近づいていく。
「キスのひとつでもしましょうか」
「え、ええ?!」
「だってこれ、恋愛シュミレーションゲームよ?私たち何もしてないじゃない」
「わ、わたしはライナ様と一緒に居られるだけで光栄というかその……」
顔が赤くなってしどろもどろしてしまう。
「冗談よ」
「じ、じょうだん……」
ふふ、とライナが笑った。その表情はどこかスッキリしたような、憑き物が落ちたような表情で。自分は彼女に過酷な運命を背負わせてしまったのだと再確認する。
(ごめんなさい……ライナ……)
そんなわたしの心中を知ってか知らずか、ライナは怒ったようなフリをして文句を言う。
「いくら私が完璧超人だとは言え、貴女は私に無理難題を押し付けすぎなのよ!幼少期からずっとそう!あー!死ぬ前に神さまに一度行ってみたかったのよね!どれだけ属性盛れば気がすむのよって!」
「う……、その件は大変申し訳なく……」
でもライナルートは好評だったから許してほしい。
言い訳を考えていると、不意にライナの表情が変わった。
「でもね、感謝もしているの。エドワード、アレン、グレイ。いい男なんていっぱいいるのに、私を選んでくれてありがとう」
ま、当然のことだけど。
そう付け足したライナに私は涙目だったと思う。情けない顔で笑いかけた。
「こちらこそ、私の側にいてくれてありがとう」
ずっと言いたかった。妄想の時から、
今まで、ずっと寄り添ってくれたライナ。ありがとうなんて言い切れない。
「何よ泣いたりして。世界の終わりの日って言うのはね、笑顔でいなきゃいけないものなのよ」
「……どうして?」
「終わりがあればまた始まりがあるからよ。もしかしたらまた、どこかであえるかもしれないじゃない」
「……そうね、そうだね」
きっとどこかで会える。これが終わりじゃない。この世界が終わったとしても、この記憶がなくなったとしても、きっとどこかで会えるかもしれない。
館が崩れ始める。世界の崩壊が近い。
「かなえ、こっちむいて」
「えっ?」
振り向くと唇が触れていた。
一瞬、幻だったかと勘違いするほどの数秒。でも確かに、唇同士が触れていた。
「〜〜?!」
「最後のプレゼントよ!光栄に思いなさい!」
そうしてついに崩れた床の瓦礫がライナを連れて行く。彼女は落下しながらもいつまでも幸せそうに笑っていた。
私もボロボロの彼女を見て笑った。
「世界の終わりを二人で見ようって言ったじゃん……」
続いて飛び降りた私をライナはか細い声で叱った。
「こら」
瓦礫に埋もれたボロボロの身体でライナは言った。
「貴女は自分で作った世界の終わりを見届けなさい」
「どうして……?」
「それが創作者の責任だからよ。ちゃんと物語は終わらせなきゃ」
こんなセリフは望んでいない。
だけどそれは、なぜかストンと心の内に入った。
ライナなら言うだろうな、と笑ってしまった。
「ねえライナ……、ライナは私を恨んでる?」
「どうして?」
「幸せにしてあげられなかったから」
そういうと、ライナは力なく笑った。
「幸せっていうのはね、他人が決めるものじゃないの。私が不幸じゃなかった、と思えばそれはどれだけ辛い人生でも不幸じゃなかったのよ」
「……ごめんね」
ハッピーエンドにしてあげるはずだったのに、どこで間違えたんだろう。
ライナはそれきり、動かなかった。
世界が壊れる音がした。
ボロボロとテクスチャが剥がれていく。
世界が終わる。
世界が、終わる。
そんな世界を見て、聖女の名を冠していた女は笑った。
ただの普通の女も力無く笑っていた。
手を繋いで、ただ笑った。
そこには何もなかった。
仲間も、家も、家族も、そこには何もなかった。
そこにあったのは、二人だけだった。
一緒に。
天井から落ちる瓦礫が自分の上に影を作る。
後を追うまでに時間はかからなかった。
夜に終わります!
ブクマ。評価などいただけると書いてよかったーってなります!




