幕間
コンプレックスが解消されたライナ様はそれはもうカッコ良かった。
件の実技試験では大物の魔物を仕留めた功績を教官の前に投げ皆を驚かせた。
『ラ、ライナ・エトーレ。君の気持ちはわかるが他人の功績を自分のものにするのは』
『お言葉ですが教官、これは私がこの剣で自ら仕留めたものです。もしお疑いになるならこの場で証明してもよろしいのですが』
『……マリア・リグレッド、彼女の言葉に嘘はないのか?彼女が剣を扱えるなんて、いや、そもそも女が剣なんて……』
『本当の事です』
その言葉に一気に周りがざわついた。
『本当の事ですし、女が剣を扱えて何が悪いんですか?』
そういう問題じゃ……、はしたない……、あのライナ様が……、いろんな声が耳に入る。
だけどもう二人は無敵だった。
何も怖いものなんてなかった。
『これからは私は隠さずにいきますので。教官、剣術の訓練は私も参加させていただいてもよろしいですね?』
それは有無を言わさない声色だった。
空気が凍る。
数秒の沈黙の後、静寂を破ったのは教官の方だった。
『……許可しよう。ただし女だからと言って容赦はできない』
『不要です』
それからはもうライナ様の天下と言っても過言ではないほどの活躍だった。
元々学園一と名高いエドワードと並ぶほどの人物なのだ。
社交などの実技科目では一学年で上を見ないほどの成績を見せ、学力ではもちろん一番。
そして剣術では男共を超える。
男は悔しさから奥歯を噛み、女はそのカッコ良さから告白する者や親衛隊までできるようになる始末。
完全に「時代」が追い付いていた。
取り巻きも増え、ミーハーな女どもが周りを囲み、私など一切近づけない。
……そんな状況にマリアは焦燥を、かなえはいら立ちを覚えていた。
「私が一番最初にライナ様のことを好きになったのに……」
「あら、嫉妬?」
「そうですよ。嫉妬です」
「かわいらしいこと。心配しなくてもいつだって一番に優先してきたのは貴女だったじゃない」
「そう……ですけど」
「同じよ。今までも、これからも。……それじゃ嫌?」
「ひぇ……」
そう言われてしまうと何も反論ができなくなる。
だって推しに『どんなにファンがいても一番は君』って言われて反論できるファンがいるか?
いや、ない。骨抜きにされることはあっても、それ以上の反応を返せるオタクなんていないのだ。
「一過性の騒ぎよ。すぐに収まるわ。それまではこうして生徒会室で会うので我慢して頂戴」
「……理解はしました」
ちなみに仮面を捨てたライナ様は今では堂々と剣と足を振るっている。
一年の没落貴族に構うとライナ様が飛んでくると噂されるくらいには。
平穏だった。実力を隠すことが無くなったライナ様は生徒会長の無敵の右腕としてその地位を確固たる物としている。
『でもアイツ魔法使えないじゃん』と負け犬の遠吠えのような僻みを言う輩も居たが、それも彼女を実際に相手にすると皆黙った。今やこの学園で真っ向から勝負できるのは同じ師を持つエドワードくらいだろう。
「そういえば、最近元気がないですね。エドワード様」
まあ、あれだけ盛大にフラれれば是非もないだろうが、それにしても最近は覇気がない。
「生徒会にも会議以外ほとんど来ないし……、あ、でも仕事は片付いてるんですよね。私たちが帰った後にやってるのかな……」
「……色々思うところがあるのよ、私にも、彼にも」
そう言ったライナ様はどこか難しい顔をしていて。
私には彼女が何を考えているかなんて想像もつかなかったのだ。




