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エドワードとライナ

生徒会での日々は特に何かあるわけでもなかった。


授業の後に生徒会室に行ってライナ様の仕事のお手伝い。内容は書類整理や学園のポスターの張替えなどの雑用が中心。


役に立っているのかはわからないが、ライナ様のお傍にいられるのは幸せだった。


「この書類、ページ順に留めておいて頂戴」

「はい♡」


きっと今は取り巻きよりもライナ様と一緒にいる時間は長いと思う。


優越感を抱きながら今日も攻略対象総スルーと言うシナリオブレイクを決行中だ。


だが、生徒会に入るということは通常1周目ならエドワードルートに入るということ。


こまごましたイベントは起こってしまうのは仕方がないことで。


「マリア嬢、仕事の事で相談があるんだが今時間は取れるか?」

「は、はい……」


胸が跳ねる。私の中のマリア、落ち着け。


教官室までの道を二人で歩く。どうやら合鍵を教官室まで返しに行くついでに自分は呼ばれたらしい。


「単刀直入に言うが」

「はい」

「……ライナは私に好意を持っているだろうか」

「は?」

「客観的に見て」


何を言っているんだこの男は。マリアとライナ様は相思相愛(予定)なんだからそんなわけがないだろう。


だが、そうだった。思い出した。私は親への当てつけとしての寝取りが書きたくてエドワードという男を作ったのだった。


悪役令嬢からの寝取りなら罪悪感も少ないし、その令嬢がメイン攻略キャラな上にその気がないなら無問題!


実際にあったらライナ様のその後だとか問題だらけだが、そのための十七歳で死亡設定なのだ。


推しの人生にこれ以上に迷惑はかけないスタンスは貫きたいので、マリアの死後はライナ様は予定通りフローレンス家に嫁ぎに行く。


そんな経緯で作られたこの男はライナ様に好意を持っている。(それでも押せば靡く程度だが)


だからこうしてマリアに客観的な好感度を伺ってくるのだ。ここで『勿論、婚約者ですもの』と儚げに泣きそうな笑顔で言えばエドワードルート突入。


「理由は好いてくれているかわからない女性の傍にいるより、好いてくれる女性の傍にいる方が安心するから」お前は女か。


いや、自分で作っておいてなんだけど。


「……そうですね、ライナ様は恋愛という視点ではエドワード様の事を見ていないと思います」

「はは……はっきり言うな」

「はっきり言わないとエドワード様は不安でしょう?」

「それはそうなんだが……、なあ、ライナはどうすれば私の事を好いてくれると思う?」

「花束でも渡せばいかかですか?大抵の女性はそれで喜びますよ」


と、言ったのがいけなかった。


「……ライナ、いつも私の傍についていてくれてありがとう。そして婚約者としてこれからも共に道を歩んでいってほしい。これはその……前払いとでも言おうか。もらってくれないだろうか」


大輪の赤い薔薇の花束をエドワードはライナ様に差し出した。


「いらないわ」


ライナ様はそれをバッサリと切り捨てた。幸いだったのが、ここが生徒会室で、二人とマリアしかいなかったことだと思う。


「私がそれで喜ぶと思って?そこら辺の女と一緒にしないで頂戴、エドワード。私が喜ぶことは貴方が一番わかっているはずよ。『婚約解消』私たちがどうにかできる問題ではないけれど」

「わかっているさ!こういう女々しいことが君が嫌いなことくらい!でも不安なんだ、君とこれから上手くやっていけるかどうか……」

「『上手くやっていけるか』じゃなくて『上手くやる』のよ。花はそこのマリアにでもあげたらどう?お似合いよ」


ライナ様はそう言い放つとぴしゃりと音を立てて部屋から出て行った。


自分のアドバイスのせいもある。流石にいたたまれなくなってマリアはエドワードに声をかけた。


「エ、エドワード様……」


「うう……」


(あらら。泣きそうになっちゃってる。でもそうだよなあ、まだ高校生くらいだもんなあ)


ゲームの中の出来事だと、他キャラについては他人事になっていたけれど、この子たちもちゃんと「今」を生きているのだ。


傷つきもするし、喜んだりもする。


推しと接する事に夢中になりすぎてそれを忘れていたかもしれない。


「大丈夫ですよ」


気が付いたらそう口に出していた。


「悔しいけれど二人が親元の口だけですが、婚約関係なのは事実です。その事実だけで勝ちも確定ですよ。恋愛感情なんか後から作っていけばいいんです」

「本当か……?」

「本当です」


しゃがみ込むエドワードによしよしと頭をなでる。それが不敬なことだと気づいたのは事が終わってからだった。


「す、すみません!不敬でした!」


つい、「花咲かなえ」だったころの癖が出てしまった。慌てて手を放そうとする。


だけどエドワードはそれに憤慨することもなくマリアの手を頭に両手で固定させたまま呟いた。


「……もう一度頭を、撫でてくれないだろうか」


ああ、そういえば。この子は幼い時に母親を亡くしていた。だから愛情に飢えているのか。


ライナ様への不安症もそれが起因だろう。


「よしよし、大丈夫ですよ」


敵に塩を送る真似はしたくないが、昔から子供には弱いのだ。


「きっと、ライナ様はエドワード様を好きになってくれます」


そんなことは絶対にありえないけれど、この言葉が少しでもこの子の癒しになってくれればと思う。


「……ありがとう」


落ち着いたのか手を離される。


薔薇の花束は誰にも渡されず机の上に置かれたままだった。


「その花束は君にあげよう。大抵の女性はそれで喜ぶんだろう?」


その瞳には嫌みの一つもなく純粋な好意しか映っていなかった。


(まるで私が悪役令嬢みたいね、ほんと)


絶対勝てない戦をけしかけて、慰めてのマッチポンプ。罪悪感が心を蝕む。


その代償か、エドワード様が持っていた花束があの没落貴族に!?と周りからあらぬ疑いをかけられるのは別の自業自得の話。

応援いつもありがとうございます!

今回は百合成分薄めで申し訳ないですが話の都合上必要なのでご容赦ください。

引き続き応援よろしくお願いします!

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