舞踏会前日
「舞踏会の演習?」
アレンが言った一言に私は素っ頓狂な声をあげてしまった。
「うん。この学園は貴族が多いから舞踏会やそういう交流なんて日常茶飯事なんだけど、上流貴族の出じゃない子ーーライナちゃんとかね、もいるでしょ?そういう子が将来嫁いだり、騎士として入り込んだりするときに不便がないように年に三回くらいかな~あるんだよ」
「へえ~、で、それと私と何の関係が?」
「グレイと組まないでくれる?その代わりお兄さんと組んで♡」
「ええ……」
「だって耐えられないもん!舞踏会の演習でペアになった男女は結ばれたりしたりしなかったりするんだよ?!お兄ちゃんそんなの認められません」
ブラコンここに極まれりだ。
「いや、私好きな人いるんで」
「グレイ!?」
「違います」
でもそうか、そんな演習があるのか。
そのジンクスは元々男女の関りが薄いこの学園では(婚約者がいたりするからね)恋愛のきっかけとして生まれたのだろうけど、それに信憑性があるのならば、ぜひライナ様と一曲踊りたい。
女同士なんて到底無理な話だけど、仮面の少年としてのライナ様なら……、そこまで考えてはっとする。
私、彼の呼び出し方法知らない。
この場合連絡先だろうか。
いつも危険な時、真っ先に来てくれるから連絡なんて考えもしなかった。
元々マリアも自分も内気で自分から人に絡むようなタイプじゃなかったし。
そんなジンクスがあるなら、いやなんとかご一緒したい。
「それっていつあるんですか?」
「明日」
「明日!?」
それはさすがに急すぎる。
いくら危険な時に現れてくれるとは言え、そんな今日明日で都合よくホイホイと危険なことが起きるわけがない。
「……本当は好きな人と踊りたいけど……、アレンさんがそういうなら一緒に踊らせていただきます」
「?いるなら踊ればいいじゃない。恋愛運上がるよ?」
「踊れたら踊ってますよ」
もしライナ様が男だったら、玉砕覚悟で誘っていたかもしれない。
でも、ライナ様は女性で、婚約者のエドワードがいる。今回もエドワードと踊るだろう。
(でもそういえば……)
エドワードルートでは二人が些細なことから仲たがいを起こして、それで当てつけとしてエドワードと一緒に踊ったっけ。
それで「嫉妬で言葉も出ないだろう」なんてエドワードは勘違いも甚だしいことを言っていたけど……。
(今回も二人を仲たがいさせればライナ様はフリーになる……?)
そこまで考えてハッとする。
いやいやそれで問題解決するわけじゃないんだって!それに私は悪女か。
(今回はあきらめるしかないかなあ)
はあ、とため息を吐くと「幸せ逃げるぞ~」とアレンが余計な忠告をしてくれる。
でもそうだ、ライナ様は私が危険になるとやってくる。
それを利用して自ら危険な所へ赴き呼び出す作戦はどうだろうか。
(だーかーらー!私が悪役令嬢かっての!)
本当に昔から自分本位の悪知恵ばかりが働く。そんなのライナ様に迷惑が掛かってしまうじゃないか。
もうこれに関してはどうしようもない。ゲームの中でもライナルートにこのイベントはなかったし、あきらめるしかない。
人生は時にクソだ。だが、救済もある。
「はいそこ!姿勢が悪い!相手の足を踏まないように気を付けて!」
「は、はい!」
きっかけは些細なことだった。
アレンとの会話の際、偶然通りかかったライナ様に言われたのだ。
「そもそも貴方、踊れるの?」
「……」
そうだ。リグレッド家は今や平民に毛が生えたような没落貴族。
社交ダンスなんてする機会はない。
「……踊れません」
「あらら」
「はあ……」
肩をすくめたライナ様は手袋をした手でマリアの手を取った。
「それなら私が練習相手になってあげるわよ」
「ライナちゃん男役もできるの?」
「この私にできないのは魔法しかないわ」
ふふん、とドヤ顔でそういうライナ様。なんの自慢にもなっていない。
「そういうわけで、今日から明日までみっちり私が教えてあげるわよ」
「あ、ありがとうございます……」
棚からたな餅とはまさにこのこと。
そういうわけで私はライナ様とのレッスンを受けることになったのである。
相変わらずゆっくりです。応援よろしくお願いします。




