6 花束の中のアレ
ずずーん。
これがマンガだったら、きっと今、俺の頭の上には、石でできた文字が載っかっているだろう。
いや、結論から言えば、何も問題ないんだけど。
うん、どのみち誰かを婿に迎えるんだから、それが誰であれ、綺麗に決まったのはめでたいことだ。
相手が王子様なのにも目をつむろう。
どうせ、第4王子なのに王位継承権6位とかって微妙な立場の王子だ。
王城で飼い殺されるより、婿に出た方が楽なんだろう。
王家の姫が降嫁すれば、下にも置かない扱いをされるっていうし。
たとえ、何の権限もない“女公爵の夫”なんて立場でも、生活水準自体は悪かないだろうしなぁ。
でもなぁ。
声を大にして言いたい。
王子、俺のどこを気に入った!?
第4王子ブルスロック殿下との婚約が成立して5日が経った。
そして、明後日、俺に会いに来るって先触れが来てるんだ。
何しに来るんだよ。
この前の顔合わせから、まだ10日も経ってないぞ。
なに話しゃいいんだよ。
頭がぐるぐるしてるうちに2日経ち、(一方的な)約束どおり、王子がやってきた。
「これはアーシュラル嬢、わざわざのお出迎えありがとうございます」
「よ、ようこそ」
しょうがねぇだろ! 来るっつうんだから!
側妃腹だろうがなんだろうが、王子は王子なんだよ。丁重にもてなさなきゃならないこっちの身にもなってくれよ。
「どうか受け取ってください。心ばかりの品ですが」
こいつ、やることも王子様だわ。少女マンガに出られるよ。
大きな花束抱えて婚約者の屋敷訪問とか、お前はどこの少女マンガの王子だ。
「…(コク)」
まったく、され慣れてないから、礼の1つも言えないじゃないか。
バラの沢山入ったこんな大きな花束持ってくるなんて、まったくキザな…って! これ!
「あ!…これ、あの…」
この花、もしかしてかすみ草じゃないか!?
「お気に召しませんでしたか?」
「違っ、この花、名前…」
「どれですか?」
「これっ!」
俺は、かすみ草らしき花を指さした。
礼儀とかの話をすれば色々と問題ありそうだけど、ずっと探してた花なんだ、大目に見てくれ。
「ああ、これは…何だったでしょうね。
すみません、実のところ、私は大まかな指示をしただけで、自分で花束を作ったわけではないものですから、細かい花の名前までは」
なんだよ、知らないのかよ! 役に立たねえなぁ。
いや、待てよ。王子は知らなくても、作った人に聞けばわかるわけだよな。
だったら、聞いてきてもらえばいいじゃないか。
「次」
「はい?」
「次、聞いてきて、ください…この花」
「この小さいやつですか? どうされるんです?」
「庭に。欲しかったの」
「ああ、この前の庭に植えるわけですか。
わかりました。次回までに調べておきます」
「ありがとう、ございます。とても、嬉しい、です」
よっしゃああああ! かすみ草が手に入るぞ!
こういう時は、ちゃんと礼を言わなきゃな。
俺は、礼節を知る女なんだ。
王子が帰った後、ニーナが
「ご所望の小さなお花、伝手ができてようございましたね」
と言ってきた。
かすみ草の件では、俺が上手く説明できないせいでニーナに苦労かけたからな。
「本当に」
永年の望みが叶って、俺の頬は弛みっぱなしだ。
「殿下が次にいらっしゃる日が楽しみでございますね」
「早く来てほしい」