5 俺はコミュ障なんだよ!
とうとう恐れていた事態になってしまった。
「そんなにも私との会話はつまらないのでしょうか。
先程から、生返事ばかりです」
生返事っつうか、まともに会話が続かないせいで王子の機嫌が悪くなってる。
違うんだ!
王子様とサシで話すのなんて初めてだから、緊張してるだけなんです。あなたが気に入らないとか、そんなんじゃないんだ!
って言いたい!
「所詮は政略結婚ではありますが、私は、できれば心の通った夫婦になりたいと思っています。
世間知らずの王子の甘い幻想とお思いになりますか?」
「い、いえ…」
「あなたは、私を拒んでおられる。
確かに私は子爵家出の側妃が生んだ王子でしかありませんが、この婚約はサルード公爵家にとっても利があるはず。
何がお気に召さないのか、教えていただけませんか」
だから、別に不満とかじゃないんだってば!
俺はただ、緊張してしゃべれないだけなの!
「わ、わたしは、ただ…」
「ただ?」
「コッ、コミュ障で…」
「こみゅしょうで? “こみゅしょうで”とは、何のことでしょうか?」
「ぜ、前世、から、…コミュッ」
噛んでばっかで話が続かない。誰かなんとかしてくれ! ニーナ、助けに来てくれよぉ。
「前世の、記憶、が、コミュ障で…」
「記憶、ですか? 何の記憶です?」
「う、馬、馬に、踏まれてっ、死んでっ」
「馬? ああ、ご幼少の頃に馬に踏まれそうになって以来、苦手だと伺っておりますが、それが関係あるのですか?」
「前世の、記憶が、甦って、」
ヤバい、前世とか言っちまった!
「…ああ、踏まれて死ぬかと思った記憶ですか。それは…怖かったでしょうね。5歳のころでしたか。
その記憶が甦ったんですか? それは、辛いことを思い出させてしまいまして、すみませんでした。
これほど取り乱されるとは思わず、無神経なことを申しました」
「それは…別に…」
別に、取り乱したわけじゃなくて、元々俺はコミュ障なんだよ。
「けれど、こうして取り乱された姿を見ると、失礼ながら親近感が湧いてきます」
パニクってる俺のどこに親近感覚える要素あんだよ!
「あなたは、人形などではない、血の通った1人の女性です。
そうしておられる姿は、言葉を選ばずに言わせていただければ、お可愛らしいです」
「か、かわ…」
可愛らしいって、…なに、今の流れ、どうなってんの!? 全然ついていけないんだけど!
もう、その後は、言葉にならなくて、あ…とか、う…とか、ほとんど唸ってるだけみたいな感じだったのに、王子は上機嫌だった。
むしろ、俺をからかって遊んでんじゃないかってくらいに。
そして、上機嫌のまま王子が帰り、3日後。
婚約が本決まりになった。
何がどうなってるのか、誰か教えてくれ。
次回は4日午前7時頃にアップします。
王子視点となります。