4 顔合わせっつうより、お見合い?
本日、3話もアップしております。
まだの方は、そちらからお読みください。
「はじめまして、アーシュラル嬢。
ブルスロック・グルーと申します。
お会いできて嬉しいです」
遂に顔合わせの当日になった。
やってきたのは、噂の第4王子。
キラッキラの金髪に青い瞳、絵に描いたような王子様だ。
俺より1コ上だったはずだよな?
これが12歳のガキンチョの挨拶か?
卒がなさ過ぎて、いっそ笑えるわ! 2年も経ったら、少女漫画のヒーローになれるぞ。
子供らしさの欠片もない王子に、俺は早くも逃げ出したくなった。
いやいや、さすがに挨拶もしないうちに逃げ出したくなるってどうなの?
俺は、ありったけの理性と根性を総動員して、淑女の挨拶をした。
王子様が相手だけど、婚約のための顔合わせの場だから、臣下の礼とかとっちゃダメなのだ。それくらい、勉強してるぞ。
「サルード公爵が一子、アーシュラル・サルードと申します。
お会いできて光栄です、殿下」
…あ! ヤバい、ここは「光栄」じゃなくて「嬉しい」で返さなきゃダメなとこだった!
バカバカ、俺のバカ!これだからコミュ障は…。
あ~、やり直させてくんないかな。今のなし! つって。
無理だよな…。
ふと気が付くと、ガーデンテーブルに移動している最中だった。
俺がぐじぐじ考えている間に、状況は容赦なく進んでいたらしい。
どうやら会話もしていたようだが、何を話したのか、全く覚えていない。
まずいことを口走ってないだろうな。
テーブルに着くと、当たり障りのない会話が始まった。
王子は、庭の花を褒めてくる。まぁ、定石どおりだよな。
一応、この庭の花は、俺が庭師に命じてコーディネートしてる。
正確には、俺がニーナに言ったことを、ニーナが庭師に指示する形でやってるんだけどな。
だって、俺が直接庭師に言っても伝わらないから。
庭を思うようにレイアウトできるまでには、聞くも涙、語るも涙の大河ストーリーがあったんだ。
なにしろ、花の種類とか指定するのも一苦労だからな。
この世界、印刷技術はあるんだけど、カラーのカタログはさすがにないんだ。
俺も花の絵を描いて指示できるような絵心はないし、外を出歩かないから、実物を指して“こんなの”と言うこともできないし。
隙間を埋めるのに、かすみ草辺りが欲しいんだけど、ニーナに言ってもわかってもらえないんだよな。小っちゃくてあんまり価値がないのかもしれない。
ともかく、そんな感じで苦労して整備した庭を褒められるのは、とても嬉しい。
「これだけの種類を集めるというのは、相当なご苦労があったのでしょうね」
わかってくれるか! そうなんだよ、本当に苦労したんだ。
「あの…ええ、まぁ」
“ええ、まぁ”じゃないだろうが!!
今の、会話が弾むチャンスだったんじゃないか!? せっかく無理なく話せる話題を振ってくれたのに!
千載一遇のチャンスだったのに!
もう、一言だって会話が弾む気がしない。
「──ですね」
「えっ?」
しまったああぁぁぁぁ! 落ち込んでたら、聞いてなかった! 今、なんて言ったんだ!? 聞き返してもいいかな?
「あ、あの…今…その…」
「え? ああ、噂どおりの深窓のご令嬢なのですね、と」
「深窓?」
「ええ、この屋敷から、ほとんどお出にならないと伺っています」
「は、はい」
“ほとんど”っつうか、全く! ちっとも! 全然! 出ないけどな!
けど、“深窓のご令嬢”ってのは、どうなんだ?
まさか「真祖」の聞き間違いじゃないよな。
いくら日に焼けてなくって顔真っ白ったって、吸血鬼じゃないぞ。日光に当たっても灰になんかならないぞ。まぁ、この世界で吸血鬼の話とか、聞いたことないけど。
「アーシュラル嬢は、馬車が苦手と伺っていますし、外出は大変なのでしょうね」
大変っていうか、不可能なんだよ、不可能。
「馬は…怖い、です」
自分でも情けないとは思うけどな、怖いもんは怖いんだよ。
そんでも、7歳の頃は、馬の声を聞くだけで失神してたんだ。頑張って克服したんだぞ。今は、2m以内に近付かなければ大丈夫だ。
「領地の方においでになったことは?」
「いえ…」
馬車に乗れないのに、領地に行けるわけないだろうが! 何言ってんだお前! なんて言えないよなぁ。
「行きたいとは…」
行きたいよ、そりゃ。なんなら、行ったっきり戻ってこなくてもいいぞ。社交なんざやりたくないし。
同年代のお嬢様方と談笑なんて、難易度高すぎて倒れるわ!
ずっと領地にいて王都にいなければ、社交しなくてもいい。それは、憧れの世界だ。
公爵家の跡取りじゃ、そういうわけにもいかないんだけどな。
…って、あれ? いつの間にか、ニーナがいない。王子と2人っきりになってる。
これは、あれか? 見合いによくある「あとは若い者同士で…」ってやつ。
見合いかよ!? …ああ、見合いだったんだよな、これ。
どうしよう。
難易度がストップ高だ。
お陰様でたくさんの方に読んでいただけているので、調子に乗って、明日3日も午前7時頃にアップします。
次は裏4話(ニーナ視点)です。