後日談1 コミュ障の俺が結婚!? ~転生令嬢のはずかし新婚記~
リクエストいただいた後日談、新婚生活です。
うわあぁぁぁぁ! 結婚しちゃったよ! 人妻だよ、俺! まだ11歳なのに人妻かぁ…。すげー。
まぁ、こっちの結婚式が大仰じゃなくてよかった。
人前で誓いのキスとか、ケーキ入刀とか、絶対できる気がしないもんなぁ…。
オープン馬車でパレードとかやったら、ひきつけ起こす自信あるね。
前世じゃ、他人の結婚式にだって出たこともなかったのに、いきなり自分の結婚式だもんな。
まぁ、式はともかく、結婚しちゃったなぁ。いや、ロックとだから問題ないけどさ。それにしたって、初夜だよ、初夜!
さっきまで風呂で磨かれて、なんか香油? とかってのを塗りたくられて、いつもより薄い夜着を着せられて。今は寝室でベッドに座ってロックを待っている。
この寝室は、2人それぞれの私室とドアで繋がってる。
う~ん。俺、前世でもそういう経験なかったしなぁ。うまくできるんだろうか。
あれ? 俺は女だから、ロックに任せとけばいいのか? でも、ロックだって、ついこの前13歳になったばっかだぞ。
まさか、経験豊富だったりしないよな?
なんか嫌だぞ、それ。
う~ん。でも、なんか貴族とかって、そういうのの手ほどき受けるみたいなこと、聞いたことあるしなぁ。
なんかモヤモヤする。
初めて同士で下手くそよりは、ロックが上手な方がいいのかな。でも、なんか面白くない。
「アーシュ、お待たせしました」
寝室にロックがやってきた。
えっと、“今来たとこ”って言えばいいのか? …違う! それはデートの待ち合わせだ! えっと、何て言えばいいんだ!?
「…待ってた」
だから、そうじゃないだろう! ああ、もう泣きたい。こんな時まで上手くしゃべれないなんて。ロック相手なら、かなり普通にしゃべれるようになってきたってのに。
「ロックは、練習、した?」
しまったあぁぁぁ! 何口走ってんだよ、俺!
「あ…いえ、私は、血筋を残すことは期待されていませんでしたし、そういうのは。
あの、不安でしょうけど…」
「嬉しい」
あああ、また、ついポロッと。ロックの奴、固まってるじゃないか。…って、おい!?
「アーシュ、きっと生涯支えますから」
嬉しそうに抱き締めてくれたぞ?
…よかった。
「うん、ずっと一緒…」
※※※※※※※※※※※※※※※※※
目を覚ますと、隣にロックの寝顔があった。
よかったよ。朝チュンとかならなくて。ロックはずっと俺のこと気遣ってくれてたからな。それでも体はあちこち痛いけど。
あ、なんか爪のとこに赤いのがついてる。血?
ロックを起こさないようにベッドを出て俺の私室に行くと、ニーナが湯浴みの準備をして待ってくれていた。
「奥様、おはようございます。
無事お床入りになられまして、おめでとうございます。湯の用意ができておりますので、こちらへどうぞ」
俺を見るニーナの目が生暖かい。わかっちゃいたけど、結構な羞恥プレイだな、これ。
お湯に入ったら沁みるかと思ったけど、案外そうでもなかった。
そういや俺、生まれ変わってから怪我なんてしたことあったっけ? 傷が沁みるとか、経験なかったりしてな。あはは。
う~ん、なんか、あちこち筋肉痛っぽいから、お湯が気持ちいいなぁ~。
…あれ? そういや、輿入れだと、確認とかあるんだっけ? 俺の場合、どうなるんだ?
「ニーナ、シーツってもしかしてお父様に…」
「はい、奥様のお印は、大旦那様にご確認いただく手はずになっております」
やっぱりか~~~~。
貴族の当主としては、やっぱそういうのあると思ってたけど、初体験を親に知られるって、なんか気まずいよな~。
朝食の席は、ロックが一緒に住むようになってから変わっていない。
上座、つまりテーブルの一番奥正面に当主であるお父様。んで、その右手側面に次期当主である俺、俺の向かいに夫であるロックって並びだ。
うちに来た時点で、ロックはもう王位継承権を放棄してたから、俺の方が立場としては上だったんだ。
「婿殿、今後のことなのですが」
「はい」
お父様は、ロックのことを“婿殿”って呼んでる。これも、一緒に住むようになってからずっとだ。
一応敬語なのは、生まれが王子だからっていう理由。王家の姫が降嫁した場合も、夫からは呼び捨てになるけど、他からは呼び捨てられるようなことはないらしい。
それにしても、“今後”ってなんだ?
「アーシュの望みでもありますゆえ、当家においては、アーシュの許しある限り、名代として動いていただいて結構です。
領地についても通達してありますので、いつでもどこにでもおいでいただいて構いません。もちろん、アーシュとの旅を楽しんでいただいても」
お父様! それって、ロックの言葉は俺の言葉と思えってことだよな?
ロックってば、今まで遠慮っつうか、王家の人間が下手に口出さないようにってすげえ気ぃ遣ってたんだよな。
これで、気兼ねなくしゃべれるようになる。
ロックが俺の代わりにしゃべってくれたら、すげえ助かるよ。
朝、俺の爪に詰まってた血みたいなのって、きっとロックのだよな。多分、俺が爪立てたり引っ掻いたりしたんだ。
背中に爪の跡とか、前世にマンガで見たことあるけど、自分がつける側になるなんて思わなかったな~。…ロック、痛くなかったかな。
後で訊いてみよう。
「ロック、背中、見せて」
夜、寝室に来たロックに言ってみた。
ちょっと驚いた顔したけど、すんなり脱いで見せてくれる。
うわ、みみず腫れがいっぱい。片側8本ずつくらいないか? 撫でてみる。
「痛くない?」
「痛かったのは、アーシュの方でしょう。
体は辛くありませんか?」
「辛くはない。まだ少し痛むけど。
それは構わない」
ま、今夜はしたくないけどな。跡取りはすぐには必要ないし、焦らずゆっくりいこうぜ。
「ロック、ずっと一緒」
「ええ、アーシュ。ずっと一緒です」
明日夜、後日談2をアップします。
…いつから、後日談がひとつしかないと錯覚していた?




