おまけ 貴族の思惑・父の愛
本編全般にわたるサルード公爵(アーシュの父)の想いです。
第4王子であるブルスロック殿下が、ブード子爵家を王太子派に参入させたいので口利きを、と打診してきた。
第4王子といえば、なかなか革新的な意見をお持ちと噂の御仁だ。
正妃腹であれば後継者争いにも発展しかねないほどの才と聞くが、惜しいかな、側妃腹で立場が大変弱い。
なにぶん王太子殿下が凡庸なお方ゆえ、第2王子派は、王太子殿下への対抗馬としてぶつけ、潰し合わせて漁夫の利を狙おうとしているらしい。
それでなくとも、王太子派の中でも過激派が、対抗馬となりうる王子を全て仮想敵として潰そうと画策しているところだ。
殿下が私を頼ってきたということは、噂に違わず目端が利くということだろう。
王太子派の中でも穏健派で、年の釣り合う跡取り娘がいる。政治的野心がないことを示すには、うってつけと言えるだろう。
保護されるに当たって、手土産として側妃の実家であるブード子爵家を傘下に、と言ってくるバランス感覚もなかなかのものだ。
アーシュとの婚約を発表すれば、当面の安全は得られるだろう。
殿下は、予想以上にアーシュの心を得たようだ。
侍女からの報告によれば、殿下が足繁くお通いになる中、手製の茶菓子でもてなしているとか。
料理長に絶賛されるほどの腕でありながら、遠慮がちで私にも供したことがないものを、殿下には出しているらしい。
しかも、殿下の来訪を心待ちにしているという。
殿下との会話の中には領地経営にまつわる話も出てくるそうだが、その方面でも意見の食い違いなどはないらしい。
殿下は、アーシュを支えていける逸材ということか。
王城の方では、情勢がますますきな臭くなってきていることでもあるし、成人を待たずに婚姻させた方がいいかもしれん。
アーシュが、殿下に領地の視察を頼みたいという。
名代を任せるほどに信頼しているのか。
ならば、賭けてみるか。
殿下を見送るアーシュの前で、馬を竿立ちさせるよう計らってみたところ、殿下の名を呼びしがみついて失神した。
かつて、私にも侍女にもしがみついたことはないし、名を呼びながら失神したこともない。
これほどまでに別格か。
私は賭けに勝ったようだ。
いささか荒療治ではあったが、領地からの報告では、アーシュは殿下に抱き上げられていれば、馬車に乗り降りしても失神しないことがわかった。
殿下ご自身も身の安全のためではなくアーシュに愛情を持って接しておられることだし、戻ってくるまでに状況を整えておくとしよう。
なるほど。
報告どおり、アーシュは殿下に抱き上げられて馬車を降りてきた。
さすがにこれでは貴族の間では眉を顰められるだろうが、腕を組むくらいであれば問題ない。なんとかそこまで持っていければ安心だな。
殿下がアーシュから離れた隙に耳打ちした。
「此度の件、うまい具合に陛下のお耳に入りました。
成人前の婚姻の内諾も得られましたので、ご準備なさいませ。
まずは、明後日、正式に殿下からお申し込みを」
「わかりました」
わかりきっていたことではあるが、アーシュは殿下のプロポーズを受諾した。
感極まって涙を流しながら殿下に抱きつく姿は、あの人見知りで引っ込み思案の娘とは思えないほどだ。
これなら、馬車を克服できる日も近かろう。
殿下のような逸材を、感謝されながら手に入れられたのは幸運だったな。
覇権を望む必要はない。
安定した豊かな領地と、侮られることのない手腕、それこそが貴族の武器だ。
次代の王をいち早く見極めて支え、国政を安定させると共に、自領を繁栄させていく。
アーシュには、革新的な領地経営を行いうる才覚がある。
馬の一件以来、どうにも消極的になってしまったが、殿下という伴侶を得て、才能を開花させ始めたようだ。
王太子殿下の無意味な嫉妬心を煽りさえしなければ、我が公爵家は更に栄える。
それこそが最良のあり方だ。
我が公爵家の未来は明るい。
これにて完結です。
元々このお話は、アンリさまの企画「告白フェスタ」用に書いた短編「コミュ障の俺が婚約!? 無理だってば!」が好評を博し、続編を望む声を戴いたことが発端でした。
当時、他の連載「ごつい魔法士とひょろい剣士 ~魔法は気力と体力で放つもんだ!~」を抱えていた鷹羽は、並行して書くのは難しいと思い、「日間ベスト5に入ったら短期連載します」と約束しました。
そうしたところ、なんと異世界転生(恋愛)日間2位になれまして…。
連載用に一部設定を変更して、このように連載した次第です。
実は、連載開始時に「日間ベスト3に入ったら、連載延長します」なんて言ったのですが、さすがに最高で9位でした(^^;)
無事連載も終わり、次からは「ごつひょろ」の続きに掛かります。
現在6話の執筆中でして、8月中には更新ができるかなぁ。って状態です。
読んでいただきありがとうございました。
よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。




