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裏11 私が生きる意味(ロック視点)

 「明日から、わたしも行く」


 初日の視察の報告の席で、突然アーシュがそんなことを言い出した。

 もしかして、私の報告では足りないと、そういうことだろうか。

 私ではアーシュの役に立てないのだろうか。たしかに、アーシュの視点からすると足りない部分はあるだろう。元々名代として来る予定だったのだし、アーシュ自身が来られた以上、私は必要ないのかもしれない。

 「ア…」


 「一緒に行きたい。ロックの目とわたしの目、合わせたら、きっと、もっと色々見える」


 よかった。アーシュは私を必要としてくれている。

 …まるで依存しているようで、心の中に、少し重たいものがあるけれど。

 会ったばかりの頃は、アーシュは私が生き残るための政略結婚の相手でしかなかった。

 せめて夫婦としてだけでも心を通わせたいと、そうすれば、私の生きる意味になると、そう思っていた。

 けれど。

 今は違う。

 アーシュは、私と一緒に居場所を作ろうと言ってくれた。

 優秀なのに、人見知りで口下手なアーシュ。彼女を支え、共に生きることが、私の生きる意味だ。

 馬車に乗れない彼女の足となり、目となって…。馬車?

 「アーシュ、馬車はどうするのです?」


 そうだ、アーシュは馬車に乗れないのに。だからこそ、今日は私が視察に行ったのに。


 「昨日のように、してもらえば、多分…」


 顔を赤らめながら、アーシュは答えた。

 なんて愛らしい。抱き締めたくなる想いをなんとか堪えた。今は、そういう話をしているわけではないのだから。


 「わかりました。それでは、一緒に回りましょう」




 公爵は、アーシュは馬車に怯えても誰かにすがりついたことはなかったと仰った。

 これまでだって、アーシュが誰かに抱えてもらって馬車に乗るという選択肢はあり得ただろうに、試してすらいなかったそうだ。

 ならば、私はアーシュにとって特別な存在なのだと自惚れてもいいだろうか。

 ()がいることで、曲がりなりにも馬車に乗れるなら、アーシュは女公爵としてやっていける。

 それが、相手が私だから、ということならば、私は文字どおり心身共にアーシュを支える存在になれたということだ。

 正式な婚姻はまだだけれど、私達は互いを信じ、支え合える夫婦になれたのだ、きっと。

 胸の中に温かい何かが溢れている。

 きっと、これが幸せというものなのだろう。




 翌日から、言葉どおり、アーシュは私と一緒に視察して回った。

 私が抱き上げると、きつく目を瞑って、私の首に手を回してしがみついてくる。

 視察先の人達は、当然次期領主(アーシュ)が馬車に乗れないなんて話は知らないから、婚約者に抱き上げられて馬車を乗り降りしているだけにしか見えないだろうけれど、それでいい。

 アーシュが領民の前に姿を見せるのは、これが初めてになる。少なくとも、高慢で話を聞かないような領主でないことが伝われば十分だ。

 ごく一般的なことは私が尋ね、それで足りないとアーシュが私に耳打ちしてくるから、私から改めて尋ねる、という形で、漏れなく聞くこともできているし。

 2人が同じ話を同時に聞いているわけだから、夜、意見交換をするにも無駄がない。アーシュは、先に私の意見を聞き、その後自分の意見を付け足してくる。

 「これは有効だけど、予算が掛かりすぎる」とか、現実に即した意見が出てくるのがアーシュのすごいところだ。




 公爵領での最後の夜。

 夕食の席で、アーシュが私をじっと見つめて言った。


 「ロック、ありがとう。本当に助かった。

  これからも助けてほしい」


 “これからも”──それは、この先も私と一緒に生きて行くという前提あっての言葉。

 たった一言で全てが報われる。そんなことがあるなんて。


 「もちろんです、アーシュ。

  これからも、ずっと」

 命ある限り、アーシュと共に。




 王都へと向かう馬車の中で、アーシュがぼそりと


 「ロックが婚約者でよかった」


とつぶやいた。本人も意識していない独り言のようだったから聞こえないふりをしたけれど、無意識に出た言葉だからこそ嬉しかった。

 アーシュも、私でよかったと思ってくれていることが。




 王都の公爵邸でアーシュを抱いて馬車を降りると、公爵が出迎えてくれていた。

 アーシュが離れた隙に、公爵が私に告げた。

 「此度(こたび)の件、うまい具合に陛下のお耳に入りました。

  成人前の婚姻の内諾も得られましたので、ご準備なさいませ。

  まずは、明後日、正式に殿下からお申し込みを」

 最後のロック視点なので、最終話に被る部分まで入っています。

 これに対応するアーシュの反応は、最終話をお待ちください。

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