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10 ちょっとしたハプニング

 ロックの領地行き話は、トントン拍子に進んだ。

 俺が“ロックは信頼できる”と断言したことがお父様には重要だったみたいで、その後は俺がこうしたいと言えば、そのように進む感じになってる。

 驚いたことに、馬車は公爵家(うち)のを使うし、領地の方の屋敷に泊めてやる話になってる。

 お父様からは、「なんなら、お前もついていけばいい」とか言われたけど。

 あのな、お父様。

 俺が自分で行けるくらいなら、ロックに頼まないんだよ!

 まぁ、ロックと一緒に出掛けたら、誰かに話しかけるのも全部ロックを通じてやれるから、楽そうな気もするけどさ。

 とにかく、俺が行けないのは確定なんだから、言ってもしょうがないよな。




 ロックにうちの馬車を使わせるのは、うちの領地に王家の紋章の入った馬車を行かせるわけにいかないからって理由らしい。ホントに貴族って面倒だ。いや、そういうのが大事ってのはわかるけどさ。

 さらに、ロックが今回使うのは、新調したばかりの馬車(やつ)だ。

 別に、このために新調したわけじゃないんだけどな。ついこの間納品になったばかりだったのをロックに貸すことになったんだ。

 馬を繋がないうちに中を見させてもらったけど、すごく乗り心地がよさそうだ。

 実はこれ、俺が考えたサスペンション内蔵なんだよな。

 俺は乗れないけど、お父様はしょっちゅう乗るし、少しでも乗り心地をよくしたくて、バネを利用したサスペンションを進言したんだ。

 お父様相手だから、ニーナを通せなくて、メチャメチャ大変だった。

 簡単な図面も描いたから、なんとか伝わったけど、こういうところ、ロックに通訳してもらえるといいんだけどな。

 サスペンションの方は、一応この世界にはコイルスプリング(ぐるぐる巻いたバネ)があったからな。

 馬車の箱のとこを二重底にして、スプリング入りのベッドマットレスみたいなのを挟んでみた。

 これで、上下の振動はかなり緩和されるはずだ。

 まさか、ロックが乗ってテストすることになるとは思ってもみなかったけど。

 なぜか、お父様まで見送りに来ている。

 俺は婚約者だし、俺の名代で行ってもらうんだから見送るのは当然だけど、その父親にまで見送られるって、ロックはどう思ってるんだろう。


 「気をつけて」

 馬車からそれなりに離れて立っているうちに、ロックの手を握って送り出す。

 情けないが、これ以上馬に近付くと、立っていられなくなるからな。


 「ええ。行ってきます」


 う~ん。なんか、客観的に見たら、この情景って夫を送り出す妻の図じゃないか? まぁ、実際もそれに近い気もするけど。でも、それをお父様が脇で見てるって、ちょっとした羞恥プレイだよな。

 そして。

 ロックが振り返って馬車に近付いた時。馬が、竿立ちになった。




 夢かな。なんか体がフワフワする。

 もしかして、また馬に踏まれて死んだんだろうか。今回は、振り下ろされる蹄を見てないせいか、あんま怖くなかったな。

 フワフワと波に揺られる感じが心地いい。

 なんか、水の底から浮き上がるような感じがして、俺は目を開けた。


 「…あれ?」


 目の前にあるのは…なんだ? 顔のすぐ前に何かある。

 …え? あれ?

 ガバッと起き上がると、どっかで見たような景色と、ロックの顔があった。え? これ、どういうこと?

 キョロキョロしてみると、反対側にニーナもいる。反対側? って、ここ、あの馬車の中じゃないか!

 え、ちょっと、これ、動いてないか?

 なんで俺、ロックと一緒に馬車に乗ってんの?


 「ロック…わたし、一体?」


 訊いてみると、ロックは優しく笑った。

 「ここは、領地に向かう馬車の中ですよ、アーシュ」


 「馬車の中…」

 心臓がドクン! と跳ねた。俺、馬車に乗ってるのか!? あ、だけど、腰から力が抜けたりはしなかった。


 「公爵が、ちょうどいいから領地へ同行させてはどうかと仰って。ほら、こう(・・)でしたから」


 言われて見てみると、、俺の右手はロックの服の裾を握っている。あれ? ずっと?


 「何が…」


 何があったのか訊いてみると、馬が竿立ちになったのを見て怯えた俺は、ロックにしがみついて気を失ったんだそうだ。

 それで、その時ロックの裾を握ったまま放さなかったので、お父様は俺も馬車に乗せて出発するよう言ったんだとか。

 おい、お父様! 何考えてんだよ! 一応、俺は未婚の貴族令嬢なんだぞ。

 しかも、気を失ってる間に馬車に乗っけて“乗れた”って実績作っちまうとか、強引にも程があんだろ!

 とはいえ、もう馬車は出発しちまったし、もう領地に行くしかないな。帰って来れないかもしれないけど。




 領地の屋敷に着いて馬車を降りようとすると、やっぱり膝が笑って立ち上がれない。

 結局、目をきつく瞑ってロックにしがみついたお姫様抱っこで降りるハメになった。

 そして、馬車から離れて自分で立てるようになったところで、屋敷の者が声を掛けてきた。


 「お嬢様、ようこそいらっしゃいました。

  お初にお目に掛かります。私は、こちらの管理を任されております、モングと申します。

  王子殿下も、いらっしゃいませ」


 どうしてだか、俺が来たことに、管理人のモングとやらは全然驚いていなかった。

 いや、そりゃ、お姫様抱っこされてるところに声を掛けられるよりいいけどさ。

 それでなくてもコミュ障なのに、気まずくて、「頼む」としか言えなかった。

 後は、ロックが色々と交渉してくれたので、俺はニーナと一緒に部屋に入り、夕食までを寝て過ごした。

 なんで、俺の部屋が用意されてんだよ。

 疑問がぐるぐると頭の中で回ってて、早馬飛ばしたんだろうと気付いたのは、夜、寝る前だった。

 余裕なさ過ぎだろ、俺。

 展開を読んでおられた方もいらっしゃると思いますが、なし崩し的に馬車に乗れてしまいました。

 しかも、ロックの膝の上!

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