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9 領地の視察に行ってくれ

 とりあえず、ロックとの関係は良好だ。

 言葉遣いには少し問題があるけど、良く言えば気を遣う必要がない間柄ということでもある。

 俺にとって、疲れないでしゃべれる相手が1人でも増えるってことは、とても大きな変化だ。偉いぞ、俺。




 そうなると、次の目標は馬恐怖症の克服だ。

 王城に出仕するにしても、領地を見に行くにしても、馬車に乗らないことにはどうにもならない。

 まさか牛車や人力車を作らせるわけにもいかないし。いや、作ったとしても、公爵として、そんなモノに乗って出歩くわけにはいかないよな。


 一応、挑戦はしてるんだ。

 お父様が馬車に乗る時には見送ってるし、今なんか、ロックが帰る時も見送ってる。

 約2メートル。これが俺の限界だ。まぁ、きっちり計ってるわけじゃないから、何センチかの違いはあるんだろうけど、大体そんくらいで俺は震え出す。

 自分でもわかるくらい、表情にヒビが入るんだ。んで、足がガタガタいいだして、もう少し近付くと全身が震えだして冷や汗が流れる。ここが本当の限界だ。

 最近では、悲鳴を上げて倒れる前に、膝が笑って、というか、腰が抜けたように座り込んでしまう。

 きっと、俺の中の安全装置みたいなもんがはたらいてるんだと思う。

 それ以上近づけないようになれば、安心だからな。

 下手にトラウマを刺激して悪化しても困るから、現状維持に努めているって感じだ。

 で、だ。

 このままじゃいけないのはわかってるけど、打開策がない現状をなんとかできそうなのが、ロックの存在だ。

 もちろん、ロックにお姫様抱っこしてもらったら馬車に乗れるなんて話じゃない。

 頼んだら、ロックなら本当にお姫様抱っこくらいしかねないけど、だからといって、馬が怖いのは変わらない。

 俺が期待してるのは、俺の代わりにロックに領地を見てきてもらうってことだ。

 ロックが見てきてくれたら、領地の現状とかわかりそうな気がする。

 あいつの目は信用できる。

 そりゃ、多少はフィルター掛かるだろうけど、他の奴が見てきた話よりずっとプレーンだ。

 なんていうか、あいつ、育った環境からいって相当ヒネててもいいはずなのに、びっくりするくらい心がまっすぐだから。

 “こういうことを中心に見てきてくれ”って頼んだら、きっとそのとおりにしてくれる。

 まぁ、仮にも王子だし、今日頼んで明日出発みたいなことはできないだろうけど、頼んでみてもいいかもしれないよな。




 「ロック、お願いがある」


 「なんですか、アーシュ?」


 「わたしの代わりに、領地の視察をしてほしい」


 「視察?」


 「今の領地の現状を知っておきたい。

  本当は自分の目で見られればいいけど、馬車に乗れないから。

  代わりにロックが見てきて」


 頼んだら、ロックは目を丸くして驚いた。


 「私がサルード公爵領に入っていいんですか?」


 ん~、面倒がってるんじゃなくて、遠慮、かな? まぁ、王子が公爵領に入るとか、なかなかないだろうけどな。


 「ロックは公爵家(うち)の人間になる。問題はない。

  お父様のお許しを貰わないといけないけど」


 「公爵が許してくださるとお思いですか?」


 「たぶん、大丈夫。

  わたしが信頼する婚約者相手に、否やはないと思う。

  ロックでないと、わたしが信頼を置けない」


 「ご期待に添えるよう、努力しますよ、アーシュ」


 突然決めたから、お父様は外出中だ。仕方ないから、後で俺が許可を取っておくことにした。





 「お父様、殿下に、領地の視察をお願いしたいのです。わたしの代わりに」


 「なぜ殿下なのか、説明が欲しいところだが」


 え、説明? そんなこと聞かれるとは思ってなかった。え~と、なんでロックか、ね。

 「ロ、殿下の目は、信用できる、から、です」


 「信用というのは?」


 俺が信じられるっつってんのに、わかんねえのかよ、お父様!

 「殿下は、公平に、見てくれる、から。

  自分なりの改善策くらいは、持ってくる、かもしれません」


 「それは、よいことなのか?」


 「殿下は、うちの人間になる、のです。領地を気にかけるのは、喜ばしいこと、では」


 「ほお。殿下は、我が公爵家の人間か」


 「違う、のですか」


 「いや、お前がそう思っているのなら、そうなのだろう。

  だが、殿下は、領地に影響を及ぼすようなお立場ではないが」


 んなこたわかってるよ。ロック自身もな。だから驚いたんだし。だからって、意見が言えないわけじゃなかろうよ。

 「あくまで、参考意見、です。

  わたしの代わりに領地を見て、殿下なりの考えを言って。わたしは、そこから、現状と今後の方針を考える、のです」


 「いっそのこと、アーシュも殿下と一緒に領地に行けばいいのではないか」


 だ・か・ら! 俺は馬車に乗れないんだってば! 代わりに行ってもらうっつってんだろが。

 俺が行けるんだったら、ロックに頼まねえよ。

 「馬車には、まだ、乗れませんので」


 「なに、馬車には乗れなくとも、殿下の膝になら乗れるかもしれんぞ」


 ロックの膝!? あのなぁ、お父様よ。俺が馬車に乗れないのは、馬が怖くて近づけないからなんだってばよ。ロックの膝ったって、結局馬車の中だろうが。

 「お戯れを。どのみち馬車に乗らなければ、無理でしょう」


 「まあよい。それで、殿下が領地に赴くとなれば、当然王家から護衛もついてこよう。わざわざ領地を見せるのか?」


 さすがお父様。だけど、それくらいは考えたぞ。

 「我が領地に後ろ暗いところはないのでしょう? それに、今回は表面的な部分を見てもらうだけですので」


 「わかった。護衛が足りないようなら、うちからも出すといい」


 「ありがとうございます」




 こうして、俺はロックに領地視察を頼むことになった。

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