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気弱な君と憑依野郎   作者: とっっっってもスパイシードーナッツ
4/4

奇妙な噂




(ようやく現実世界に戻ってきたようだなぁ?おい?)


「はい...色々とすいません。」


散々調子に乗ったユーリはレーヴァにまたも怒られていた。約3時間程の時間を無駄にしてしまったが、人生に置いて無駄な時間も必要ではないだろうか?と内心逆にユーリは開き直っている事は秘密だ。


(早く人気がなく、適度に広い場所を探すぞ。俺たちにあまり時間がないんだからな)


「わかってるって」


ユーリ達が求めていたのは言わば修行場であった。このまま1ヶ月何もしなくて勝てるわけがないのは目に見えていた。だからこそ最後まで修練を積まなくちゃならない。


「まあ、心あたりはあるんだけどね」


(なぜそれを先に言わないんだよ)


ユーリは顔を歪ませ言う。


「あそこあんまり好きじゃないんだよね」







勇者が集う庭、別名勇者広場。無駄にだだっ広い庭が街の外れにある。広場の真ん中にボロボロになった勇者らしき人物の銅像だけがある錆びれた場所であった。


(そういうことかよ...)

「まぁね...」


レーヴァはユーリの過去を見ている。ここで何があったのかも知っている。


石を投げつけられ、罵倒を浴びせられた。そしていつもここに逃げ込んだ。端っこの木の陰に隠れて泣いていた。小さな頃の記憶だが鮮明に覚えている。


「まあ、この白い髪が悪いんだけどね」


そう言いながらユーリは自分の髪を摘む。なんの混じりっけもない白い髪を。


(だが不思議なこともあるもんだな)


「何が不思議なんですか?」


レーヴァが言った言葉にユーリは不思議がる。


(いや、白い髪なんざ年取るうちに生えてくるだろう。それが若干早いだけで何故にここまで迫害されるのかが俺にとっては不思議でならねぇな)


「レーヴァってあの話知らないの?」


(なんかあんのかよ?)


「悪魔の子っていう古い話、なんでも白い髪の男の子はいずれ悪魔になり全てを不幸へと貶めるってやつ。あまりにも長い話だから僕も全部は覚えてないけどとりあえずその子供の恐ろしさだけは伝わってくるんだ」


(あんだよ、それ?しゃーもないぜ。そんな与太話聞きたかもねぇ...)



レーヴァの雰囲気が張り詰めたものなる。ユーリは少し嬉しかったがこの話を止めることにした。

過去の事を振り返って今、不機嫌になるのは嫌だった。




「ま、こっから始めるのもありじゃないかな。ほら、トラウマ克服ってことで。」


(お前がいいなら、俺も特に問題ねぇよ)



やっぱり不味かったかな、と少し後悔しているユーリにレーヴァは言う。


(最強になったらまずこの公園の改名からだな。何か腹たつんだよな。ここの名前!)


ユーリは鳩が豆鉄砲をくらったような顔つきになった。

そして、思わず笑い出す。


(何がおかしぃんだよ?おい?)


「いや、だって、最強になって最初にやることかな?なんだかしょぼくて」


(う、うるせぇな!いいだろ!こんなんでもよぉ!)


お互いに叫び合う。





レーヴァが憑依し、身体を動かす。それをユーリが

数十回、数百回と真似をする。

それがまずウォーミングアップ、何種類かの技を繰り返す。

そして、本番へと入る。目隠しをし集中して力を高める。するとユーリの前には陽炎のように人型の靄が現れた。

ユーリが構えるとその靄も同様に構える。


最初に動いたのはユーリである。相手の懐に潜りこもうと素早く動くが靄はそれをわかっていたのか後ろに引いて潜り込ませない。

ユーリは近づく事を諦め蹴りで相手を仕留めようとするが、それすらも予測されていたのか呆気なく挙げた足を掴まれてしまった。こうなってしまったら身動きが取れないユーリの負けだ。


「いや、やっぱ無理か...」


ユーリは目隠しを外し足を降ろす。勿論そこには誰もいない。


(いや、蹴りのするどさは上がってきてるぜ。ただ対処の仕方が基本的過ぎるんだよ。手が届かないなら足技って誰しもが考えるつくじゃねぇか。それじゃあ、勝てねぇな。戦いながら奇策をねるのが強い奴だ。)


レーヴァが答える。



このやり取りを何回も繰り返す。そして、朝日が出てきた頃にようやく終わりを告げた。











エステア公国、ダールの街に最近流れ始めた噂がある。それは夜の旧勇者広場に白い悪魔が出るという話であった。

なんでもその悪魔は1人の筈なのにまるで2人で話しているように聞こえ、さらに手から火を出すと言う。


なんでもその悪魔は昼間はどこかで人を襲い殺し、魂だけにして持ち帰り、夜になったらその魂で遊んでいると言うのだ。


本人達が聞けば笑ってしまうような話だが周りの人間にとっては違う。白い悪魔と聞いただけで恐ろしいイメージが出来上がってしまうのだ。


この噂は瞬く間に広がっていくのだが、ユーリ達は知るよしもなかった。

そして、この噂はある出会いをもたらすものとなる。








大会まで半月をきったある日、ユーリ達は彼女と出会う事になる。


いつものように特訓をしようとユーリは旧勇者広場に向かう。

だがいつもは人なんていないその場所に1人の女性が立っていた。



長い綺麗な黒髪に母性をおっとりした目、母性を感じさせる大きな胸に対して黒いローブが映えていた。



「凄い美人なお姉さん」


ユーリが思わず言葉をこぼす。


(怪しさ満点だがなぁ)


そんなユーリに対してレーヴァは冷静に言葉を返した。


ユーリが遠巻きに彼女を見ていたら偶然目が合った。


思わず目をそらしてしまうユーリ、しかし眼球だけチラリと彼女を見てみると嬉しそうに微笑みながら彼女がこちらに近づいてくるではないか。


「どどどどうしよう!?レーヴァ!どどどどどうしよう!?!?」


(二回も同じ事を言うなや)


完全にパニクっているユーリの言語能力はどうやらはるか彼方へと飛んで行ってしまったようだ。


それも責められるものではない、いつもユーリに向けられていたのは敵意であった。だからこそ好意を向けられた時にどのような態度をしていいのかわからないのだ。



ユーリの目の前に女性は立つ、彼女からほのかに良い匂いがして目眩がした。


そんなユーリの震える手を自然に取り言葉を発っした。



「あなたが噂に聞く白い変態多重人格さんでしょうか!?」


変態多重人格....変態多重人格....変態多重人格....


ユーリの頭の中でこだまする、変態多重人格。

ありとあらゆる暴言を受けてきたユーリだがこんな純粋な目をして暴言を言われる事など初めての経験であった。


そんなうちに彼女の表情が、え?ちがうの?そうじゃないの?とだんだんと涙目になってきている様な気がした。



もう違うなんて言えない。しかもおそらく彼女が言っている人物は世界中を探しても自分しかいないだろう。



「 はい...そうです...」




嬉しそうに微笑む彼女、内心で爆笑しているレーヴァ。今日ユーリは大切な何かを失った気がした。







「初めまして、私はアリアナ=ファルルージと申します。元は公国魔術機関に所属していたんですが、どうしても研究したい物がありまして現在は1人で魔術研究に育んでいる者です。」


「あっ、えっと...ユーリです。よろしくです...」


(他に何かねぇのかよ?)


「面目ない...」


彼女のしっかりとした自己紹介と比べてユーリのは余りにも幼稚であったがアリアナは全く気にしている様子は見えなかった。それどころか独り言を呟いている様に見えるユーリの行動に嬉しそうに黒い瞳を輝かしていた。



「やっぱり噂は本当だったのですね?」

「へ?噂ってなんですか?」


アリアナは語る。旧勇者広場に現れる白い変態悪魔の噂を。


「ま、まさかそんな事になっていたとは...」


ユーリは凹んだ。まさか知らない自分の内に変態認定され広まっているとは夢にも思わなかった。


「だからこそ私が来たんです!」


ここぞとばかりに胸を張りながら話し出すアリアナ。


「どういう事ですか?」

「いいですか?ユーリさん、多重人格なんて珍しい事をあちらこちらに言い回したらどうなると思いますか?」

「どうなるって...どうなるんですか?」


「悪い人に捕まってしまうのです。だからそうなる前に私がユーリさんを保護しに来たんですよ!」


アリアナがフフフとドヤ顔で言う。その言葉にユーリは納得した。自分を助けようとしてくれる存在に感動までしている。



「まあ、本当は私が実験材料として使いたいんですけどね...」


アリアナはボソッと呟くがユーリには聞こえない。


感動している天然ユーリとかなり怪しいアリアナ、その両者を見てレーヴァも思わず呟いてしまう。


(本当に大丈夫なのかよ...)
















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