*ラプンツェルの夢*
「魔女の名はマリン。私を助けてくれた恩人よ」
ラプンツェルは一から説明を始めました。
「私は魔法を使えるの。びっくりした?嘘じゃないよ。マリンは私が魔力を秘めていることに早く気づいて魔法の制御を10年の間で教えてくれていたの…」
ラプンツェルは魔力を手元から外へ少し放出させます。
魔力は紫色に輝きます。
「お母様の病気を治したのはマリンの治癒魔法よ。マリンがあの花に魔法をかけたからお母様の病気は治ったの。でもマリンがかけた魔法があの花によって消えずに私に魔力が受け継がれた。お父様が見つけたあの花にはマリンにも分からない能力が備わっていたの。魔力を持って生まれた子は魔女の元で育つ。魔法の使い方を間違えれば自分の命も周りの命も危険にさらしてしまうから。6歳の時にこの事を聞いたの。あの頃は好奇心の方が大きかったけど、私は自分の意思でマリンと暮らすことを決めたの」
「…なぜ、相談しなかったんだ?どうして何も言わなかったんだ」
「…反対されると思ったから」
「今の話が真実だとしてもあの魔女は罪人だよ」
「話さなかったから?」
「あぁ。話すべきだったんだ」
「なら…私もマリンと同じ罪を償います」
「何を言い出すんだ、ラプンツェル。お前は被害者だ」
「いいえ、私も罪人よ」
「ラプンツェル、私の言うことを聞きなさい。罪人は魔女のみだ。罪を受けるのも魔女ひとりだ」
「魔女…マリンは私の家族よ」
ラプンツェルの目には涙が溢れていました。
「ラプンツェル…」
お妃様がラプンツェルの元へ駆け寄り抱きしめます。
「あなた、今はまだ決断する時ではありません。少し落ち着いてからまた話し合いましょう。10年よ?やっと娘に会えたんだから…」
お妃様はラプンツェルを抱きしめたまま王子様に告げます。
「…分かった。魔女の処罰は…延期とする」
「お父様…」
ラプンツェルは涙目で王子様を見つめていました。
その日の夜ラプンツェルは母であるお妃様と共に眠りにつきました。
ラプンツェルはお妃様のぬくもりや温かさを10年ぶりに感じていました。
「ラプンツェル、これだけは忘れないで?私もお父様もこの10年間あなたの安否をずっと祈っていたの。だからお父様の気持ちもわかってあげてね」
お妃様はそう言いながらラプンツェルの頭を優しく撫でました。
朝になり家族で朝食を食べ終えるとラプンツェルは家来たちの目を盗み部屋を飛び出しました。
ラプンツェル魔女の元へと向かったのです。
ですが魔女の居場所をラプンツェルは知りません。
すると窓の方から動物の鳴き声が聞こえてきました。
ラプンツェルが窓を開けるとそこには見覚えのあるウサギがいたのです。
「あなたはこの前の…」
ウサギは室内に入り廊下を駆け出します。
「あっ、待って」
ウサギの後をラプンツェルは走って追いかけます。
ウサギは時々後ろを振り返りラプンツェルの姿を確認していました。
まるでラプンツェルを何処かに導こうとしているように…。
「何処へ行くの?」
ラプンツェルはウサギを見失わないよう必死に追いかけます。
暫く走っているといつの間にか地下へとたどり着いていました。
「キュ~♪」
ウサギが足を止めた先にはマリンがいました。
「マリン…」
「どうやらこの子がプリンセスをここへ導いてくれたのね」
マリンは地下の部屋に閉じ込められていました。
「こんなの酷い。すぐに出してあげるから」
「プリンセス、私は罪人なのです。たとえここの扉が開いたとしても私は外へは出ません」
「どうして?」
「私は魔女である事がずっと許せずにいました。魔女でなければもっと別の生き方があったんじゃないかとずっと思っていました。16年前のあの日、私は自ら命を絶とうとしていたのです。けれど出来なかった…。でもその時、王子様を森で見かけたのです。それから私はいつかこうなる日が来ることを予想して…」
「…ずっとこの日が来るのを望んでいたの?」
「…はい。望んでいました」
ラプンツェルはマリンの言葉にその場から崩れ落ちました。
「どうして?ねぇ!どうしてマリンが死のうとするのよ!嫌よ、そんなの…私は…」
「プリンセスとの暮らしはとても楽しくて、夢のような時間でした。この10年間の間で初めて魔女で良かったと思えました。ありがとう、プリンセス。私は今日ここで全てを終わらせます」
マリンは優しく微笑むと魔法を使いブザーを鳴らしました。
すると側にいたウサギはブザーの音に跳びはね部屋を出ていきます。
「待って」
ラプンツェルも耳を抑えウサギが走り去った方へと視線を向けます。
「私はマリンを必ずここから出すわ。そして一緒にまた暮らすの。絶対に死なせたりなんかしないわ。だってこれが私の夢なんだもの」
ラプンツェルはそう言うとウサギを追い走り出しました。
ウサギを追いかけ漸く捕まえるとラプンツェルはウサギを放すため城の外へと出ます。
するとそこにディアが立っていました。
「…ディア」
ラプンツェルの目に涙が溢れます。
「どうしてここにあなたがいるのよ…」
ディアはそう言うラプンツェルを抱きしめます。
「何があったんだ?」
「…マリンが死のうとしてるわ。私、どうしたら」
「まずは思いっきり泣くといいよ。考えるのはそれからだ。大丈夫、僕も出来ることは協力するよ」
ラプンツェルはディアの腕の中で思いっきり泣きました。