*ラプンツェルの決断*
「ねぇ、ディアはどうして旅人になったの?」
突然ラプンツェルがディアに質問しました。
「え?あーそれは…小さい頃からの夢だったからかな。」
「夢?」
「あぁ。小さい頃街で迷子になった時、旅人に会ったんだ。その旅人は"迷子か、もしよかったら俺と話をしないか?勿論迎えが来るまでだ。あぁ、あと俺は怪しいものじゃないよ?旅人なんだ。君は旅をしたことはあるかい?"って声をかけてきたんだ」
「優しい人だったんだね」
「うん。優しくて旅人が話す旅話の内容は僕なんかより遥かに面白かったんだよ。僕は話を聞いている内に不安な気持ちが無くなってた。今でも旅人の言葉を覚えてるんだ。"世界は知らないことで溢れてる。俺は知らないことを知りたくて旅をしているんだ。旅は楽しいぞ!"って」
「かっこいい!」
「そうだね。僕もかっこいいと思ったよ。だから旅人になろうって思ったんだ」
「夢叶ったのね」
「やっとだけどね。でも今は新しい夢があるよ」
「それはどんな夢なの?」
「僕に夢をくれた旅人と再会すること」
「わぁ!それ素敵ね!」
「ラプンツェルの夢は?」
「私の夢?」
「うん。ないの?」
「夢は…あるよ」
ラプンツェル少し表情を曇らせました。
「私についてきて?」
そう言うとその場から立ち上がり森の中を歩き始めます。
少し歩くとラプンツェルは立ち止まり左手を前に出しました。
「私の夢はこの先に行くこと…」
「そのまま前に進めば…」
「この先は行けないの。結界があるから」
「ちょっと待って。どういうこと?」
「私…ディアに言ってないことがあるの。ほら、前"君は妖精か何かなの?"って私に聞いたことがあったでしょ。覚えてる?」
「あぁ、覚えてるよ」
「私は人間よって答えたよね」
「うん。え、人間じゃないの?」
「人間よ。人間だけど…」
「だけど?」
「…魔法が使えるの」
「………ん?」
「…信じないよね」
「…魔法?」
「ちゃんと説明するから聞いてくれる?」
ラプンツェルはディアに1から順に話を始めました。
所々でディアは驚いた顔をしていましたが、ラプンツェルの話を全て聞き終えると何処か納得したような顔をしていました。
「ラプンツェルはここから出られたら何がしたい?」
「お父様とお母様に会いたい…。でもマリンと離れたくない。出来るなら…マリンと一緒に帰りたい」
「話してみたらどう?今の気持ちを。分かってくれるんじゃないか?君が信じた人なら」
「…そうだよね。そうよ。私話してみる。一緒に帰ろうってマリンに言ってみる!」
「ラプンツェルの夢、叶うといいね」
「えぇ、きっと叶える。叶えられたらまたディアに会える?」
「大丈夫だよ、ラプンツェルが望むなら会いに行くから」
「約束よ、ディア」
ラプンツェルはディアと約束を交わして家に帰りました。
家に着くとラプンツェルはいつものようにマリンの帰りを待ち、マリンが帰ってくると2人で夕食の準備に取りかかります。
「ねぇマリン…」
「ラプンツェル、後で話したいことがあるの。」
「え、あ、私も」
「夕食を済ませたら少し話そうか」
「そうだね」
夕食を済ませるとマリンがラプンツェルに話しかけました。
「ラプンツェル、あなたは今年16歳になるのよね。魔法も使いこなせるようになったし、そろそろこの生活も終わりにしようか」
「え…?」
「ごめんね、ラプンツェル。少し前からあなたが森で青年と居るところをこっそり見ていたの。青年といるあなたはとても楽しそうだった。それにあの結界から出たいことも知っていたの。だからもう、自由にしてあげる」
「マリン…。マリンも一緒に帰ろう?私がお父様に話すから、マリンも一緒に…」
「一緒に暮らすこは出来ない。どんな理由であれ私は今までの10年間、王子様とお妃様からあなたを奪っていた。これは許される事では無いの。」
「そんなこと…」
「ラプンツェル、お城までは私も一緒に行く。でもその先はあなたひとりで行くの。…大丈夫、また会えるから。あなたが私を忘れない限り」
「…分かったわ」
ラプンツェルは悲しそうな顔をしたまま頷きました。
その日からラプンツェルは誕生日の日までマリンの側を出来るだけ離れないようにしていました。
ラプンツェルは不安だったのです。
マリンと離ればなれになることが…。
それから数日後、ラプンツェルの誕生日がやって来ました。
「ラプンツェル、今日で16歳ね。おめでとう」
「ありがとう、マリン」
マリンはラプンツェルを抱きしめます。
「ラプンツェル、私はあなたのことが大好きよ。これからも変わらずずっとね」
「わたしも…」
ラプンツェルの目には涙が溢れていました。
マリンはもう一度ラプンツェルのことを抱きしめるとマントを羽織ります。
「そろそろ行こうか」
マリンとラプンツェルはこれまで一緒に暮らしていた家を出ました。
そして2人で森へと歩いて行きます。
するとマリンが立ち止まり結界をはがしました。
そしてラプンツェルは10年ぶりに結界の先へと進めるようになりました。
「ずっとね…この先に行きたかったの。ずっと行きたかったの」
ラプンツェルは涙を流して喜びます。
その姿をマリンは見て胸を痛めていました。
マリンとラプンツェルはお城まで出来るだけ魔法は使わず歩いて行きました。
別れの寂しさをまぎらわすように楽しい思い出を語り合いながら…。
あと少しで着いてしまう…
あと少しで別れが来る…
「そこで何をしている!」
男性の声に2人は足を止めました。
ラプンツェルが振り向いた先には父親の従者が立っていたのです。
「プリンセス…。…ご無事だったのですね」
ラプンツェルは目に涙を溜めて頷きます。
従者は家来を集めプリンセスを王子様とお妃様の元へと連れていくよう命じました。
そしてプリンセスの側にいた魔女には剣を向け拘束します。
「あなたがしたことは許される事ではありません。ここまで来られたということは、それなりの覚悟があってのことですよね?」
「私は…償いに来たのです」
「王にあなたを会わせます。そして王があなたの処罰をお決めになります」
「はい」
ラプンツェルはマリンと従者の会話を気にしながら歩いていました。
そして1つの扉の前でラプンツェルは立ち止まりました。
この扉の向こうに王子様とお妃様がいます。
ラプンツェルは大きく息を1度吸うと両手を扉に近づけてゆっくりと扉を開けました。
「…ラプンツェル?」
お妃様はすぐにラプンツェルの元へと駆け寄り目の前の少女を見つめます。
何度も彼女の名を呼び抱きしめました。
そして王子様も駆け寄りラプンツェルとお妃様を抱きしめます。
「…ラプンツェル。無事で良かった。」
王子様とお妃様は涙を流しラプンツェルとの再会を心から喜びました。
そしてラプンツェルもまた父親である王子様と母親であるお妃様に再会を心から喜びました。
それから暫くして従者が魔女を連れ部屋に入ってきました。
「こちらは、プリンセスと一緒に居られた魔女でございます。」
「あなたがラプンツェルを連れ去っていたのだな…」
王子様は冷たい声と視線で魔女に近づいて来ます。
「何故、我が娘を連れ去った?」
「お話しできません」
マリンは顔色ひとつ変えず応えます。
「ならば罪人として刑を受けよ」
王子様はそう呟くと魔女から離れました。
「待って!マリンは何も悪くないの!」
ラプンツェルが魔女の元に走って近寄ります。
「マリンは私を助けようとしてくれたの。私が…」
「プリンセス!」
マリンがラプンツェルの口を塞ぐように声をあげます。
「私は罪を受けるためプリンセスとここへ来たのです。プリンセスは私のような罪人を護ろうとなんてしなくていいのです」
「嫌よ!そんな絶対に嫌!マリン、あなたを罪人になんか私がしないわ!」
「プリンセス…」
「お父様、お母様、お話があります」
「プリンセス!」
「あなたは黙っていなさいマリン。…お父様、お母様、全てをお話しします」
ラプンツェルは凛々しい表情で魔女を黙らせ王子様とお妃様の元へと歩いて行きました。