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戦いの終わり

「せめて欲さえなければ、死なずに済んだものを………」


勇者は、

死闘の末に切り落とした首を眺めていた。


つい先程まで一人で勇者たちと互角の戦いを繰り広げていた悪魔のものとは思えないほど、その首はおだやかに佇んでいた。


「勇者様!戦利品を回収しましょう!」


気づけば女魔道士が宝物庫の入り口らしき扉を見つけてはしゃいでいる。


理由はわからないが、魔王軍の城を陥落させた後は必ず宝物庫が現れるのだ。


逆に言えば、宝物庫の扉が見つかったということは城内の敵を全滅させた…という合図でもあった。


「うむ、これで一安心であるな」


重装騎士は早くも先の戦いで傷ついた甲冑を脱ぎ始めている。


宿場町ですら襲撃してくる魔王軍の攻撃の前に、最近は寝るときですら着ていた甲冑をようやく脱ぐその姿はとても嬉しそうである。


「皆ご苦労さまッス。それじゃあ、凱旋式に持っていく宝を見繕うとしますか♪早く回復もしたいしぃ~」


すでに弓を置いたシーフが先導するのに連れられて全員で宝物庫に入っていく。


これまた理由は分からないが、宝物庫には何故か回復魔方陣が、それも勇者たちには張ることの出来ないほど強力な回復魔方陣が張られており、

城の主を倒した後は攻城戦で疲弊した体を休めるのがすっかり習慣になっていた。


本当に至れり尽くせりな城である。


「お前も疲れただろうな、相棒」


冒険を共にしてきた伝説の、宝探しをするには大きすぎて重すぎる伝説の剣を扉の横に立て掛けて、仲間と宝物庫の中に入っていこうとしたその時。


勇者には何故か、


死んだはずの悪魔の首が


笑っているように見えた気がした。


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[641日前、魔王軍将軍の手記]


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魔王城は揺れに揺れていた。

伝説の剣が抜かれたからである。


それは、「奴」と同じレベルの……あるいはそれ以上の実力を持つ勇者が現れたということだった。


「ただちに族長会議を招集せよ」


魔王の大号令の下、勇者と戦う作戦が練られることとなった。

私も魔王軍の将軍として、民を守るために戦わねばならない。例え命に代えても。


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[王国に伝わる伝承]


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今より数世前、魔のもの下方より集まりしとき、

偉大なる勇者現れる。


勇者、その聖なる剣により魔のものを討伐し、

数多の財を手に入れ王となる。


勇者死ぬるとき、

「もし世が再び魔に覆われるなら、我が剣を抜くものが現れるだろう。それは次代の勇者であり、その武と勇をもって魔を征し、数多の財を手に入れるだろう」

と言う。


これ以来、岩に刺さりし勇者の剣を抜くもの未だ現れず。


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[411日前、魔王軍将軍の手記]


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「ネウストのスライム集落が壊滅しました。逃げてきた生き残りのものによると、やったのは勇者の一行だそうで」


連日、沢山の報告が魔王城に集約されるが、その大半はこんなものだ。

我々は連中を止める術を喪失していた。


ドラゴンの大部隊を突入させたり、ゴーレムで連日包囲し続けたり…

思い付く戦術は全て試した。が、どれも勇者たちの圧倒的な戦闘力の前には意味がなかった。


彼らが武器をとって戦い続ける限り、我々の全ての努力は何一つ成果を上げることはなかった。


既に連中は我々の城の一つに迫りつつある。


だが、それでも止めることは出来ないだろう。


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[でるねすのにっき]


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きょう、ゆうしゃさまのしゅぱつしきがありました。


ひとがたくさんいたけど、おとうさんにおんぶしてもらったのでみえました。


となりにいたおにいさんが、

「まさかあいつが、けんをぬくなんて。きっと、かねもちになるんだろうなぁ」

と、いっていました。


ぼくもおおきくなったら、

ゆうしゃさまのようになりたいとおもいました。


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[341日前、魔王軍将軍の手記]


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私はある作戦を思い付いた。


我ながら自殺的としか思えない作戦だったが、魔王軍はもはや武器をとって戦う奴らに対してどれだけの戦力を投射しようと対抗できないのは明らかだった。


故に、この作戦は即刻実行された。


既に奴らは前哨基地に近づきつつあったし、作戦に時間的な遅れは許されなかった。


ただちに全土から、作戦のための宝物の収集が開始された。


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[『王国の歴史 IV』145ページより引用]


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第一次魔王戦役とは、王国と魔王軍の間で争われた戦いである。


フェルネス3世の治世の時、突如魔物が大量に王国に押し寄せてきたことにより始まった。


今までも散発的な衝突はあったが、

それとは比べ物にならないほどの魔物の圧倒的な数と

当時相次いでいた火山の噴火による不作、それに連なる税収の減少で王国騎士団が弱体化していたこともあって、

今までに無いほどの魔物の大規模な侵入を許すこととなった。


最終的に伝説の勇者の個人的な能力によって魔王軍は駆逐されたが、

魔物がこれほど大規模に襲撃してきた理由は分かっていない。


現在では、魔王が世界征服の為に侵攻の命令を出していたのではないか、という説が王国学会では主流であり、


王国の魔王に対する予防戦争の理論的根拠にもなっている。


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[217日前、魔王軍将軍の手記]


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作戦は単純だが、とても大胆なものだった。


勇者は圧倒的な戦闘力を持っているが、それは一重に伝説の剣の恩恵によるものであって、勇者自体はただの農民である。


また、勇者のお供も王国内では最上級の精鋭であるが、決して数の暴力でもどうにもできないほどの強さではない。


すなわち、勇者が剣を下ろした時に一気に集中攻撃すればよい。


しかし、問題は我々が思い付く戦術を全て試した故に、勇者は移動時は愚か風呂に入るときすら剣を携えながら入るようになったことだった。


だが、私はこの問題を解決するための策を思い付いたのだった。


城は陥落しているが、作戦は順調に進みつつある。


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[3日前、勇者の日記]


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既におれたちは魔王軍の城を10も落としていた。


戦利品は運びきれないほどになっていて、


城を落としたらすぐさま王都行きの馬車を集めなくてはならないありさまだ。


騎士団の偵察によると、この先の城に魔王軍の将軍がいて、その城を落とせば魔王城まですぐらしい。


ようやく長い戦いも終わるーそう思うと、おれはうれしくてしょうがなかった。


いざ、さいごの戦いへと向かわん!


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[2日前、魔王軍将軍の手記]


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もう10回も偽の全滅を繰り返し、

もう10回も連中に財宝を明け渡した。


もし11回目を経験すれば、もう奴らは疑うことはないだろう。


準備は万端だ。機は熟した。

こんな作戦の為に喜んで財産を差し出してくれた貴族たちや、

こんな狂った作戦の為に命を散らした将兵には頭が上がらない。


最後の仕上げが私に迫っていた。

連中に「宝物庫」を完全に信じさせるための。


ユリア、ガイネス、ゲオルギ……


すぐに行くからね。















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━━━━━


「あれれ?魔方陣を踏んでるけど回復しません……」


「おかしいなぁ。透明なじゅうたんがあるわけでもなかろうし」


「おいおい、今宝物庫の扉を閉めたのは誰だ。おかげで光が遮られて何も見えんぞ。」


「俺じゃないッスよ」


「私でもありませんよ?」


「我でもないぞ。」


「……どういうことだ?」






せめて欲さえなければ、死なずに済んだものを。

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