Window
「あつい…」
志穂は首に流れる汗を拭う。
「夏だからねー」
返事をしたのは隣のチャラ男高橋。
志穂は平然としている高橋を横目で睨み窓の方を向いた。
「そこ、俺の席だったのに。」
志穂は外を見たまま何も答えなかった。
あの日知ってしまった事実と自分の想いに戸惑っていた。
高橋が志穂の席にいた時いつも外を見ていた。
今の志穂のように。
ただ何となくだと思っていた。
けれどそれは理由があったのだ。
この窓から見えるもの。
そう保健室。
純潔を表す白に支配された部屋。
そこには皆の憧れである保健医の桜木先生が椅子に座って作業をしていた。
高橋が好きなのは桜木先生なのだ。
志穂は事実を知ると同時にやって来た自分の感情に無意識に胸を摩る。
高橋がすきなんだ。
自分の想いに気付いた志穂。
けれどそれは失恋さえも意味していた。
「……だよ…」
高橋が何かを言っているけど志穂には聞こえなかった。
聞こえないふりをしていた。
今はそっとしてほしい。
ただ身体の熱と共にこの恋が冷める事を願った。
ベルが鳴る。
高橋は何か言いたそうな顔をしたけれどそれ以上は何も言わなかった。
教室は沈黙に包まれ志穂は安堵のため息をついた。
恋なんて気付いたらしてるもんなんだ。
気付かないうちに己の中に侵入する感情。
もう一度外を、保健室に目を向けた。
カーテンが閉めきられている。
その隙間から男女が抱き合う姿が見えた。
志穂はそれを鼻で笑うと一人ごちた。
「あつい…」