罪と罰の記憶
「でもアンタが殺してしまった理由もちゃんとあるのでしょう?」
俺が少し落ち込んでいるとリーゼロッテは長い銀色の髪の毛をファサっとかき上げながら事情を聞いてきた。
彼女はあくまでも俺を信じてくれているようだ。
子供を見るかのような温かい眼差しで俺を見つめてくる。
初めて俺のことを信じてくれた彼女に俺は真実を告げることにした。
「殺した相手は――俺の親父なんだ」
「えっ……」
控え室を静寂が支配する。
流石にリーゼロッテも動揺したようだ。父親の事を尊敬していたようだし仕方ないだろう。
「俺は親父の事が嫌いだった、いつもトレーニングと称して身体を殴られては蹴られ火で炙られて、背中には未だに消えない傷痕もある」
服を軽く脱ぎ、背中の傷痕を見せ、呆然としたリーゼロッテを横目に過去を語り続ける。
「何時しか俺は親父に恐怖を抱いていた。もしかしたら初めて虐待されたときには既に恐怖を抱いていたのかもしれない。このままじゃ殺される……毎日そう思っていた」
もしかしたらリーゼロッテに陰鬱な過去を語らないほうがいいのかもしれない。
しかし俺はリーゼロッテだからこそ過去を語りたくなった。
リーゼロッテに視線を合わせ、話を続けようか値踏みしていたところ『話を続けて』と言われたので話を続ける事にする。
「人の身体とは順応するものだ。俺が殺される危機感を抱き始めた時、徐々にそれは起こり始めた」
「順応?」
黙って話を聞いていたリーゼロッテが質問をしてきた。
「ああ、親父に頻繁に殴られていた肉体の部位が硬質化し、皮膚が鋼鉄化していったんだ」
「だから鋼鉄戦士……なのね」
リーゼロッテに俺の名前の由来を当てられる。まあ何となくわかるよな。
しかしどうしてだろうか、コイツと話をしていると心が洗われるようだ。
そう思いながら話を続けることにした。
「ああ、それからは親父の殴りや蹴りは大して苦痛では無くなった。それでも死ぬほど痛かったけどな」
今でもあの頃の苦痛がつい昨日のように思い出せる。
あの頃とは違うこの肉体で、あの暴力に耐えれるのだろうか。
「ある日の事だ。親父が覇者頂上決戦に行くぞと言い出した。俺は当然嫌がった。まだ十歳そこらだったからな」
「十歳って……そんな年齢でよく出場できたわね」
リーゼロッテが当然の疑問を口にする。確かに俺ぐらいの身体が出来上がっていない年齢で試合に出場した人間などほぼ皆無だろう。
当時はかなり騒がれていたような気がする。
「ああ、親父は頂上決戦でいつも準優勝してたからな。コネで出場できたんだ」
あっけらかんと打ち明ける。
「アンタの父親ってまさか……」
リーゼロッテが何かに勘付く。そしておそらくそれは正しいだろう。
「ああ、お前の親父にいつも負けてた『エンドランス』が親父だよ」
「やっぱり……」
リーゼロッテが落胆した様子になる。この後の俺が話す結末に気付いたのだろう。
気付かないフリをして話を続ける。
「俺は少しだけ頂上決戦が楽しみだったんだ。俺のこの肉体でどれだけ戦えるのか。この時は軽い興奮状態だった」
当時を思い出しながらリーゼロッテに心境を語っていく。
「だが相手が悪かったんだ。俺の一回戦がまさかの親父だった。デビュー戦で親父と対戦すると知ったとき俺は愕然とした。なんで親父なんだ……と」
「辛いわね……」
いつの間にか俺の横にいたリーゼロッテが頭を撫でてくる。子供のような気分になるが頭を撫でてもらえたのは人生で初めてだ。これもまた悪くはない。
そんな風に思いながらも話を続けていく。
「正直な話、万が一にも親父に勝てなかった筈だった。それだけ当時の親父と俺の実力はかけ離れていたからな」
「でも、アンタ倒したんじゃ……?」
「確かにお前の言うとおりだ、どうしてかは分からないが俺は親父を倒し殺してしまった。だが今になってもわからない、親父があの時の攻撃で死んだ理由が。少なくともあの程度の攻撃で死ぬような親父じゃなかったんだ」
「そう……」
過去の親父は本当に強かった。鬼神の如き力で幼い俺を蹂躙していた。今の俺でも勝てるかどうかのレベルだったと思う。




