時空干渉
「どういうことだ……?」
霧散した先をみると空間が歪んでいるように見える。この歪みに俺の攻撃がかき消されてしまったのだろうか。
その歪みの先にシュプラグリスが見えたのは多分俺だけだろう。
どうやらコイツが俺の攻撃を防いだようだ。しかし何故相手を助けたのだろうか?
しばし逡巡していると不意に声を掛けられる。
「愚かな……鋼鉄戦士よ、また相手を殺すつもりか……?」
「なん……だと……?」
またとはどういうことだろうか。10年前の出来事をコイツは知っているのだろうか?
そして殺すとは一体……そんな出力は無いはずだ。
俺自身では大した出力だと思ってはいない――この攻撃を受けて死ぬのか?この達人が。
今まで十年間、生身の人間と戦ってこなかったので感覚がまるで思い出せない。
俺の中で常に身近にいた人間は親父だけだ。その親父にこんな一撃を叩き込んだだけで怪我などしない。ましてや死ぬことなどあり得ない。
十年の間に俺は強くなりすぎたのだろうか。
一瞬の間に様々な思考が溢れだす。
(考えても詮なきことか……)
俺は直ぐ様思考を放棄し歪みの先に目を向ける。
初めてシュプラグリスと目線が交錯した瞬間だった。
――ドクン
心臓が高鳴る音が聴こえた。シュプラグリスの目を見た刹那――確かに思い出した。親父の強大な暴力を。
それと同等、同質なら気配を確かに感じたのだ。
時が止まった静寂なる会場でシュプラグリスは低く力強い声で語りかける。
「お前のことをずっと待っていたぞ――鋼鉄戦士。また無用な殺生をするな!」
音の衝撃波が爆風を産み、辺り一帯の粉塵を吹き飛ばす。
シュプラグリスの言葉を聞き、俺もまた言葉を返すことにした。
「なあ……何の事を言ってるのか俺にはサッパリわからねーんだわ」
嘘偽りのない本心を俺はシュプラグリスにぶつけることにした。
てかこの試合の参加者リスって名前つくやつ多くねーか? なんてどうでもいい事を考えながら。
そして目を閉じていたシュプラグリスが静かに語り出す。
「今はまだわからなくても仕方がない。だがこの大会が終わった時――」
シュプラグリスが言葉を繋ごうとした瞬間、空間の歪みが消失し時が動き出した。
会場には喧騒が響き渡り、俺の足元には何が起こったのか理解出来ていない様子の対戦相手が転がっていた。
気になるところで言葉が途切れてしまい不完全燃焼だった俺は、試合を一刻も早く終わらせることにした。
「大会が終われば何かわかるんならグズグズしてる暇はねえ」
俺はトボトボと対戦相手に近寄り、十分の一程度の力で気絶させ、次の試合への駒をすすめることにした。
「勝者―、鋼鉄戦士―!」
会場は一回戦同様、大騒ぎ状態だが何も気にせず控室へ向かうことにした。
その途中でリーゼロッテ――シュプラグリスの娘――と視線が合った気がした。やはりアイツは可愛いな。
そんな事を考えながら控室の扉を開け、椅子へと腰をかける。
身体はあちこち痛むが戦えないほどではない。むしろ股間のダメージのが酷いほどだ。
元々身体を労る性格ではない。小さい頃からずっと叩かれ蹴られ殴られ続けてたからな……。
休憩をしながら身体の状態を確かめる。しかしある男の事を思い出し陰鬱な表情になる。
「そんな事よりもシュプラグリスの事だ……」
先程の出来事が延々と俺の脳裏に暗い影を落とす。シュプラグリスは空間に干渉できる能力の持ち主。
それだけを見ても実力はルナティッククラスといえるだろう。
あまり一般人には知られていない事だが、この世界の武芸者にはある程度の強さを計れる指標がある。




