達人級の猛者
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俺が控室に帰ってから早1時間が経とうとしていた。
先程の試合を観戦していた闘技者からの質問なども収まり、今では誰も俺に口を聞いてこない。
まあ全部の会話を無視してたからな。当然だろう。
控室にて試合を観戦していたが、あの2人の猛者も相手を秒殺して順調に勝敗を決めていた。
「まあ、当然っちゃ当然だろうな」
俺が戦った修羅リスも強さ的にはあの2人と引けを取らないだろう。が、やはりこの2人と戦ったら負けるんだろうな。
それほどアイツはまだまだ若すぎた。俺が言える事じゃないんだけどな。
様々な事を思考していると、いつの間にか俺に試合が回ってきたらしい。
こんなに早く回ってくるんじゃロクに休めないな、と思いながら会場に向かう為控室を出ようとした。
そしてドアを開けたあと、『ドスン!』と鈍い音が響いた。
どうやら何かにぶつかったらしい。俺が確認してみるとそこには今朝あった小柄な少女が尻もちを付きながら倒れていた。
「あいたたたぁ……」
少女は若干涙目になりながら、痛そうにしているがそれを無視し俺は会場へと向かう。
すると後ろからドカン!と強烈な一撃を後頭部に浴びた。
「!?」
俺が後ろを確認すると、どうやら少女の飛び膝蹴りが炸裂していたようだ。
まあ……なんだ、パンツが丸見えだ。
「ちょっとアンタ!何無視してそのまま行こうとしてんのよ!」
「いやいや、もう試合だから行かせてくれよ」
俺がそう言うと少女は最低と言わないばかりに俺を睨みつける。実際最低な人間だからいいんだが。
「アンタに話があってきたのよ!それなのになんでアンタ倒れてる私を無視するわけ!?」
「いやいや、俺は話すことなんてないんだが。いや1つだけあったな」
「なによ?」
優しい俺はパンツが丸見えだった事を指摘することにした。
「あー実はな、お前のパンツさっき丸見えだったぞ。あんまり派手な動きしないほうがいいんじゃないか?」
指摘した途端少女の顔はカーっと茹でタコ状態になった。あまりの変化にビックリするばかりだ。
「あんたねえ!お父さんに倒されて死んじゃええええ!」
そして少女の高速の拳が光となって俺の股間めがけて飛んで来る。
避ける事はできるが、それでは男がすたる気がした。
覚悟を決め少女の攻撃を受けることにする……その瞬間俺は叫んだ。
「ぐああああ!」
股間に衝撃がはしる。どうやら少女の地雷を踏んでしまったらしい。
優勝者の娘だけあって力強い拳だ……。俺はしばらく悶絶した。
「…………」
あの後一言だけ俺が謝罪して、そのまま言葉を交わすことなく俺は会場に到着した。
正直いってダメージがかなり残っている。この状態で戦うのは少し厳しいんじゃないだろうか。
しかも相手は筋肉質の初老の男。達人クラスである。
「不戦勝してくれるわけないよなぁ」
あり得ないだろうが一縷の望みをかけて舞台へとあがる。
はい、やっぱりダメでした。相手は鋭い眼光でこちらを睨んでいる。
今にも飛びかかってきそうな強靭なオーラを纏い、まるで隙が窺えない。どうやら腹を決めるしかないようだ。
「一つ聞いてもいいかね?」
相手に不意に声を話しかけられる。今から戦うというのに悠長なものだ。
「なんですか?」
俺のが年下なので一応敬語をつかい、返事をする。
「君の父親の名前はなんと申すのかね?」
何故親父の名前を聞きたがるのだろうか。悩んでも答えなど出るはずもなく、相手の問いに素直に答えることにする。
「闘技者名はエンドランスだ。」
「やはりか」
答えた途端すぐさま返事が帰ってきた。こいつ親父をしっているのか。いや何故俺が息子だと気付いたのだろうか。
老人に問い掛けようとしたときには既に遅かった。
「あやつの息子と知ったからには本気でいくぞ。」
そこにはいきなり臨戦態勢に入った、鬼のような形相をした男が立っていた。
そして審査員があまりの恐怖に、なんの前置きもなく試合の開始を告げる。
とっさの事に対応できなかった俺は、いきなり相手に機先を制されてしまう。
気が付くと俺の身体は宙を舞い、地面に叩きつけられていた。
ダメージ自体は大したことはないが地面に叩きつけられる前に、顎に掌底を一発撃ち込まれ脳を揺さぶられた所に、乱回転を加えた背負い投げを受けてしまった。
「くっ……」
脳へのダメージはかなり深刻なようだ。身体がまともにいうことを聞かない。
俺がふらついていると老人が喋り語った。
「君の1回戦みたよ、肉体にだいぶ自信があるようじゃな」
「さすがの私も君に有効打を与える自信がなかったでな、搦め手を使わせてもらうよ」
ゆっくりと俺に近付いた老人は俺の胸にポンポンと軽く自分の拳を重ねていった。
避けようとしたが身体が動かない。得体のしれない攻撃をそのまま受けてしまう。
「ごふっ……!」
気付くと俺の口から鮮やかな鮮血が飛び散る。
どうやら内臓が損傷したようだ。鋼鉄の肉体を手にしてから初めての経験に、俺は目をぱちくりさせる。
「君の体表は固そうだからな。打撃を内部に浸透させたんよ」
「君の反応みるに初めての経験だろ?」
俺は初めての体験に衝撃を受けていた。
道理で初めの一撃を受けた時から内部に鈍い痛みがあるはずだ。
(さて、どうするか……厄介だぞこの攻撃……)
しばし考えを巡らせるが良い方法はみつからない。
「無駄なお喋りはお終いだ、いくぞ!」
会話を中断した男が再び襲いかかってくる。
攻撃を防ぐため、腕で防御をするが重い衝撃が鈍い痛みとなって身体に浸透していく。
どうやら防御をしても無駄らしい。
(あー頭がクラクラする……可愛い美少女に介抱してもらいてえなあ……)
こんなときにも俺はどうでもいい事を考えていた。
こうして一方的な攻撃を防ぎきっていると勝敗はいつの間にか決定していた。
攻めていた筈の相手がボロボロになっているのだ。
驚き慌てていたのは紛れも無く対戦相手の老人であった。
そして老人は俺に問いかける。
「な、なぜだ……?」
「そりゃあ俺の身体が硬いからだろ……殴ってりゃ無傷じゃすまねーよ」
とは言ったものの実際には僅かな隙をみつけては、相手の死角から軽微なダメージを与え続けていた。
「ばかな……ありえん……身体に負担をかけないように殴っていたんだぞ……?」
「あり得ないったってそれが事実だからしゃーないだろ……」
俺の動きが見えなかった相手に真実を語ったたところで無用だろう。語らないことこそがせめてもの情けだ。
「…………」
相手が押し黙ったところで、試合を終わらせる為に気合を攻撃に転ずる準備をする。
気合が溜まったところで、相手に最後の問いかけをすることにした。
「この一撃で試合を終わらせるが、なにか言い残すことはあるか?」
少し困惑した表情を浮かべる老人だったが、一つだけ俺に質問をした。
「……君の父親を倒したのは誰だ……?」
意外な事を聞かれた気がした。正直に答えてもいいんだがどうしたものか。
少し逡巡したあと静かに答える。
「さあな、顔すらわからなかったからな……」
「黙して語らず……か」
相手も何かを察したのだろう。俺の血塗られた過去を。
自分自身でもあまり思い出したくない出来事だ。
物思いに耽りながらも最後の言葉を告げる。
「……じゃあな楽しかったぜ」
最早語り合いなど無用。俺は最後の一撃を相手に放つ。
――が、その一撃は相手に届くことなく空中で霧散してしまう。




