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鋼鉄戦士と工匠技師  作者: 雪ノ音緋奈子
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夢の世界の王子様

 こんな所で見つかった日には変態の烙印を押されかねない。

 絶対に見つかるわけには行かないので、気配を殺しバレないよう神様に祈りながら俯せになる。


 そんなこんなで現在に至るわけだが、バレないよう身を潜めているのは物凄く辛い。

 俺がここにいる事をも知らない二人は、女子会トークに花を咲かせているが盗み聞きをしているのが心苦しい。

 聞いてはいけないような会話が垂れ流しになっているこの状況は、まるで死の行進曲。


 何のために今ここでこうしているのかがサッパリと思い出せない。

 どうして俺はこんな所にいるんだろうか、一刻も早く逃げ出したい。


「そういえばリーゼロッテさんは鋼鉄戦士さんの事をどう思っているんですか?」

「え? うーん……」


 上手いこと逃げ出す方法が無いか模索していると唐突にミリィーナが変な事を聞いていた。

 二人の表情を伺う事は出来ないが、リーゼロッテの声色からは困惑している様子が感じられる。

 

「どうなんですか?」

「友達……かな?」


 ミリィーナにしては随分グイグイと聞いている気がする。子供ゆえの無邪気さなのだろうか。

 そんなミリィーナに対して、お茶を濁すかのような面白みの無い発言をしたリーゼロッテに俺はヤキモキしていた。


(あんなに好き好きオーラを放ってたのに友達だと……!?)


 好き好きオーラは別に放っていなかった気がするが、少なくとも好意を抱いている俺からしたらショックだった事には変わりない。

 俺自身がリーゼロッテに対し、好意を抱いているという感情に驚きはない。

 初めて会話らしい会話をしたのがリーゼロッテだけなのだから無理もないだろう。


 言うならばリーゼロッテはアレだ。

 毎日、教室で一人孤独に過ごしている俺に対して、唯一声を掛けてくれる隣の席になった女の子だ。

 それまで女の子に縁が無かったのにそれ以降、ずっと声を掛けられれば誰だって好意を持ってしまうだろう?


 それがたまたまリーゼロッテだったというだけだ。

 誰かに問われたという訳でもなく、必死に頭の中で自分をフォローする姿は客観的に見て痛い奴だろう。


 これ以上傷つきたく無いので、二人にバレないよう静かに両耳を両手で塞ぎ会話を遮断する。

 地面をゆっくり這いながら会話が届かない所まで逃げるように去る事にした。

 

 時折、ミリィーナが何か気配を感じたかのように振り返る素振りを見せるが、終始気付かれる事は無く逃げ果せる事が出来た。

 辛い気持ちのまま部屋まで逃亡し、ベッドに潜り込みながら一夜を明かす。


 不思議な事にベッドの中に潜るとさっきまでの辛い気持ちは嘘のように消え、心地よいまどろみに包まれていく。

 毎夜、怯えていたあの頃とは違いこの世界には俺を脅かすものは何もない。強いて脅かすものがあるとすれば魔物ぐらいだろうか。

 



 浅い眠りの中、一つの夢を見ていた。

 俺は一国の王子だったが、国は魔物に滅ぼされ、国を追われ、両親は行方不明。

 魔物に復讐を誓った俺は日夜修行に励み、血が滲む思いで仲間を集め、領土を奪還していった。


 領土を取り戻していく内に、インターネットという未知の技術に出会い、世界各国に散らばっている王子の一人と連絡を取り合うことになる。

 その王子は俺より年上だったが、同様に魔物に国を追われた先輩王子だった。

 様々なアドバイスを受けている間にも、先輩王子は破竹の勢いで領土を奪還していた。俺はそんな先輩の事が大好きだ。


 ある日そんな先輩が「王子よ大志を抱け」と言った。

 素人童貞の俺は、先輩の言いつけ通り天使を抱いたんだが(難聴)強制わいせつ罪で文字通り昇天させられてしまう。

 俺の不浄な魂は、現世を彷徨い運良く先輩王子の元に転がり込む事が出来たが、先輩の傍に居られるのはあと僅か。

 今は只々、己の難聴を怨むばかり。


 


 目覚めるとベッドの横には朝食が置かれていた。

 何かの夢を見ていたよう気がするが頭の中にモヤがかかったように何も思い出せない。

 鼻腔をくすぐる朝食の匂いに惹かれ、考える事を中断し朝食へと手を掛ける。

 箸でご飯を摘み、オカズと共に喉に通す。


「美味い!」


 ご飯を咀嚼しながら堪能しているとテーブルに添えられたメッセージカードの存在に気付き、頬張りながら目を通す。

 そこには一言「元気出せ!」とだけ添えられていたが、その文面のみで誰が書いたものか判別出来る。

 俺はニヤリと笑いながら一日の始まりに感謝をし、朝食を食べ終えると再び二度寝をした。

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