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鋼鉄戦士と工匠技師  作者: 雪ノ音緋奈子
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休息の出来事

 気まずい空気が流れているが今更そんな事を気にしても仕方がないのかもしれない。

 不穏な空気を読み取ったのだろうか、オドオドしているミリィーナに話しかける。


「ミリィーナ、この翡翠石で俺達は帰れるのか?」

「あ、ごめんなさい。いい忘れてましたけどそれ一つじゃあ駄目なんです」


 唐突に話を振られ、驚いた表情のミリィーナは事実のみを告げ「あと9個程あれば大丈夫です!」と教えてくれる。

 俺はてっきり千個集めろとか、一万個集めろとか言われるのかと思っていただけに安堵した。親指を立てながらグッドポーズをする。


 しかしミリィーナにこの表現が伝わるのかはわからない、そして直後に一部の地域では侮蔑な表現となる事を思い出し「すまん!」と即座に謝る。


「ど、どうして謝るんですか?」


 表情を覗き込むと笑顔で微笑みながらも困惑しているミリィーナがおり、どうやら良い意味で表現は伝わっているらしい。


(ある程度、俺達と同じ人間文化は根付いてるという事だろうか?)


 この世界に来てから日が浅いので断定する事は出来ないが言葉が通じる以上、極度のボディランゲージはしない方がいいかもしれないなと感じながらも色々と聞いてみる事にした。


「少し聞きたいんだが、この世界に手話みたいなのはあるのか?」

「はい、たくさんありますよ!」


 そう言いながらミリィーナは多くの手話と共に対応する意味を教えてくれる。

 中には『裏切り者、助けて下さい、殺してやる、秘密を教える、好きだ』など侮蔑や好意を意味するような手話などが沢山あった。


 どんな用途で使うのかサッパリわからないが、ミリィーナ曰く彼女もほとんど使ったことがないらしい。

 試しに後ろを振り向き背後にいるリーゼロッテに手話で語りかける。


 途端にミリィーナが背後で「あわ、あわわわあ」と呟きながら赤面しているが当のリーゼロッテ本人はボケーっとしている。


「いいな、気に入ったぜ!」

「本当ですか!」

「おう!」


 二人してノリノリで話していると会話に入れないリーゼロッテが頬を膨らませていた。


「悪い悪い、じゃあとりあえず翡翠石探しに行こうぜ!」


 拗ねてしまったので本題に戻し様子を伺う。


「……そうね、お父さんも心配してるかもだし早目に集めておきたいわね」

「おう!」

「今から行くの?」

「いや、今日は疲れたから一日休んだほうが良くないか?」

「……それもそうね」

「じゃあ宿を探さないとな」


 この町に宿というものがあるのだろうかと思案していると「僕のお家に泊まってください!」と何とも有り難い提案を受ける。

 やはり持つべきものは友だ、小説の中の出来事を思い出し感極まる。


「じゃあお言葉に甘えようかしら?」

「だな、ミリィーナ世話になるぜ!」

「はい!」

「じゃあ明日に備えて各自休憩するように!」

「おおー!」




 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 



 あれから三時間が経っただろうか、あの後に夕食を食べ各自用意された部屋にて休息を取っていた。

 しかし現在、非常に悩ましい出来事が起こる事など誰が予想出来ただろうか。

 遡る事十分ほど前の出来事だ。


 俺がバカでかい屋敷を散策していると上機嫌に鼻歌をうたいながら歩いているミリィーナを見つけた。

 まぁ自分の屋敷だ、上機嫌に歩いているからと言って別段おかしいことではない。

 そう思いながらも気付かれないように気配を殺しながら後をつけていくと、リーゼロッテの部屋の前で止まり、緊張した面持ちでコンコンとドアを叩いていた。


(女子会でもするのだろうか?)


 そんな風に思いながら観察していると扉を開けたリーゼロッテと笑顔で会話をしている様子が伺えた。

 相槌をうちながら話しているのは見えるが距離が遠すぎて聞き取る事が出来ずにいた。

 しばらくするとリーゼロッテは一旦扉を閉め、扉の前には笑顔で待機しているミリィーナ。

 傍目から見るとご主人様の帰りを待っている犬のように見える。

 手にはカゴらしき物を持っているがアレが何なのかはまるでわからない。


 一分ほど経った頃だろうか、髪を下ろしたリーゼロッテが手に籠を持ちながら部屋から出てくる姿が見えた。

 一緒に手を繋ぎながら歩いている様は、仲睦まじげな姉妹のようだ。


 そんな様子にホッコリしながらも尾行することは止めない。

 仲間はずれにされたのが悔しいから尾行をしているのではない!

 純粋に気になるからだ。本当だ。


 そして僅かばかり歩いて行くと二人は引き戸を開け、見知らぬ室内へと入っていく。

 気配を消しながら戸の前に近付き、決して気付かれないよう戸に耳を押し当てる。


「………………」


 幾ら耳を押し当てようとも何も聞こえない。痺れを切らした俺は室内に侵入するため音を立てず引き戸を開ける。

 室内に鏡をそっと差し入れ人影を見渡し、誰もいない事を確認し急いで部屋に侵入。


「二人の気配を感じないな……」


 一体何処に行ったのだろうか、しばらく辺りを見回すが怪しい所は奥の扉しか見当たらない。

 しかしここは一体何なのだろう。木造で出来た物を置けるような棚が沢山ある。

 不気味な部屋だと言わざるを得ない。


 恐る恐る奥の扉をあけると水蒸気が俺目掛けて遅いかかってくる。

 視界を奪われ、濃い霧の中を手探りで進んでいく。

 足は水で濡れ、肌は湿気でヌチョヌチョ、全身は熱気で汗塗れ。


 息を潜めながら、慎重に慎重に歩を進めているとリーゼロッテ達の声が聞こえてきた。

 なにやらはしゃいでいるようだがここからではよく見えない。

 二人に気付かれないよう、素早く身を伏せて匍匐前進の体勢を取る。


 この時点で既に全身はずぶ濡れだが気にしない、それ以上に二人が何をしているのか純粋に気になるからだ。

 決して仲間はずれにされたのが悔しいからではない。


 一歩一歩確実に、気付かれないように進んでいく。

 もはや二人が何をしているのかなんてどうでも良い。

 今この瞬間、二人に気付かれず近付く事だけに集中しており、俺の目的と化していた。


 聴覚や視覚、全ての五感や感情が俺の世界から消え去り、ただ一つの目的を遂行するだけの機械となる。

 刹那に身を置き去り、俺ではない俺に身体を委ねる。

 幾許かの時間が過ぎた頃だろうか、気付けば俺はそこにいた。


 二人のおよそ1m手前。

 当然二人には気付かれてはいない。

 しかしこの距離に近付いてから俺はようやく気が付く。




(…………ここ…………お風呂じゃね…………?)

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